第12話 両軍激突
はぁい、こんにちは。今回、遂に戦艦グロリアーナと戦艦アルマダは対決の時を迎える事になるわ。クロードはアニマを救い、この世界の“星の生命”を守る為。ライルは愛するフレイを取り戻す為。対するディザは、エリストリールに勝利し、この世界の“星の生命”を奪い取る為。果たして、最後に勝つのは一体誰になるのか?では、始めましょう。冒険者達の物語を。
帝国領、トリスタンの居城。宴の夜が明け、戦いを告げる朝日が戦艦アルマダを照らす。トリスタンを始めとする8名は、軍服に着替え大広間に定刻通りに集合する。
「全員集まったようね。では改めて作戦目的を説明するわ。目的は、敵オベリスクの撃破及び敵戦艦グロリアーナの撃沈もしくは航行不能。今のアナタ達はアタシの私兵であって帝国民を保護する義務は無いわ、持てる力を存分に発揮して戦いなさい。」
『はい!』
「では具体的な指示をディザ大佐から。」
「ああ。説明の前に、各自の部屋にオベリスク専用のヘルメットと戦闘服をモモニ族に配布させた。オベリスクが攻撃を受けた際に発生する痛覚の共有を軽減する効果がある優れものだ。使ってくれ。」
エメラルドが、サッと元気よく手を上げる。
「大佐、質問であります。」
「何だ?」
「いつ、私たちの服のサイズを調査したのでありますか?」
「お前が余程のデブじゃなければ服の方が身体に合わせてくれる。心配するな。」
「了解であります。」
「続けるぞ。対象となる敵オベリスクは三機。一機がエリストリールと呼ばれる白いオベリスクだ。コイツの相手は俺のギシリトールが受け持つ。ヤツの性能はギシリトールと同じSS級だ。お前達はヤツの攻撃範囲から離れて戦闘を行う様、心掛けろ。次にライルのアゼルファーム。機体はA級だがその戦闘力は極めて高い。よってこっちもピジョンブラッドとラフィーノース、最大火力を持つ二機をヤツに当てる。ピジョンブラッドは近接戦でアゼルファームの動きを止め、ラフィーノースは最大火力の火炎魔法で二機とも巻き込め。耐火性能の高いピジョンブラッドなら十分耐え切れる。最後にアグリコーン。ステビアが乗るこのA級機体はサファイアのベルベティ、エメラルドのスマラグタスのS級二機で応戦する。前にも言ったが、ステビアも伊達に特務中佐を名乗ってはいない。その強さは昨晩、トリスタンにも説明を受けたはずだ。スマラグタスの加速は十分相手の脅威になる。同士討ちだけはくれぐれも注意しろ。最後にガーネットはデマントイドで遠隔攻撃によるかく乱を行え。そして隙をついて敵戦艦グロリアーナを攻撃しろ。敵のオベリスクが出撃した場合は撤退、後方待機中のトリスタンのジアゼパムと共闘する事。トパーズは艦長代理としてアルマダの運行を管理。交戦中はトリスタンの指示に従え。・・・トリスタン、追加事項はあるか?」
「そうね。ディザ、オベリスクは強い意志を持つマジックアイテムを増幅させる力を持つ、だったわね?」
「ああ、そうだ。」
「なら、ライルの持つ長剣“ティアマト”も脅威と考えるべきね。あの剣には彼を守護する強力な意思が宿っている。その力を封じるのはフレイ、アナタしかいないわ。だからこそ、アナタをスカウトした。」
トリスタンの言葉に、フレイは不敵な笑みを浮かべ、頷く。
「だからといって先走るなよ、フレイ。お前はルビーの指揮下、という事を忘れるな。」
「分かってるわよ。むしろ、そのライルってヤツの強さが今から楽しみだわ。」
フレイの言葉に、ディザは思わずトリスタンに詰め寄る。
「おい、フレイの記憶に何の操作をした?」
「戦闘に集中する為の強化魔法みたいなものよ。さぁ、もう出撃の時間よ。」
「チッ。」
ディザは整列するルビー達に対し、改めて鼓舞する。
「お前達、全員生き残れ。俺からの命令だ。以上、準備が整い次第、アルマダに乗艦せよ!」
