お見合い

 あれよあれよと母に着付けをされて着飾られた。

「動きにくい。頭もいたいくらいだし」

 髪を結い上げられて、簪をさされる。


 ここまで完璧にされると京都に居る舞子さんを彷彿とさせる。

 

「それが日本の女子なの。文句言わない」

 玄関出るともうタクシーを呼んでいたようだ。

 手際の良さは見習わねばなるまい。

「さぁ、つきましてよ」

 母は日本女子を育てたくてたまらないらしい。

(旅行のため、旅行のため)

「ごめん下さい」

「お待ちしておりました」

 料亭で待ち合わせしている。

「こんな場所があるなんて」

「どう? 素晴らしい日本の光景でしょ」

(終わったら、どこに旅行に行こうかな)

 スーツ姿の男性と初老の女性が来た。

 後藤と後藤の母親だろう。

 母親は化粧がきつめだが、

 上品さはわかる。


「お待たせしました。さぁ、あなたの大好きな佳織さんよ」

「ど、どうも。お、お久しぶりです、後藤です」

「……初めまして。清水です」

 

 深く関わるつもりはない。

 これで2時間、間をもたせればいい。

(旅行はフランスに行ってみたいわね)

 どうせ旅費は親持ちなのだ。

 少しくらい飛行機代が高くなってもいいかもしれない。


「では、あとはお若いお二人で」

「ごゆっくりどうぞ」


 シーンとなる空間。


「で、なんで私を指名したんですか?」

「き、聞いていらっしゃらないのですか? 僕があなたを好きなこと」

「申し訳ありません。存じ上げませんね。

 大学で好みの女性を探されてはいかがでしょうか?」


「君がいいんです」

「わかりませんわよ。

 世の中にはほれぼれとする美人の方や

 かわいらしい方がいらっしゃいますもの」


「あなたです。あなたがわたしに優しくしてくれたから」

「私が?」

「ほら、数学の授業の時に」

「たしか数学は少人数制でAクラスとBクラスに分かれていたはずですよね」

「ええ。Bクラスでしたよね」

「……Aです」

「え?」

「だから、わたしずっーとAクラスでした」

「だって一緒にいた子がかわいい子でその人の友達で」

 佳織には言いたいことが分かった。

「あなたの目は節穴なの? それきっと由美よ」

「――由美?」


「ええ。汐田由美」

 由美は唯一数学が苦手でAクラスになったり、Bクラスになったり浮き沈みがあった。それを上回る国語があったから学年で指折りの才女になったわけだが。


「はぁ。帰ったら卒業アルバム見てみなさいよ。

 相馬愛さんと仲が良かったから。

 かわいい子ってその子のことじゃないかしら」

 学年一かわいい子として有名だった相馬愛さん。

 佳織は接点はなかったけれど

 確かにかわいらしい子で、

 由美と時々一緒にいたところを見ていたから知ってはいる。


「え? それじゃあ、勘違い……」

「では、勘違いが解けたところで、私は失礼するわ」

「あの、彼女の連絡先とか」

「あー。知っているけど、教えていいか聞いてみるわね」

 スマホを取り出し連絡する。

 バイトとかしていたらでられないはずだ。

『いきなり連絡してごめん。高校で後藤って男子生徒覚えている?』

 返事が来るまで待つ。

「とりあえずお茶しましょ」

「はい」

 30分も経たずに連絡が返ってきた。

『うーん。だれ? 覚えていないわ』

 彼にとっては残酷な知らせだ。

「……覚えていないらしいけど、連絡先聞いてみる?」

「お、覚えていない……」

「そ、そうですか。もう今日は帰ります」

「あら、そ」

「『由美に惚れているかもしれないオトコの話。

 覚えていないならご縁がないのよ。忘れてね』送信っと」

『はーい。よくわからないけど連絡ありがと』

 結局その場で解散ということになった。

「ありがとうございました」

 美味しいお食事もできたし、佳織的には満足だった。

 母親たちは満足ではなかったようだ。

「なんで、こんなお通夜みたいな雰囲気なのかしら」

「彼の人違いが原因です。

 私に言われても困ります。

 時間までいましたし、

 言われたことは終わりましたので。

 1回分の旅行代よろしくお願いたしますね」


 あんぐりと口を開けて固まる母親2人を残し、帰路へついた。

「さぁ、帰ったらレポートを清書するわよ」

 夕暮れから始めても提出期限には間に合いそうだ。





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