留学準備とホストマザー

 3か月の実習。

 もうビザの申請を済ませてあり、そろそろ手元に届くころだ。

 オーストラリアの学校と提携しており、学生ビザを取得できる。

「あとは荷造りね」

 3か月分滞在するなんてことは初めての経験だ。

 ちなみにこちらの専門学校の単位としても認められる。

 外国の学校できっちりとこなせば帰ってくると最低卒業単位に届く。

 きっとほかの専門学校ではこうはいかないだろう。


 1週間分と少しの衣類と必要書類を入れると

 持っていけるものは本当にごくわずかだ。


「何をもっていこうかしら」

 思案していると心配したのだろう。父親がノックしてきた。

「はい。どうぞ」

「ビザが届いたみたいだぞ」

「ありがとう。これで必要なものはそろったわ。あと足りないものは何かしら……」

「語学を勉強するのだからほかに何をといわれても困るだろう。

 身支度に必要なものは入れたのか? 化粧品とか」

「必要そうな物は大体いれたし。あとは何か暇をつぶせるものかなぁ」

 そういえばと続ける。

「知人はゲームをするって言ってたわ」

 ゲームという言葉が出てきたが、父は首を振る。

「それは現地の人に失礼になるだろう。もてなしてくれるはずだろうし。あとはそうだな。現地で高いものと、ノートとペンを持っていきなさい」

 なぜに筆記用具を持たされたのだろうか。

「あとはケーキでも作ってあげなさい。向こうは和食の文化がないから同じものを調達できないだろう。ケーキの材料なら手に入るだろう」

「そうね。ホストマザーに焼くと喜んでもらえるかもしれないわ」

 優しい父が相談に乗ってくれている。

「ありがとう」

 母親にはなかなか向けられない笑顔だ。

 父は優しく受け止めてくれるから佳織は大好きだった。

 こうして長い留学の支度は整った。

「明日からだね。この部屋とも少しの間バイバイだね。おやすみなさい」

 バイトで長く部屋を開けていたとはいえ長期でいなくなるのは初めてだ。

「頑張るからね。サンタさん」

 小さな呟きは暗闇にこだました。


 ☆☆☆

 翌朝、一番早いバスに乗り、電車に乗り、空港へ着いた。

「はー。移動って大変なのね」

 キャリーケースの移動は意外にも重労働なのだ。

 道行く人はよけてはくれないし、

 公共交通機関に乗れば迷惑そうに顔をしかめる。


 佳織は飛行機を使うことも、国外へ出ることも初めてだった。


 女性のメンバーで仲良くしてくれそうな子を見つけた。


 名を小菅律子コスゲ リツコという。


「時差は少ししかないから時差ぼけというのはほとんどないわ」


 律子は国外に出たこともあるらしく、オーストラリアも2回目なのだとか。

「ふくよかな方が多いイメージね。あとは知らない方にも笑顔が多いわ」


「陽気なイメージを持っていればいいのかしら」

「それで間違いないはずよ」

 一度渡った人がいるというのは安心感がある。

 律子とは一番近くに配属になった。学校も同じになるという。


「さぁ、着陸よ。ほら、きちんとベルトを締めて。

 ここで機長の腕が試されるっていうからどんなものかわくわくするわね」

 噂では着陸の時が一番機長の腕に違いがみられるという。

「それ、本当なの?」

「聞いた話よ」

(オーストラリアのクラスは別っていうのがいい距離感よね)

 日本人らしく意気投合できる部分はして、他国の人との距離を大切にできる。


 たいていの場合において、ホストマザーはひとりずつ受け入れている。

 多数の生徒の受け入れは家計を逼迫しかねないし、語学留学の意味を半減させる。

 ホストマザーはウエルカムと笑顔で出迎えてくれて

 「ここがあなたの部屋よ」ときちんと説明もしてくれた。

 ありがとうとお礼を言って部屋に入る。

 カントリー調の部屋だった。

「ここが今日から過ごす部屋なのね」

 空港に降り立ったら、ホストマザーたちが歓迎してくれた。

 その時点で感動でいっぱいだ。

 ホストマザーを引き受ける人は温かい人ばかりなようだ。

 これから3か月、ここから現地の学校に通うのだ。

「頑張らないと」

 これから日常生活になれるために

 英語でたくさんの説明を聞かないといけなかった。

 まずはお風呂だ。



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