『了解!』
こうして、アルマダは南東へ進路を向け出航する。その先に待つ敵戦艦グロリアーナを目指して。
一方、戦艦グロリアーナは、皇都へ向けて航行を進めていた。ライルはフレイの情報を聞いて以降、自室に引きこもった状態が続いていた。ステビアもまた、そんなライルに掛ける言葉が見つからず、彼の部屋の前でただ座り込むだけの時間を過ごしていた。
「あらぁ、ライルさんは、まだお部屋から出てきませんのですかぁ?」
ステビアに声を掛けたのは、モモニ族と共に食事を運んでいたソニアだった。
「はい・・・。私も彼が立ち直るのをずっと待っているのですが、敵は待ってはくれません。」
「そうですねぇ。少しライルさんとお話させてもらってよろしいですかぁ?」
「ええ、どうぞ。しかしドアは鍵をかけています。不用意に・・・。」
ステビアの忠告が終わる前に、モモニ族がドアのコードを解除する。解除の電子音と共に、ドアは音も無く静かに開く。
部屋の中には食事に手を付けず、ベッドに座ったまま自らの足元を見つめるライルの姿があった。ソニアは部屋の明かりを付けると、ライルに向かって優しく微笑む。
「ライルさん、お食事をお持ちしました。」
「要らん。さっさと立ち去ってくれ。」
「でも、ライルさんは戦場で戦う戦士です。食べて力を蓄えてもらうのも私の管理義務なのです。」
「俺にはフレイと剣を交える勇気が無い。トリスタンがフレイを攫った、という事は何らかの策をあの男は講じたはず。でなければ、俺達二人をあのまま見過ごすはずは無い。」
「という事は、ライルさんは最初、フレイという人と亡命するつもりだった、と?」
「ああ、だが彼女は義父である皇帝ガリウスの元へ去った。彼女の強さはガリウスにとって“切り札”といえるものだ。最後まで手元に置く、と読んだ俺は、帝国を亡命し、エリストリールを持つ君達に頼った。何か良案が無いか探す為に。しかし、フレイはトリスタンの手に渡った。かつてトリスタンは人の持つ潜在能力を引き出す研究機関の一員だったと聞く。その研究は頓挫し、研究所も閉鎖されたが、その研究はソウルスティーラーという、怪物の魂を吸い上げる事で、所有者の魔力を強化する武器の開発に流用され成功に至った。トリスタンがフレイを兵器として使うのなら、ヤツはフレイの心を殺す。しかし、俺はそれでも彼女を救いたい・・・。」
「なら、起こして見せればよいのです。奇跡を、ライルさん自身の手で。」
「奇跡、だと。バカな、この世界に君の言う神など存在はしない!」
「奇跡はただじっと部屋で籠っていて手に入るものではありません。先程述べたように、ライルさん自身の手を起こすのです。」
「俺が・・・起こす?」
「今は暗闇の中を歩いているだけかも知れません。でも、共に歩んでくれる人がライルさんにはいます。私達も、多くの冒険でくじけそうになりました。でもその前には、常に諦めないクロードの姿がありました。ライルさん、貴方の望む奇跡は私達の望む奇跡でもあります。それをどうか忘れないでください。」
ソニアの手がライルの手をそっと握る。
「ありがとう、ソニアさん。俺は臆病になり過ぎていたようだ。君の言う通りだ。可能性は限りなく低くとも、俺はフレイを取り戻す!」
「立ち直ってくれて良かったです。後は、心配をかけたステビアさんに謝っておいてくださいね。」
ソニアは食事を取り替えたモモニ族と一緒に部屋を出る。
「ステビアさん、後はよろしくですぅ。」
「ありがとう、ソニアさん。“神を信じる”という事は言うほど悪くないのかも知れませんね。」
「この世界に住む大多数の人々は心も身体も弱い存在です。魔法は災害や身体の傷を癒しますが、その人の幸運や不幸には影響しません。だから、私達は常に選択するのです。自分なりの最善の一手を。」
