卒業と入学と

 年月の流れ早いもので高校3年生になった。

 由美とは3年間同じクラスになった。

 

 バイトは高校3年の冬まで続けるつもりだ。

 

 それなりに長く勤めているから教育係になったり、

 シフト管理の手伝いであったりと

 やることが責任あるものに変わってきていた。

 

 部活動ではさらに後輩ができた。

 新入生の佐々木咲ササキ サキ

 廃部は今年度もまたも回避された。

 廃部は免れたが活動が活発になる気配はなかった。


 いつものように授業が始まり、テストがあり、7月になった。

 今年は看病の年になりそうだ。

 おじさんが倒れたとおいうのだ。

「あなたもよくよくお世話になったのだからしっかりと看病なさい」

「はい」

 記憶にはないが、きっと幼いころに世話になったのだろうと思う。

 だから、病院に行って着替えを渡す。

「すまないねぇ。来てくれて」

「いえ。お大事になさってください」

「こんなに大きくなって。会いに来てくれるとは

 思わなかったよ」

「ありがとうございます」

「今年はサンタさん来れないだろうね」

「そうでしょうか。私は待っていますから」

「そうかい」

 おじさんは悲しそうに背中を丸めている。

「じゃ、時間があったらまた来るね」

 思わずそう言ってしまった。

「本当かい。ありがとう」

 ぱぁっと満面の笑みに代わる。

「うん。またね」

 そう言って病室をでた。

「メリークリスマスいえるかなぁ」

 おじさんは末期のがんで余命も受けている。

「あと一回会えるかどうかかな」

 苦しい呟きは誰にも届かないほど小さく、消えっていった。


 拓郎おじさんは危篤になる前に録音機に自分の声を録音していた。

『メリークリスマス サンタクロースより』

「これで良し」

「なんだい? 吉木ヨシキさん。まだ信じているのかい?」

「いいや。昔からサンタクロース役をしているのさ。今回で最後になりそうなもんで吹き込んでいるのさ」

「どうだい? きちんとサンタに聞こえるかい?」

「ああ。ばっちりだ」

 同室の女性は笑う。

「喜んでもらえるさ。きっと」

 10月の終わり、ひっそりと亡くなった。

 

 ☆☆☆


「え? 亡くなったの?」

「ああ。葬式に行くぞ」

 制服を着せられて、斎場に向かう。

「そうですか。ありがとうございます」

「佳織、これは君にだ」

「え?」

 何度も使った跡がある録音機。

「これは?」

「サンタさんからのちょっと早いお祝いだ」

『メリークリスマス。サンタクロースより』

「あの人が、サンタさんしてくれていたの?」

「ああ。佳織もきちんとお別れを言いなさい」

「今までありがとう。サンタさん」

 勝手に涙が出てきて困る。


 ☆☆☆


 あっという間に卒業になる。

 卒業式当日。

「早いなぁ。

 もう卒業だなんて」

「由美は進学かぁ」

 

 由美は大学院進学を目指して理系の大学に進学するようだ。

 佳織と同じく万能型なため理系文系どちらでも行ける。


 高校3年終わりで、受験ギリギリからでも進路変更ができたのだ。

「佳織が4大行かないなんて意外だなって」

「だるいもん。そんなに勉強熱心じゃないって」

 

「そうなんだぁ。理系でも行けたでしょうに」

「確かにそうなんだけれども。興味ないし」

 確かに理系にも文系にも行けるようにしてある。

 内申点も高い。

 けれど興味関心が向かなかった。

 私の関心は「海外に行ってみたい」だった。

「そっかぁ」

「じゃあ、頑張ってね」

「うん。頑張るね」

 お互いに励ましあって別れた。


 お互いに無理のない範囲で連絡を取り合っていたが、

 お互い夢が違うのでこれからはあまり会わなくなりそうだ。

 分かっていたことだ。高校は通過点でしかない。

 これからの進路を一緒に悩んだ仲というだけ。


 進学校へ進めば進むほどにドライな考えが支配する。

 友人というよりもライバルでありいつかは敵になる存在。

 

 腹の探り合いはしても心から安らぐ相手には程遠い。


 だからこの学校の距離感はここちよかった。

 

 きっと異質であろう私たちを受け入れてくれて

 最後には集合写真を撮ろうといってくれる。

(不思議な学校だなぁ)

 暖かい学び舎とはこのことを言うのだろう。

(見ていてね。サンタさん、きっと夢をかなえるよ)

 決意を新たに進学をするのだった。

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