一緒に
サムとは一緒に住むことになった。
会社の独身寮を出なくてはならず、
現地の引っ越しの人に頼んで荷物を移動させる。
「ふう。仕事の合間にするとは結構な手間なのね」
「ただいま。もう荷物が届いたのか」
「ええ。これから荷ほどきするわ」
サムが借りているのは2LDKの広いタイプのものだ。
佳織の会社からはそう遠くはない。
「こんなところに住めるなんてお金持ちなの?」
「実家がこの物件を所有していて。名目上は借りているって感じかな。実質はもう住んで5年以上になるな」
「そんなになるのね」
サムがそんな不動産を所有しているとは驚きだ。
「ご両親はこちらの方なの?」
「母方がオーストラリア在住なんだ。だから色々持っているらしい」
色々ということはほかにもまだあるということ。
「へぇ。すごい」
「荷解きとか、無理せずにゆっくりすればいいよ」
「ええ。そうさせてもらうわ。サムはこれからジョギング?」
「ああ。夜のジョギングさ。体を使わないとなまる気がしてね。すぐに戻るよ」
サムは肉体維持のために運動を欠かさない。
明るい性格なのも筋力が関係していそうだ。
「うらやましいわ」
運動しやすい服装で玄関へと向かうサム。
「じゃ、その間に夕食を準備するわね」
今日の夕飯を考えるのが佳織の仕事のようだ。
☆☆☆
佳織が25歳になったとき、
オーストラリアでサンタのコスチュームをしていると話題になった。
女性も白髪にして、もこもこの髭をつける。そして毎年祝うのだ。
家族や友人と無事に過ごせたこと、食物への感謝を。
オーストラリアではいつものことだ。
女のサンタがいると日本のSNSで話題になる。
慣例でやっていることだが、日本でも注目を浴びているそうだ。
母親から電話がかかってきた。ちょうど仕事が休みの時でよかった。
『あなた、日本のテレビに出ているわよ』
「らしいね。仕事だもん。出ないわけにもいかなくて」
『もう。あんな姿で映るなんて。お嫁に行けなくなっちゃうわよ』
「もう一緒に住んでいる彼がいるから問題はないわ」
『何ですって。そんな人がいるなら紹介しなさい』
「嫌よ。彼のことを気に入らないのは目に見えているから。これからも合わせる予定はないから。よろしくね」
「よろしくって。顔合わせ位しなさい」
「じゃ、写真送るから。文句は言わないでよね」
あいにくとサムは今仕事中。
帰って来てから、サムに頼んでカッコいいと思う写真を選んでもらった。
「これかな。本当にいいのかい? 会わなくて」
「ええ、いいのよ。どうせ日本人と結婚しないなんて許さないっていわれるのがオチなんだから」
選んでもらった写真を送信すると3分もしないうちに電話がかかってきた。
履歴には母親の名前がずらりと並ぶが、もちろんでない。
父親からなら建設的な話し合いができるが、母は議論にはならない。
父親だけにはサムを紹介してもいいかなと思っている。
「久しぶりに日本食が食べたいわ」
やはり何年もオーストラリアにいると日本食を食べられる機会なんてない。
父親のメールに1人だけで来るなら、パートナーを紹介してもよいとメールしておいた。
「これってなんか脅迫みたいだよ」
「仕方ないの。母は絶対に反対だから。父さんには知らせようかなって思うの。メールに気が付くかわからないけど」
父親は機械音痴でメールを設定したっきり使いこなせてはいないようだ。
いつ返信が来るかわからない。
「その時が飽きたら協力してくれる?」
「もちろん」
「よかったわ」
「じゃぁ、僕の家族には会ってくれるかな?」
「いいの?」
「ああ。うちの両親は親日家だからすぐになじめると思うよ」
サムの両親に会う方がはるかに早そうだ。
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