バトル再び

「佳織。座りなさい」

 課題をしている図書館から帰ると母親が待っていた。

「食事にしてもらってもいいかな」

 テーブルには和食が並ぶ。焼き魚が美味しそうだ。

「はぁ。食べながら聞きなさい。またお見合いするわよ」

「またぁ?」

「今度はお見合いパーティーで相手を探してらっしゃい」

 チラシを突き出してくる。この町で行われるものだ。所謂街コンだ。


「いや」

「今度はきちんとした方が参加するものだって聞いたから」

「嫌です。前回の報酬としてフランス旅行に決めてます。お金よろしく」

 今回はつられる要素がない。

 まだフランス旅行に行けていないし、バイト先も見つけないと身なりの維持ができなくなってしまう。

「だいたい、街コンに来る年齢層知っているの?」

 母親は口を尖らせる。

「何よ。年近い殿方が来るに決まっているじゃないの」

「多分アラフォーのおじさまが来るよ」

「はぁ? そんなわけありません」

「ここ。年齢制限見た?」

「え?]

「40代大歓迎って書いてあるじゃない。旦那様が母さんと同世代になるなんて耐えられえないよ」

「う……そうね」

 細かな情報を見ていない母である。詐欺にあわないか今から心配だ。

「これからパリの旅行行ってくるから」

「はぁ。わかったわ。費用を出すから毎日連絡することと男性と一緒に行くこと」

「はぁぁぁぁ! 男性と一緒なんて無理に決まっているじゃない」


「当たり前です。こんなことで大切な娘を失うわけにはいかないの」

 こんな母だが、娘を大切に思っていることは分かった。

「男性ねぇ……」

 日本の安全さはわかっている。もっと汚らしくして性被害がないようにするつもりではあったが、何があるかわからない。外国は性被害だけではない。強盗や誘拐だってあるだろう。

(さて、誰に頼むかねぇ)

 佳織は男性の知り合いは多くない。

 今の専門学校も8割くらいは女性だし困ったものだ。誰に頼もうか。

 とりあえず相談だ。

 ご飯を大急ぎで済ませて、自室にこもる。スマホにかじりついて文字を打つ。

『律子ぉ。誰かいない?』

『サムに連絡してみればいいじゃない。費用は佳織のママ持ちで』

 国が違うがサムという手がある。

『さっそく連絡してみる』

 時差があまりないということはメリットだ。

 日程や考えていることを伝えたら了解の返事が来た。

『いいねそれ。僕を誘ってくれるのかい? ありがとう』

 

 3泊4日なら来られるという。

 ありがたい。


 これなら親の要望にも応えられる。

 あとはどこを回るかの候補をあげていく。

 エッフェル塔は絶対に入れたい。

「あとは凱旋門と、ルーブル美術館ね。

 ここは絶対に行きたいのだけど日程的に大丈夫かしら」


 サムに確認するとそれでいいという返事が来た。


 了承も大事だが、きちんと回る順番も提案してくれて非常に助かる。


「これで、あとはこっちの授業の兼ね合いを何とかしなければ」

 問題はフランス語である。絶賛宿題付きなのでどうカバーするか。

「ほかに見せてくれる人がいるかしら」

 そこの面で不安なのだ。数少ない知人に連絡をしてみることにする。

 母親には説明することで何とかなってほしい。

 ☆☆☆


 勝負の夕食だ。今日は父もいる。

「母さん、一緒に行く男性が決まったわ」

「その人はどこに住んでいるの?」

「オーストラリア……」

「日本人なんでしょうね?」

「いや、オーストラリア人と黒人のハーフらしいわ」

「外国人じゃない。駄目よ。あなたは日本人なのよ。

 日本人と結婚するのが筋ってものでしょう」


「イマドキ人種差別は流行らないよ。

 サムはきちんとした男性だから旅先でも安心だよ」


「そうとは限らないのが男性なの。いい? 自分の身は自分で守るのよ。妊娠なんかしてかえってきたら追い出すからね」

「ありえないわ。そんなことになるはずないわ」


 仲間は語学友達だ。どうこうなろうという下心は皆無だ。

 だいたい、サムにだってガールフレンドがあいるかもしれないし。


「あ、確認するの忘れていたわ」

 彼女をほっておいて女性と旅行なんていい顔するわけがない。

 電話で確認するとサムはゲラゲラ笑いだした。

『すみませんね。ガールフレンドもいないオトコで。だから佳織についてくよ』

「ありがとう」

 安心して電話をおわらせることができた。


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