第三言語
英語の課題は最上評価をもらい、優秀なレポートとして廊下に張り出されている。
「恥ずいわ」
「まぁまぁ。胸を張りなさいよ。素晴らしいってことなんだし」
恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
律子はもっとすごい。
校長自ら学期の終わりに朗読されることが決まっている。
長い校長あいさつの代わりに閉めの挨拶に使われるのだから
どんな内容か気になるものだ。
「修了式楽しみにしているわね」
「あー。聞き流してくれて全然大丈夫だから」
ちなみに修了式はビデオで録画され、
次の新入生勧誘のテープの一部になる。
「憧れて入ってくる子もいるかもね」
「いないよそんな子」
「で、佳織は第3言語どこにするの?」
選択肢にはフランス語、ドイツ語、スペイン語とあった。
「そうねぇ。フランス語かな」
「私、ドイツ語にするわ」
希望通りに行くかは人数しだいだ。
「また人数オーバーなんてないといいわね」
「ほんとよ。選抜のためのレポートとか嫌だわ」
笑って話すが、現実のものになった。
「え? フランス語だけ選抜?」
説明を任された事務員の方は困った顔をして集まった皆に告げる。
「そうなのよ。人数が集中してしまってね。
これ、書いてくれる? どれだけやりたいのか形にしてね」
「何語で書けばいいんですか?」
「講師の先生がフランスの方なのよ。だからフランス語で書いて提出してください」
聞いていない。
英語はある程度浸透しているから
自分で探そうと思えば探せるがフランス語は完全に初めてなのだ。
講師に分かるようにレポートをかけるものだろうか。
「来週の火曜日までね。みんな頑張ってね」
「は?」
フランス語の講義はもしかしたら諦めた方がいいのかもしれない。
諦めて別の講座に振り替えた方が賢い選択かも知れないが、全力でやるのがモットーだ。急いで図書館へ駈け込んで、フランス文法について書いてある参考書をあさる。
「これだわ」
5冊ほど借りる手続きをして席に着く。
「自習室の終了時間ぎりぎりまでここでやるしかないわ」
参考書や辞書を活用して自分がやりことをアピールする。
サンタさんに関する仕事をしたいので各国の国の言葉に精通したいこと、
フランス語を学ぶことでヨーロッパの歴史の一部を知れたらいいと思っていること。
「こんなところかしら」
とりあえず下書きで埋める。あとは清書のみだ。
「もう時間ね。図書館が近くにあってよかったわ」
帰らなくてはならないが、
きっと帰ったらレポートどころではなくなることは分かっていた。
母との時間が憂鬱だなと思いながら帰路についた。
☆☆☆
「おかえりなさい。夕食出来ているわよ」
「うん」
「それと、これ」
母は何か固い冊子を渡してくる。
「これは?」
「お見合い写真よ。今度の日曜日、後藤君とランチの約束をしているの」
「それ、誰が行くの?」
もういっそ母が行って勝手に話をして盛り上がっていてほしい。
「何言っているの? もちろんあなたが行くのよ」
「だから後藤って誰よ?」
「ハンサムで勉学もできて今は東欧大学に通っていらっしゃるんですって」
「大学生なら大学で彼女くらい作るでしょ」
「あなたがいいんですって」
「どこの情報よ」
「彼のお母さまからのタレコミに決まっているじゃないの」
「成人しようとしている子供の恋愛事情に詳しい親なんて嫌だよ」
「そういうものなの。社会って」
「日本社会の嫌なとこよね」
「いいトコロじゃない」
「私はパス」
「そんなことできると思って?」
「その日はレポート作成で忙しいの。
母さんの自己満足の見合いなんてするつもりないから」
「へぇ。見合いに参加してくれたらこれからの学費と1回分の旅行費を親が負担しようって言ってもかしら」
「え?」
その条件なら、喉から手が出るほど欲しい。
「――アウダケ……だからね」
親からの条件にあっけなく陥落した。
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