「力を持つこその責任、ですね。では失礼します。」
ステビアはソニアに一礼すると、ライルの部屋に入りドアを閉じる。
「さて、食事の配給はまだ終わっていませんよ、皆さん、急いで回りましょう!」
「イエス、サー!」
こうしてソニアとモモニ族は再び配給に回るのであった。
その頃、クロードはアニマの部屋に居た。シャルロッテ、というアニマとしての力を制御する人格が強く出てきた事で、戦いに対する恐怖が彼女を縛り始めていたのだった。
「クロード、私怖い。今まで当り前のように出来た事がとても怖い。」
「アニマ、今の君は、あの帝国の惨状を見た事で、君の王国が滅ぶ様子がフラッシュバックしてしまい、それが恐怖として君を畏れさせている、とボクは感じている。でもそれは人として当たり前の事だ。君が悪いわけじゃない。エリストリールの中核(コアユニット)としての高い適性を自分の娘が持っている事を知った君の父上の苦悩は相当辛いものだったと思う。でも君は自ら望んでアニマとなる事を父上に申し出た。エリストリールの記憶はボクにそう語ったよ。」
「ワタシが・・・望んで。」
「ボクはアニマの願いを叶える為にここまで来た。でもアニマの力が無ければボクはエリストリールを満足に動かせない。アニムスの野望を阻止する為、ボクに君の勇気を貸して欲しい。」
「・・・クロード、お願いがある。」
「何かな?」
アニマはクロードと共に部屋を出ると、艦橋に行きセラに艦長室への入室許可をもらう。
「セラまで着いて来なくても良いのに。」
「今は私の私室だ。勝手な行動をされては困る。」
艦長室、それは可愛らしい意匠でデコレートされた年頃の女の子が夢見るお部屋と化していた。
「これは手際の良い事で。」
苦笑するクロードに対し、セラは不貞腐れながらも釘を刺す。
「イズには、この事を漏らすなよ。私の心の安息を壊されては、堪ったものでは無い。」
「も、もちろんさ。」
そんな二人の会話を他所に、アニマは一つのクローゼットに手を当てる。するとクローゼットは音も無く開き、彼女は一つの白地に赤い竜の意匠を施したヘルメットと戦闘服を取り出す。
「エリクシル家の紋章は、赤き竜。これは、父クローヴィスが着るはずだった戦闘服。この服があれば、アニマの力で吸収している搭乗者への痛覚を軽減できる。」
「着るはずだった?」
「グロリアーナの出航を優先させた。父上は少しでもアルマダの追撃を遅らせる為に、私だけを乗せて王国に残った。クロード、どうかアナタにこの戦闘服を着て欲しい。そして私と共に戦って欲しい。私も戦いの恐怖から逃げない。」
アニマの言葉に、クロードは優しく微笑むと彼女の前に跪き、ヘルメットと戦闘服を受け取る。
「確かにお受け取りしました、お姫様。」
「今まで通りアニマで構わない。貴方に私の勇気を・・・!!」
その言葉を終える前に、アニマは大きく崩れ落ち、床に倒れる。
「アニマ?!」
「来ます。アニムスが・・・他のオベリスクを引き連れて。」
「セラ、戦闘準備だ。急いで艦橋に!」
クロードの声にセラは頷くと、かけ足で艦橋へ戻っていく。
「セラ、ちょっと待って!」
クロードは何を思ったか、セラの後を走って追いかける。
「どうした、急げと言ったのはお前だぞ。」
「一つ頼んでおきたい事がある。」
次にアニマの気が付いたのは、エリストリールの目の前だった。抱きかかえていたのは、エリクシル家の戦闘服に着替えたクロード。
「気が付いたかい?」
「はい。とてもよく似合っています。」
「着替え方が分からなくて、他で唯一情報を知ってるセラの前での着替えになったのはちょっと恥ずかしかったけどね(笑)。」
「それは、ごめんなさい。」
しおらしく頭を垂れるアニマに対し、クロードはアニマを両腕から下すと、軽く背中を叩く。
「じゃあ、行こう。」
「はい!」
