留学期間

 オーストラリアの学校に行ってみると

 色々な肌の色、体型、髪色の人たちがいた。

(日本でこんなに多様な姿は許されないわ)

 そこには多様性であふれていた。


 英語で自己紹介をする。

「清水佳織です。宜しくお願い致します」

「カオリ?」

「イエス」

 肯定の意を示すとたくさんの人が寄ってきた。


 留学生なんて珍しいのだろう。

 さっそく質問攻めにあった。

「日本ってどんなところなのか」

「日本食とはおいしいものなのか」

「アニメやわびさびとは何なのか」


 断片的に聞こえてきた単語を連ねているからだろう。

 関連のなさそうな単語が聞こえてくる。

(アニメでわびさびを描いたものってなんだろう?)

 

 わからないなりに説明すると、今度は一層目をキラキラさせてくる。

(ジャパニーズカルチャーって人気があるんだなぁ)


「でも、所詮イエローでしょ?」

 どうやら肌の色を言っているようだ。

 わからないと思って侮蔑用語をバンバン使ってきている。

(残念だけど、全部理解できているのよね)

 もちろん英語で理解できることを復唱してみた。

「あなただって――で……で――なくせに」

 到底、聞くに堪えるものではなかった。

 面と向かって言われたのは初めてだったのだろう。

 涙目になってみんなの輪から離れていった。

「え?」

 反応がわからなくて首をかしげていると、


 黒人の女性からお礼を言われた。


「ありがとう。彼女はずっと肌の色で優劣をつけていて。

 不快な思いをした人は大勢いるの。

 気を悪くしないでね。

 あんな人ばかりではないから」


 どうやら人種においては今も根深い問題であるらしい。

 そんなことを知らずに日本の議論のようにしたつもりであったのだが、

 いわゆる論破してしまったらしい。


「雰囲気を乱してしまってすみません」


「どうってことないさ。いつもアイツは口が悪くてうんざりしていたんだ」

 輪に入ってきた黒人の男性は言う。

「俺はサム。よろしくな」

「よろしく」

「じゃあ早速校舎の案内だ。色々と見て回ろう」

「はい」

 サムと名乗った彼は佳織を校舎内を行ったり来たりする。

 食堂、理科室、家庭科室、いつもホームルームを受ける教室。

 

 校舎の隅々まで駆け足で案内するものだから息を切らしながら覚えていく。

「あ、ありがとう。でも私には少し回るスピードが速かったようだわ」

今も走り出そうとするサムに聞く

「ちょっと休める場所いきましょう……ねぇ」

「カフェに行こう。おススメを紹介するぜ」

「お値段安めの場所でお願いするわ」

 連れていかれたのは外国では有名なチェーン店らしい。

「おいしいわ」

「だろ。値段の割にここの店おいしんだ。豆からこだわっていてね」


(これは英語のスキルもコミュニケーションスキルも爆上がりね)

 驚くほどにすらすらと意見が出てくるときの方が多いのだが、

 あれを言いたいけれどもふさわしい単語が出てこなくてもどかしくて

 地団太を踏んでしまう。


「そんなに焦らなくていいぜ。こちらの友人たちと喋っているようで楽しいなぁ」

 そのようなことを言われるとは思わなかった。

「嬉しいわ」

「それじゃあ、学校でな」 

 こうして幕を開けた国外での生活。

 ホストマザーからの門限ギリギリまでサムと話をしていた。


 ☆☆☆

 かえってきた私を見て、ホストマザーのキャサリンは困った顔をした。

「あら、まぁ遅くまで何をしていたの?」

 興味半分、心配半分といった様子のホストマザー。

「キャサリン、学校の仲間と談笑していたの。遅くなってごめんなさい」

「大丈夫よ。もうお友達ができたのね。楽しい学生生活になりそうで何よりだわ」

「キャサリン、お願いがあるの」

「はい?」

「オーストラリアのサンタさん見に行きたい」

 ホストマザーのキャサリンは困った顔をした。

 今は5月の末。通常はサンタを見る機会はない。


「毎年、サンタの格好をして子供を悦ばせている人ならいるわ。

 最終日にやってみてくれるか相談してみましょう」

「ありがとうございます」

 優しい人たちばかりで本当にありがたい。

 留学生という身分を謳歌できそうだ。



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