お土産とノートの交換

 日本に帰るとまず友達の律子に連絡をした。

「おかえりなさい。結構たまっているよ。ノート類」

「お願い、見せて。お土産たくさん買ってきたよ」

 ドンとお土産を机に置く。

 ブランド物の時計やらチョコレートやらバッグやらいろいろと持ってきた。

「OK いいわよ」

 バッグを片手に律子は思い出したことを口にする。

「あと、帰ってきたらフランス語の先生が呼び出していたって伝えてくれって言われているわ」

「何だろう? 必要な書類は提出しているんだけれども」

 答えはすぐに分かった。

 復帰初日がフランス語の講義だったからだ。

「この度フランス語の語学留学してきた清水佳織さんに独自のレポートを書いてもらいます」

(やっぱり独学でレポートかぁ)


 うすうすそんな気がしていた。

 だから代表的な場所を選んでみてきた節も無きにしも非ずだ。

 そんなことを思いながらフランス語に置き換えるとどうなるのかと

 頭の中でシュミレーションしている。


「このクラスから実践で語学研修に行く志の高い方が在籍しているのは嬉しいことですが、有頂天になることなく、

 自分の行動が日本の価値を決めると心に誓ってください。

 あなた方一人一人の行動が国際社会においての評価に直結するのです。

 それが言語を学んだものの務めです」


 先生は力説する。


 話せることも語学研修できることもある程度恵まれた才能と経済状況がないとできないことだから感謝するべきことだと思う。

(ただねぇ、レポート大問3つは多いと思うの) 

「先生、これは全部フランス語での提出でしょうか?」

「もちろんです」

 他の課題よりも優先して取り掛かろう。

「あなたも大変よねぇ。はい、英語Ⅱと英語Ⅲのコピー。あとトークの授業はこのプリントね。もらっといた」

「ありがとーもう大好き」

「それよりサムとはどうなのよ?」

「どうって?」

「……マジで?」

「何よ」

「意外とにポンコツなんだ佳織って」

「どーゆういみ?」

「サムに聞いてみたら?」

「わかったわよ……サムに聞いてみる」

 佳織はタスクリストにサムに電話を追加している。

「じゃ、これからバイトの履歴書書かないとだから」

「うん、気を付けてね」

「見せてくれてほんとにありがとう」

 白紙の履歴書も鞄につめこんでいる。

 きっと行きつけの図書館に行くのだろう。

「サム、本当に同情するわ」

 そんな呟きは誰に聞かれることもなく、風と共に消えっていった。


 ☆☆☆


 課題をほぼ終わらせ、図書館から帰ってきた。

 電話してみたらどうかという律子の言葉に体が動いた。


「サム。電話つながってよかったわ」

『久しぶり。充実しているか』


「ええ。帰ってからは課題で大変なの。そっちはどう?」

『こっちも課題で大変なんだ。今夜は徹夜だな』


「そうなの。ごめんなさい。課題頑張ってね」

『おう。またな』

「うん。またね」


 佳織はスマホをポスッと枕へ放り投げた。

 まだ旅行気分が抜けきらない。相手のことを考えずに電話してしまうとは。

「どうしようかな。これから」


 サムにはオーストラリアに永住しないかといわれる。

「けど、日本も気に入っているんだよなぁ」


 今の状態が続けばいいと思っている。

 そんなことはできない。

 確かに近いのはオーストリアだ。

 治安も他に比べれば安心できる。


「オーストラリアも好きだけど」

 永住するほどなのだろうか。

 答えは出ない。

「あー。履歴書の清書とレポートを完成させないと」

 まだ自分には答えが出せない。履歴書の志望動機の部分とレポートを書いていく。


(もっとパキッと自分の中で答えが出たらいいのに)


 前ほど日本が嫌でなくなるのを実感している。

 永住権を手放す気はまだ起きない。


 自分がどう思おうと自分の戸籍は日本なのだから。

 安全すぎるほど安全な日本を手放せるほど海外に憧れていないことを思い知る。

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