こうして戦艦グロリアーナから、三機のオベリスクが出撃する。敵の姿はもはや目前に迫っていた。
一方、同時刻の戦艦アルマダでも戦艦グロリアーナを視界に捉えていた。
「敵戦艦、捕捉。オベリスク三機も出撃した模様。」
哨戒班のモモニ族より、通達が各オベリスクに送られる。
「全員、出撃体勢に入れ!」
ディザの指示により、アルマダのカタパルトに各機がそれぞれ足を乗せる。
「ギシリトール、ディザ=アニムス出撃する!」
ギシリトールに始まり、各機が次々にカタパルトから射出されていく。
「皆さん、生きて帰って来てくださいね。」
涙を目に貯めながらトパーズは、仲間の出撃を見送る。
「全員、出撃した様ね。」
「と、トリスタン大将軍?出撃されたのでは無いのですか?」
「アタシは後方支援だもの、少しぐらい遅れても戦局に影響は無いわ。じゃあ、留守番お願いね。」
「はい、吉報お待ちしております。」
数刻遅れて、トリスタンのジアゼパムが出撃する。このトリスタンの出撃とほぼ同時刻、遂にエリストリールとギシリトールが再び相まみえる事になる。
「クロード、正面から敵機。」
「この日を待ちわびたぜ、エリストリール!」
ギシリトールはアニムスを抜くと、剣の状態のまま右胸に構え、身体を水平にした状態で突撃を仕掛ける。しかし、反応良く突撃はエリストリールに躱されてしまう。
「前回と同じ搭乗者?よく生きていたものだね。」
反転したギシリトールは、剣を鞭状に変化させ攻撃態勢を取る。
「ああ、貴様のおかげで俺は生まれ変わった。この生の滾りに比べたら、あの時の傷など安い代償よ!」
「なら、ボクはその役目を全うする。アニムス、貴様が滅ぼしたエリクシル王家の無念、このエリストリールが晴らす。来い、ズウォード!」
クロードの呼び声と共に、エリストリールの右手に銀の大剣が姿を見せる。
「ああ、今ならはっきり感じるぜ。その剣に宿る『気』をよ。だが今回は違う。数多の星から奪い取った“星の生命”の力、受け取れぇ!」
ギシリトールは、鞭をしならせるかのように巧みに蛇腹剣でエリストリールの持つ大剣に攻撃を与える。
「中々に手強い。この攻撃は、ボクが“クリシュナ”を召喚した瞬間を狙って、ズウォードをあの武器で奪う為の布石か。なら、行け、ズウォード!」
「何ぃ、剣を投げつけただと?」
エリストリールの投擲に対し、紙一重でギシリトールは躱す事に成功する。
だが次の瞬間、大剣は制止したかと思うと、エリストリールの姿を映し出す。
「後ろを取られた?」
「やはり小僧よのぉ、お主。」
「貴様、エリストリールでは無いな?」
「そうよ、この大剣に宿りし我は、東に聞こえし剣聖ズウォード。余興がてら、しばらく稽古を付けてやろうぞ。」
一方、ライルのアゼルファームは、ルビーのピジョンブラッドとフレイのラフィーノースと接触する。
「フレイ、俺だ、ライルだ!」
「お前の相手はこの私だ!」
ピジョンブラッドがアゼルファームに対して右上段の構えで斬りかかる。
「“影の盾”よ、出でよ。」
アゼルファームの左腕から出現した影の盾がピジョンブラッドの攻撃を受け止めると、右足でピジョンブラッドの腹部を蹴り飛ばし、距離を取る。
「やっぱり私も混ぜてよ!」
二機の間に割って入るように、ラフィーノースの剣がアゼルファームを襲う。しかしアゼルファームは、この攻撃をも躱して見せる。
「フレイ、俺が分からないのか?」
「知ってるよ。ライル=オルトロス元特務中佐。闇魔法を得意とする特務隊の元エース。皆が口を揃えて“強い”って言ってる。だから、私も戦ってみたい!」
「俺を・・・覚えていないのか。」
「フレイ中佐、後方に下がれ、この男は一人では倒せない!」
ルビーの制止も聞く耳持たず、フレイのラフィーノースは、その二振りの長剣でアゼルファームに再び斬りかかる。
