第6話

涼風は、ノートパソコンを見つめていた。

その画面には、数字を羅列した物が並んで表示されている。何かの法則があるようだが、それを解読する事は困難であろう。


「そんなこと言われてもね…」彼女は数字に一通り目を通すと、頭に手を組んで伸びをした。その顔は明らかに面倒くさそうな気持ちを表していた。

ノートパソコンの液晶画面を倒してから、お腹の具合を確認するように押さえるとキューと音が鳴った。椅子から立ち上がりキッチンに向かうと、先ほど作ったカレーの鍋を温めなおす。


唐突に、部屋の外からドアを開け鍵を締める音がした。彼女は視線を廊下側の窓に移す。人影が通り過ぎていく。どうやら、隣人が何処かに出掛けるようであった。さしずめ、コンビニエンスストアに買いものというところであろうか。


涼風は、鍋が焦げつかないように、ゆっくりとかき混ぜた。


彼女は、隣に刑事が越してきた事に、少し警戒していた。偶然なのか、それとも……。

どちらにしても用心するに超したことは無い。今回のミッションの障害になるようであったら尚更であった。まず相手の動向や意図を探る事にした。

顔を覚えられる事にリスクはあるが、それを最低限に抑えるだけの対策は講じているつもりであった。


伊達眼鏡を外して、メイクを取ると、彼女の顔は見違えるように変わっていた。そこには美しい女豹のような、鋭い目つきの女の姿があった。


「全く、こんなまどろっこしい任務、本当は苦手なんだけど……」ブツブツと文句を言いながら、皿に盛ったご飯の上に温めたカレーをかけるとリビングのテーブルに座り、食事を始めた。


「あら、美味しい!」自画自賛した女豹の顔がほころんだ。


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