恋愛の行方
オーストラリアにまた戻る。
出入国の慣れたもので迷いなくターミナルを進んでいく。
電車とバスに揺られながら決意を新たにする。
(アメニティーは整えてきたし、しばらくは生活は大丈夫そう)
今度から正規雇用での登用だ。
何やら遠慮されていた仕事も遠慮なく振られるようになった。
それだけ使える人と判断されたのだろう。
独身寮もそのまま継続で使っていいし、
上司の方は正式に歓迎パーティーを開いてくれるそうだ。
サンタクロース協会のアジア支部では
英語圏の願い事もあれば日本語、韓国語、中国語でも依頼が来る。
フランス語に限らず、様々な言語ができることはメリットなのだ。
「ほかの言語でもすらっと返信できるようにもっと勉強しておけばよかったかな」
中国語はなんとなく言っていることは分かるが、
韓国語となると意味はさっぱり分からない。
中国語はきっとこれだろうと答え合わせの感覚でネットで調べるが、韓国語やその他の言語では意味をしっかりと調べることが多い。
ダブルチェックもして意味の違いがないことを確認する。
住所があれば調べて望みの物を送りかえす。
ずっと子どもたちへの手紙を書き続ける。
ほんの時たま、サンタクロースの時期が来れば報道されることもある。
サンタクロースの模様推し物は年2回ある。クリスマスシーズンの前後に2回だ。
(あんまり受けたくないんだな。子供の夢を壊すかもしれないもの)
☆☆☆
正規雇用の仕事にも慣れて忙しくなってきたときに、サムから電話があった。
『こんにちは。正式に働くことになったんだ』
「素晴らしいじゃない。どこで?」
『シドニーで』
「ほんと? おめでとう。今度飲みに行きましょう」
『おう』
久しぶりにサムと会う。
「久しぶりだね。きれいになった」
サムは随分と筋肉質になっていた。ボディビルを目指しているのか、かなりの体格になっている。
「随分とたくましくなったのね」
「まぁな。今はジムの指導員になっている。いつもどうやったら筋肉質な体型を維持できるかを指導しているんだ。指導者がナヨナヨしていると説得力にかけるからな」
「確かにそうね。お酒飲んで大丈夫なの?」
「ああ。明日は水泳の授業はないからな」
「水泳まで授業を持っているの?」
「時たま。指導員が不足している時には入る感じかな」
「へー。すごいのね」
筋力があると結構自信が出てくるのだろう。
「なあ。一緒に住まないか」
「はぁ? 冗談ですよね」
「本気だよ。こんなの佳織にしか言わないさ。鈍感すぎる」
「どっ……んかん」
「あれほどアプローチしているのに上の空だし」
「えっと。あの」
なんだか獣を相手しているようでこわい。
律子にも散々弄られてきたことで自覚はある。
「それは結婚を視野入れた交際ということ?」
「もちろん。日本人は礼儀に厳しいんだろ。もちろん結婚を前提にしての交際だ」
「ウチの親って国際化に無理解なの。嫌な思いもたくさんすると思うの」
「関係ないさ。今まで怖い思いもしたんじゃないのか」
「皆無ではないわね」
「これからはそんな思いをしないように守るよ」
「じゃあお願いしてもいいかしら」
「もちろん。これで律子にもいい返事ができる」
「なんで律子が出てくるのよ」
「律子から助言貰ってたんだ。日本人女性がどうやったら喜ぶのか」
(確かに律子の提案だとしたらあれとかこれとかの発言の意味も分かるわ)
アメリカにいるはずの律子に罵詈雑言してやりたい気持ちもあるが、サムとの縁を取り持ってくれたのだからありがとうと言わないといけないだろうか。
(複雑だわ)
「律子を怒らないでくれよ。色々聞いたのは俺の方なんだから」
「そうなのね」
楽しい時間だったが、そろそろお開きだ。
「もう帰らないと。シドニーならもっと気軽に会えるわね」
「ああ。また」
サムは少し寂しげにうなずいた。
バタバタと明日の仕事に向けての準備をし始めたのだった。
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