留学準備1

 専門学校はあいさつもそこそこに留学の話になった。

 初めは10人ぐらいの集まりだった。

 入学前に出された英語のテストの点数によってクラス分けされたようだ。

 佳織が入ったのは一番できのいいクラスであったようだ。 

 皆の話題はトイックの点数になった。


「何点取ったの?」

「960点かな」

「すごい」

「やるわねー」


 でもそんな話題はすぐに流れた。

 皆、自分の目標のために来ているのだ。


 仲良しグループはできず、幾人も人が交錯する社交場に姿を変えている。

 恥ずかしがり屋の日本人らしからぬ光景だろう。


 ちょっといい点数を持っているくらいでは何とも思わない。それが心地よかった。

 なのに一人のいった言葉にイラッとした。


「じゃあ、頼りにしているね」

 そんなことを投げかけられて嬉しくはない。

 ここには自分の実力で勝負しようとしている生徒と

 自分のために利用しようとしている生徒が混ざり合っているらしかった。


(結局、レベルとか上とか下とか言っていても人間的にどうかと思うのよね)

 留学先は3つのルートからなら無料となる。


 フィリピン、ハワイ、オーストラリア。


(私はこのルートかな。バイトはしてきたものの先々のことも考えれば留学費用を安くするのは重要だわ)


 オーストラリアが無難だろう。


 就労ビザもとりやすそうだ。

「人数が偏ったので、面接をして決める」

 講師の先生が言った。事前に説明されたのは会話はすべて英語であること、

 自分はどれだけ熱意があるのかプレゼンすること。


(なら出来そうだわ)


 自信満々な佳織をよそに不安な生徒は質問してくる。


「面接で落ちた生徒はどうなるのですか?」

「今回一番人気のない場所に移動してもらう。今のところはフィリピンだな」

 ざわりと皆の空気が変わる。

 希望とは遠い場所に行くことはこれからの人生において及ぼす影響は甚大だろう。


「頑張ろうぜ」

「英語でスピーチってことだよね」

「不安だわ。筆記なら自信あるけど、文法とか大丈夫かしら」

 不安に駆られる生徒が大半の中、自信満々の人がいた。


「なにビビってんの? こんなの余裕じゃなければこの学校受けるなよ」


(確かにそうだけれど、こんなにはっきりみんなの前でいうとは日本の常識が欠落しているのかそれともよほど自分のスキルに自信があるのか)

 佳織には真偽のほどはどうでもいいが、何とか希望が通ってほしい。

「頑張りましょう」


 とはいっても佳織には頑張るほどの場所がよくわからない。

 先生はプレゼンといった。ただの会話ではない。

「2週間後に面接試験をするから準備するものはしっかり準備して臨むように」

 ザワザワとしながら、その授業は幕を閉じた。


「ねぇ、どんな準備するの?」

「んーっと。自分がどうしてそこを希望するかを話そうかな」

「え? 確認するの文法とかじゃないの?」

「大体頭の中に入っているし、ビジネス面でそんなの確認する余裕ないじゃない」

 聞いてきたクラスメイトは望む返答ではなかったようだ。

 ムッとしながら帰ってしまった。


 ☆☆☆

 学校はそれからも英語主体の授業が続く。

 それが嫌だと早々に悲鳴を上げた生徒はなるべく英語を使わないジェスチャーで乗り切ろうとしている。


(そんなことが続けば指導対しようだろうに)

 やはりそれを見逃す先生ではないようだ。


 3回続けば呼び出され、その後姿を見なくなった。


(下手にごまかしをすれば何かしらのペナルティーがあるってことか)

 その後どうなったかわからないが、その後彼を見かけるものはいなかった。

(偏差値としては低いが内部はきっちりと評価主義なんだなぁ)

 案外しっかりしている学校である。


 あっという間に2週間後になった。

 その間、必死に文法を復習するものもいれば、英単語を確認している者もいる。

 果てさて、彼らの努力は実を結ぶのだろうか。


 

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