「本当に、覚えていないというのか!」
アゼルファームの動きはラフィーノースの動きに合わせる形で、攻撃を受け流し続ける。フレイと長年鍛錬を続けてきたライルだからこそ可能なフレイに対しての封じ手だった。
「俺にはお前がどのように相手を攻め崩すのか、その全てを知っている。だから思い出してくれ、俺はお前を傷つけずに取り戻したいんだ!」
「ハ、そんな歯が浮くようなセリフ、こんな戦いの中でよくいうもんだ。」
「お前の本能は戦場でこそ、より強い輝きを放つ。俺はその本能に賭ける!思い出せ、この俺を!」
アゼルファームは距離を取ると、右手に光線銃(ビームライフル)を持ち直し、攻撃に移る。
フレイは、光線という初めての攻撃に対し、回避を行うもその先を読むライルの攻撃に次々に被弾していく。
「フレイは落とさせない!」
再び、ピジョンブラッドがアゼルファームに斬りかかるも、再び“影の盾”がピジョンブラッドの攻撃を阻む。
「俺の邪魔をするなぁ!」
機体性能では格下であるはずのアゼルファームの反応は、この時、明らかに格上のピジョンブラッドの上を行く攻撃となった。攻撃を受け止められた瞬間、アゼルファームが放った光線銃(ビームライフル)の至近距離からの一撃がピジョンブラッドの腹部を直撃する。黒煙を上げて墜落するピジョンブラッドに対し、アゼルファームから追い打ちの一撃が放たれる。
墜落し爆散するピジョンブラッド。だがライルは、その爆散を見届ける事無くティアマトを抜きラフィーノースと対峙する。
「・・・義姉さん、今までありがとう。俺は愛する人を救う為、ティアマトと義姉さんの命を使うよ。」
「何独りで呟いてるのさ。お前もピジョンブラッドみたいに爆散させてやるよ。ツインヘッド・ドラゴンファイヤー!」
ラフィーノースが二振りの剣を重ね、強力な火炎魔法を放つ。それは自らの機体を溶かさんばかりの高温を伴っていた。が、範囲魔法である以上、そこに留まらなければ効果は無い。
相手を引き付ける役割のピジョンブラッドは既に撃墜されており、アゼルファームは容易に回避する事が出来た。
「『次元斬(アストラル・スラッシュ)』。」
ライルはそう一言告げると、空中に刃物で切り裂いた痕が浮かび上がる。
「どこを攻撃しているのさ、今度こそ仕留めて・・・うあっ!」
切り裂かれた痕からは、ラフィーノースに対して強烈な吸引力が発せられる。やがてラフィーノースは、痕跡を封じる様にピッタリと張り付いてしまう。
「動け、何で動かない!」
「ラフィーノースは、今、次元の狭間に存在している。俺が解除しない限り、お前に逃げる手段は無い。・・・フレイ、お前の魂は今よりこの剣に眠るのだ。」
突!アゼルファームの一突きは、見事にフレイに致命傷を負わせる事無く、彼女に傷を入れた。剣を抜きしばしの時、ラフィーノースの搭乗口が開き、フレイが姿を見せる。そして彼女は誘われるまま、ゆっくりとアゼルファームの左手に崩れ落ちた。
「義姉さん・・・最後までありがとう。自分の我儘の為に、貴女を次元の狭間へ送り出す義弟をお許しください。」
ライルの言葉は果たして彼女に届いたか、ラフィーノースは、自ら次元の狭間へと吸い込まれていき、その痕も綺麗に消え去っていた。
一方、ステビアのアグリコーンは、サファイアのベルベティ、エメラルドのスマラグタスとの交戦となる。まず先手を切ったのは、スマラグタスのランス突撃だった。
「疾風迅雷!」
高速で突撃を行うスマラグタスに対し、防戦を強いられるアグリコーン。その間隙を突いて、ベルベティがハルバードでアグリコーンを薙ぎ払いに掛かる。しかし、この攻撃はアグリコーンの持つ“氷の盾”によって防がれてしまう。
「流石に甘いか。」
再びベルベティが距離を取ると、今度はスマラグタスが突撃を仕掛ける。
「今度は逃がさないよ~。」
