動き出す夢

夢へ

 ☆☆☆

 面接を重ね、最終的に学園長が言った。

「それならば、2年の最後では間に合わなくなります。

 特別に先に行動することの許可を与えましょう」


「ありがとうございます」 


 専門学校の面接を済ませて、就労ビザを取りに行く。

 ちょうど求人が出ていたので申し込むことができた。

「ふぅ。やっとスタート地点にたてるわ」

 佳織は機会にも人にも恵まれている。

「これから頑張らないと」 

 日本でのバイト先にも話を通したが、

 やめることはなく休養ということにしてもらえた。

「君はよく働いてくれるからね。他の人を仕込むよりもいいんだよ。

 頑張っておいで」


「本当にありがとうございます」


 成功したらどうなるかわからないのに

 暖かく送り出してくれる人がいるというだけで涙が出そうだ。

 旅行準備ももうすっかり慣れた。スーツケースと手荷物をもって空港へと向かう。


「飛行機に乗るわくわく感をすっかりなくしてしまったな」

 2年生からは実習メインとなるので、ノートなどを頼む必要もなくなった。

 律子やほかのクラスメイトは自分の進路に忙しいのだろう。

(ほかの人の心配をしている暇はないな)

 出国手続きと搭乗手続きをするために歩き出したのだった。

 ☆☆☆


 フィンランドに行ったら、挨拶も早々に仕事を振られた。

「これくらいはできるわよね。仕分けして」

 差し出されえたのは英語の手紙。

 アルファベット順と国ごとに仕分けしていく。

 どれもこれもサンタクロースあてのものだ。

 英語で書かれているものが多いが、中国語であったり韓国語であったりもした。

「あなた、なかなか優秀じゃない」

 

 日本人は英語ができないと思われているらしく

 そんなに量は裁けないと思われている。

「これもよろしくね」

 ニッコリと笑った金髪美女にこれでもかとこき使われるのだった。

 美女はリオナといった。


 暖房を入れていても、寒さが勝つ室内。

 かじかむ指で書類整理はなかなかうまくいかなかったりする。

 紙で指を切ったりもしたし、紙をスムーズに取り出せなかったりもした。

「緊張してるの? 落ち着いて」

 などと声をかけてもらうことが増えている。

(寒さになれないのよ。寒すぎなのよ)

 仕事をしっかりと正確にこなしていく。

 

 期間限定のバイトとはいえ一度ミスをしたら取り返すのが日本よりも大変だった。

 1度ミスをしたら3回は確認されるようになったのだ。

「それは確実なの?」

「ミスはない?」

「きちんと確認したのよね?」

「しました」

 なんてことのない雑用なのだが、

 何度も確認をとられるとうっとおしくもなるものだ。

(駄目よ。私のためを思って言ってくれているのだから)

 日本とは仕事スピードも立ち回りの仕方も違う。

 休憩時間に独り言を言う。

「ここまで違うなんて」

 憧れていた仕事だ。慣れようと四苦八苦した。

 あっという間に期間限定のバイトは終了した。

「ありがとうございました」

「悲しいわ。また一緒に働ける機会があればいいのだけれど」

 上層部の話でここでは続けて働かせることはできないという。


「ここでは人数が足りているから雇うことはできないけれど、

 試験的にアジアでも支部を立ち上げないかという話が出ているわ。

 それに出てみる?」


「はい。是非お願いします」

「お世話になりました」

「口約束とはいえきちんと守るさ」

「ありがとうございます」


  専門学校2年生の冬に頑張って結果を出してからは、

 1度日本に戻って現状を報告することになっている。

 みんなの期待にそえる結果になってよかったわ。

 荷造りをしてフィンランドの空港へと向かう。


 ☆☆☆


 フィンランド出国手続きをして搭乗手続きまで時間をつぶす。

(今回はお土産なんて考える余裕もなかったな)

 観光で行くのと仕事で行くのとでは覚悟の度合いが違うのだと実感した。

(忙しかった思い出しかないけれど、得るものはあったわ。

 これから対策をしないとね)


 沢山の戸惑いがあった。

 英語を話せるとは言ったが、

 いろいろな言語が飛び交う中での仕事は神経をすり減らすものだった。


(まだまだね。英語のなまりについていけないとは盲点だったわ)

 綺麗な英語だけではない。

 日本で決まりきった英語より本場の英語は魔法のようだった。

「言葉は本当に生きているんだわ」

 沢山の戸惑いを経験し、日本へと戻っていく佳織であった。

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