第7話

仮屋は買いもの籠を片手に、食品を物色する。

時刻は閉店時間に近く、陳列されている商品は少なかった。割引のシールが貼られた焼き鳥のパックを手に取る。最後の一つであった。


先ほど、隣人の家の前を通り過ぎる時に、人の気配を感じた。キッチンの窓に映る人影、きっと食事の準備でもしていたのだろう。

なんだか、殺気だったものを感じたような気がした、それも一瞬だったので、気のせいだったのであろうと思う。

ただ、何故だか小林涼風という女には、気を許せない。そんな感じがしていた。


「仮屋さん」背後から唐突に声をかけられて少し身構える。焼き鳥を手に真剣な顔をした男は、周りから見ると滑稽であろう。まるで声の主と売れ残った焼き鳥を取り合っているように見えているかもしれない。


「お前は……、黒澤か?」目の前には、20代後半と思われるカジュアルな格好をした男性の姿があった。


「久しぶりっす!」男は悪戯っぽくウインクをした。


「お前は……、どうしてここに!?」少し鬱陶しそうな顔をしながら焼き鳥を籠に入れた

。正直関わり合いになりたくないというのが本音であった。


「焼き鳥っすか?うまそうですね」ニヤリと微笑む。


「やらねえぞ!黒澤、答えろ。どうしてお前が大阪にいるんだ?」仮屋は黒澤に背を向けるとレジの方向に向かって歩き出した。会話はするが、出来るだけ顔は合わしたくないという意思表示であった。


「なんだか連れないな……。もちろん仕事っすよ!仕事!」黒澤は頭の後ろで手を組むと戯けたように仮屋の後ろを着いてくる。


「仕事って、何を調べてるんだ?」


「うーん、今はまだ話せないです。っていうか……、まだまだ、これからなんで……」


「だったら、何しに俺の所に来たんだ。お前……、また何か企んでいるのか?」眉間に皺を寄せてから、それを伸ばすかのように左手で額を擦った。この男に感情を悟られる事は良い気がしなかった。


「企むって、人聞きの悪い。ただの……、そう、挨拶ですよ、挨拶。また、色々とお世話になるかもしれませんからね」そういうと黒澤は目の前で手刀を切ると、踊るように軽快に姿を消していった。


「疫病神が現れた……」仮屋は大きく失望の溜息をついた。まるで、それを合図にしたかのように閉店の音楽が鳴り出した。


会計を終わらせた焼き鳥をビニール袋に詰めると家に帰ることにした。

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君の瞳に映るもの 上条 樹 @kamijyoitsuki

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