「避けられないなら、盾で!」
しかし、スマラグタスによるランス突撃の破壊力はステビアの想像を超えたものだった。
「ぐうぅぅっ!」
その威力はアグリコーンの左腕をもぎ取るほどであり、ステビアは一気に追い詰められる。
スマラグタスはランスに突き刺さったアグリコーンの左腕を投げ捨てると、再び旋回しアグリコーンに狙いを付ける。再度突撃を仕掛けると思いきや、スマラグタスの取った次の手は魔法の詠唱だった。もはやこれまで、と覚悟を決めたステビアだったが、次の瞬間彼女が見たのは、謎の光線に貫かれ爆発飛散するスマラグタスの最期だった。
「誰?」
「エメラルド!?」
「ステビアさん、一度グロリアーナに戻ってください。敵のオベリスクがグロリアーナを狙っています。」
「クロードさん?」
「ライルの事は信じて。早く!」
「貴様か、エメラルドを墜としたのは!」
標的をエリストリールに変え、ベルベティがハルバードをエリストリールに振るう。クロードはアグリコーンが戦線離脱するまで徹底して回避の姿勢で戦う。
「さすが彼の部下だ。オベリスクをよく使いこなしている。けど!」
エリストリールがクリシュナの光を放つ。その動きに対してベルベティはハルバードを回転させ、威力を無力化させる。
「その程度の威力、このベルベティには通用しない!」
再びベルベティが距離を詰め、ハルバードをエリストリールの左肩口へ振り下ろす。しかし、エリストリールはこれもまた躱してみせる。
「悪いけど、ここで時間を浪費する訳にはいかない。アニマ、クリシュナをブーストさせる。力を貸して欲しい。」
「はい。アニマの力をアナタに。」
ベルベティの追撃を躱しながら、エリストリールが再びクリシュナの照準をベルベティに合わせる。
「この距離で撃つつもりか?目測を見誤ったなエリストリール。次の反撃でエメラルドの仇を取る!」
ベルベティは再びハルバードを回転させ防御態勢を取る。
「打ち砕け、クリシュナの光よ!」
アニマの力によって増幅されたクリシュナの光がベルベティを包む。その力の前には彼女の行動は無力であった。爆音と共にベルベティの機体はバラバラになり地上に落ちていった。クロードは敵が無力化した事を確認すると、再び戦地へと戻るのであった。
一方、グロリアーナでは、一機のオベリスクに苦戦を強いられていた。理由は、イズを含め、誰もオベリスクに乗りたがらなかった為である。
「何で乗らないの、イズ。」
「むしろあんな狭い空間で戦えるクロードがヘンなんだって!」
「でも困りましたわ。替わりにお姉ちゃんが乗りましょうか?」
「却下。」
「(しゅん)。」
「アタシじゃ扱えないんだろ?セラ。」
「はい。ミレイさんは魔力を持っていませんので。」
そんな中、艦橋を担当するモモニ族が声を発する。
「セラ艦長、遠方より、グロリアーナに接近するオベリスク発見。検知される波長からステビア殿のアグリコーンと思われます。」
「良かった、援軍だぜ。」
ホッと、イズは胸を撫でおろすもモモニ族の報告は続く。
「しかし、機体は酷く損傷している模様。収容しますか?」
「ああ、アグリコーンが敵機に迫っていきます。」
「ハッチを開けさせろ。何とかして連絡出来ないのか?」
セラの問いにモモニ族は首を横に振る。
その時、ステビアのアグリコーンはガーネットのデマントイドをその射程に捉えていた。
『私だ、セラだ。ハッチを開ける。一旦帰艦したまえ。今、私達にはオベリスクを扱える者が居ないのだ。』
『セラさん、私も似たようなモノです。満足に力を発揮させられないまま片腕を失ってしまいました。今なら相手に不意を撃てます。』
『ダメだ、戻ってこい。艦長命令だ。』
『ライルとクロードさんによろしくお伝えください。彼らなら、きっと皆さんの元に戻ってきます。』
