親たちの想い
家族がそろう夕食後、
佳織は「英語の勉強する」と自室へと行ってしまった。
「この頃、英語への執着がすごいのよ」
「元からじゃないか。
もしかしたら英語圏の留学を考えているのかもしれないぞ」
「やめてよ。英語圏なんて安全じゃないわ。
女の子なのよ。海外には出ずに日本で過ごすべきよ」
「しかしなぁ。あんなに英語を熱心に学んでいるんだ。
それに高校ではバイトするとも言っているし」
「だから危険だわ。女の子がそんなことして、みっともない」
「はぁ。お金を稼ぐ大切さを学生で知ることだって必要なことだぞ」
「拓郎おじさんだってきちんと書いてくださったんだ。
最後まで見守ろうじゃないか」
幼いころからサンタクロースを演じてくれている拓郎おじさん。
流石に年のせいか腰が曲がって杖が必要になったらしい。
それでも笑顔は変わらずに今回も協力してくださった。
「いつまでできるかわからないが、できる年は協力するよ」
年金生活も苦しいようだが、協力してくれる。
本当にありがたいことだ。
世間では両親がサンタクロースをするものらしいが、
夢がないからといったのは妻だ。
こんなにもサンタクロースに執着する子になって不服らしい。
「あの子が海外行くときには絶対に止めますから」
「親の言うとおりになる子かね」
今も推薦を決めて、働きたいバイト先を物色しているところだ。
今日も今日とて彼女は夕食の席でこう話す。
「バ先の候補、ここは制服が可愛くないし」
唐揚げを食べながら、娘は思案顔だ。
「あそこは時給が最低限らしいし」
まだまだ親に聞いてほしいのだろう。
出来る限り肯定してやる。
「そうかい。じゃやあそこはどうかな?」
「うーん。ありかも」
「詳しく調べてみるといい」
「あなた!」
「いいじゃないか。そこまでこだわらなくっても」
「レベルを落として学校に入ったんだから
今までの成績は維持して頂戴。あと家事もね」
「はぁ。わかってます。水曜日は必ず開けるから」
「ならいいけど。英語と国語は必ず5をとるのよ」
母親はヒステリックに学校の成績を重視している。
「はーい。これ、最終的な成績ね」
中学最後の成績を見せる。
「いい? このレベルを継続してよ」
「はーい」
母親には同じトーンで返事をする。
他の言葉だとまたヒステリックに
なりかねないから無難な返事をする。
食器を片付けながら卒業式の話をする。
「卒業式あるけど、感染症の影響でご家族様お一人だって。
どっちが来るのか話し合ってきてね」
「わかったわ。お母さんが行くわ」
「はーい。よろしくおねがいします」
きっちりと家事を終えてから
自室に戻って英単語の勉強をする。
英熟語と英単語はいくら勉強してもいいくらいだ。
やることは尽きない。
☆☆☆
迎えた卒業式の日。快晴である。
名前を呼ばれて卒業証書をうけとる。
ある同級生は看護師を目指し、
ある同級生は保育士を目指す。
またある同級生は社会貢献だといい、
外国に行くのだといっていた。
(私の夢は馬鹿にされるから誰にも言えない、まだ)
作られた道を通って自分の席に戻り、
校歌と卒業ソングを歌い、解散となる。
同級生たちは泣き、笑い、それぞれの進路へと歩んでいく。
数少ない友人と言葉を交わし別れた。
(もう会うこともないだろうな)
勉強ばかりだった中学生生活。
どこかでおしゃべりすることもなかったし、
学校以外で話をすることもない。
薄い人間関係だ。
「またね」
ライバルでもあった学年1位の子。
仲が良いとも言えず、悪いとも言えない。
でもほかに会うこともなかった。
高校では何か心に残る人に出会えるのだろうか。
(これからだ。自分の夢に向かって頑張るの)
バイト先の候補も決めた。履歴書も書いた。
髪も黒を維持している。
これから自分の夢をつかむために行動できる。
固い決意を胸に高校へと進学するのだった。
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