次の瞬間、二機が激突する音と共に、機体は爆発し地上へと落ちていった。セラは艦長席を飛び降りると、イズに指を差す。
「イズ、艦長代理だ。お前が席に座れ。」
「え、オレ?」
「セラちゃんはどこへ行くのですか?」
「ドックのオベリスクを使う。可能性がある限り救助をする。」
「なら、回復魔法を使えるお姉ちゃんも同行しますわ。」
「・・・仕方ない。」
かくして、ローヴェ姉妹は、オベリスクに乗りステビアの救出へと向かう。
クロードのエリストリールが再び戦場に戻るも、ズウォードのエリストリールとディザのギシリトールとの闘いは先が見えない状態で続いていた。
「ズウォード、戻れ。」
その言葉と共に、主の元へと大剣は戻る。
「ありがとう。おかげでステビアさんの救援が出来たよ。」
「気を付けよ、クロード。ワシが仕留めてやろうと思っておったが、最後まで隙を見せなんだわ。」
「わかった。今度はボクが仕留めてみせるよ。」
エリストリールが再びズウォードを構える。対してギシリトールもまたアニムスを構え直す。
「再戦開始だ、オラァ!」
ギシリトールは、一気にその距離を詰めエリストリールの右わき腹目掛けて、その剣を振るう。エリストリールは大剣を逆手に持ち替え、ギシリトールの攻撃を弾き返す。しかし、ギシリトールの左手甲から鉤爪が伸び、今度はエリストリールの右わき腹を襲う。すかさずエリストリールも右拳がギシリトールの左顔面を打ち、双方相打ちの形となる。
(空中ではやりにくい、やはり地上戦か。)
クロードは、自ら地上戦を選択する。しかし、ここでも一進一退の攻防が続く。
「チキチョウ、トリスタンの奴、このまま高みの見物のつもりか!」
ディザは未だに援護をしないトリスタンにいら立ちを見せるも、前回とは比べ物にならない技量でエリストリールと対峙する。そして、その時が来た。ギシリトールの持つアニムスの剣がエリストリールの左肩を貫いたのだ。
「遂に捉えたぜ、エリストリールよ。さぁアニムス、アニマを吸い出せ!」
「ああ、クロード、ワタシワタシガキエル・・・。」
アニムスの剣が引きずり出したのは赤く輝く直径3メートルほどの球体。
「これで、俺は完全な力を取り戻す!」
アニマの球体がエリストリールから完全離れる瞬間、クロードが叫ぶ。
「今だ!アニマを切り離せ、ズウォード!」
「応!」
地に伏していた大剣が天に翻り、アニマとエリストリールの接点を切り裂く。
同時刻、戦艦グロリアーナ、アニマの私室。
そのベッドには一人の女性が眠っていた。女性はやがて永い眠りから覚めたかのように目を開ける。
「私・・・何故ここに。」
女性の名はシャルロッテ=エリクシルと言った。
再び戦場に場は戻る。
「貴様、最後に何をした?」
「君に所有権が無いモノを返してもらっただけさ。アニマの人格、即ちエリクシル王家の姫君、シャルロッテ=エリクシルの魂さ。」
「フン、そのような魂など、完全体となったアニムスの力の行使には不要なモノ。」
「ああ、そうだろうね。でもボクには重要なコトだった。」
燃え盛る太陽の如きオーラを発するギシリトール。それに対し、アニマを失ったエリストリールは戦いに燃え尽きた甲冑兵の様相に見えた。だが、この男は不敵に笑う。
「ボクは勝ち目が無い勝負ほど、諦めが悪くてね。さぁ、これからが本気のボクの戦いだ。
最後まで付き合ってもらうよ、完全体アニムス君。」
再び、大剣を取り立ち上がるエリストリール。アニムスとの最後の戦いが今始まる。
今日はここまで。また会える日を楽しみにしているわ。
私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部よ。
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