第11話 最後の宴
はぁい、こんにちは。前回は、戦艦アルマダが浮上せず、セラが艦長となった戦艦グロリアーナが浮上したところまで語らせてもらったかしら。今回は改めて浮上を始めるアルマダ、そしてクロード達はいよいよ帝国領へとその足を進める。かつての母国が戦火で燃える姿を見て、ライルとステビアは何を思うのか。では、始めましょう。冒険者達の物語を。
帝国領、北の遺跡最奥。ディザは戦艦“アルマダ”を起動する為、配下の4名と共にこの場所を訪れる。
「起動シークエンスに入ったら、俺はしばらく何も出来なくなる。なので、先にオベリスクのドックへ案内する。オベリスクを見た時に波長が合うのを感じたら、それが自分の乗るオベリスクだと思えばいい。ただし、今回は試乗禁止だ。ルビーの二の舞は御免だからな。」
「アイツ何かやったんです?」
サファイアの問いにディザが苦々しげに答える。
「はやる気持ちを抑えきれず、危うくアルマダの内壁を破壊しようとしやがった。」
「へぇ、冷静沈着がウリだったアイツがねぇ。」
「そりゃあ、尊敬する教官の前ですもの、カッコつけたかったに決まってますよ、ねぇ大佐?」
二人の会話にエメラルドが割り込み、ディザの様子を伺う。
「まぁ、アイツを挑発してザッカリンを潰してしまった、ってのもあったしな。・・・よし、
ここがオベリスクのドックだ。アニムスの奴がかなり積んでここに来たから、S級クラスと波長が合えば今日からでも主戦力になれるぞ。」
「大佐、S級ってどういう意味ですかぁ?」
トパーズの問いにディザはドックのオベリスクを眺めながら答える。
「オベリスクは、アニムスの草案を元に、他の星に住んでいた“モモニ族”という一族が製造した巨大甲冑兵だ。そうして出来上がったのがA級。トリスタンのジアゼパム、ライルのアゼルファーム、フレイのラフィーノースがこのカテゴリに入る。その量産型がお前らの乗って来たザッカリン。これがB級。A級を更に進化させた機体がS級。ルビーのピジョンブラッドがこのカテゴリに入る。」
「では大佐のギシリトールは何級なのでしょうか。」
「俺のギシリトールは、SS級。アニムス自身がカスタマイズに関わった最強の機体。しかし、同時期にほぼ同性能のオベリスクを開発した王国があった。アニムスは、その王国を滅ぼしたが、その代償にアニムスとして行使可能な力の一部を奪われた。」
「それが、例のエリストリールなのですね。」
「そうだ。アニムスの記憶にもヤツに勝った記憶が無い。俺も一敗地に塗れた身だ。が、今度は違う。このアニムスの記憶があれば、俺は100%、いやそれ以上の力をギシリトールに引き出させ、ヤツのアニマを取り戻す!」
「大佐、もう皆オベリスク見に行っちゃいましたよ?」
トパーズの言葉に、ディザは拳を握りしめ思わず呟く。
「この自由民どもが・・・。」
4人は、それぞれが新たなオベリスクを手に入れる。
サファイアは、機体名『ベルベティ』ランクS級。
エメラルドは、機体名『スマラグタス』ランクS級
ガーネットは、機体名『デマントイド』ランクA級
トパーズだけ、波長の合うオベリスクを見つける事が出来ず、この場では一旦中止となる。
「すみません・・・。」
「仕方無ぇ。先にやる事を済ます。全員艦橋に上がれ。起動シークエンスに入る。」
「私達は何を?」
「全員ここに居ろ。その内、連中が目を覚ます。」
「連中。」
「オベリスクやこの戦艦の建造したモモニ族だよ。臆病な連中だからあんま騒ぎ立てるんじゃねぇぞ。」
「は、はあ。」
ディザは艦橋にある艦長席に座る。
「アニムスがアルマダに命ずる。『起動シークエンス、開始せよ』。」
次の瞬間、薄暗かった艦橋に一斉に電源が入る。
「オベリスクの起動時に似ているな。」
「あー、あの『お、動くぞこれ』って感じの明かりね。」
「・・・トパーズ、今何か聞こえなかったか?」
「何か、聞こえ・・・わっ、何か白い生き物が!」
「悪行の権化め、ともかくネズミは滅ぼさねばならぬ!」
ガーネットは長剣を抜き、周囲を走り回る白い生き物に斬りかかろうとする。
「全員でガーネットを止めろ!それがモモニ族だ。」
ディザの怒声が飛び、三人は脊髄反射でガーネットを羽交い絞めにする。
「おのれ、貴様らもきゃつらに手を貸すか!」
「まぁ、食事当番専門だからネズミ嫌いなのはわかるけどさ。」
エメラルドが苦笑いしつつ、ガーネットをなだめる。
「ガーネット少佐落ち着いて、お願い!」
トパーズは何とかガーネットから長剣を奪い取り、遠くへ蹴り飛ばす事に成功する。
「・・・起動シークエンス、クリア。」
ディザは艦長席を飛び降りると、暴れるガーネットに対し平手打ちを食らわせる。
「・・・。」
「以前の俺なら斬り倒していたところだ。どれだけ有能だろうが、上官の命令に背くヤツは、部下とは認めねぇ。トリスタンに突き返す。」
「申し訳ありません。二度とこのような醜態は見せません。」
「フン。おい、トパーズ。お前、実戦より魔法が得意だったな。」
「あ、はい。」
「丁度いい。そこの艦長席に座ってみろ。」
「へ?」
「大佐の命令だ。二度は言わんぞ。」
「了解しました!」
トパーズは急ぎ足で艦長席に座る。
「座ったな。次はそのまま深く座れ。」
「は、はい。・・・うっ、何だが眠く・・・。」
「そのまま寝てしまえ。その分、このモモニ族が働いてくれる。」
「どういう事です?」
サファイアがディザに問いかける。
「このモモニ族ってのは人の持つ魔力が活力の源にしている。起動シークエンスにはこいつらを起こす為に膨大な魔力を必要とする為、俺が座るしか無かったが、今は浮上までのプロセスに移行した。このプロセスは一定以上の魔力保持者であれば魔力供給は十分間に合う、結果モモニ族への活力補給も十分に可能となる、という話だ。」
「要は面倒事をトパーズに押し付けた、と。」
「ああ、そうだよ!本来はトリスタンに座らす予定だったのが本音だよ。」
「で、何時間ほどかかるのです?」
「35時間くらいだな。」
「ちなみに大佐が全行程行った場合は?」
「20時間くらいか。」
「今からでも変わった方がよくありませんか?」
「その場合、アニムスとアルマダでダイレクトにプロセス実行させるから、俺は寝れねぇんだよ。」
「15時間の短縮と比べれば安い犠牲です。」
ディザは舌打ちすると、艦橋のモモニ族に命じる。
「おい、誰かオベリスクドックの射出口を開け。仕方ねぇ、時間までにオベリスクの実機訓練をさせてやる。」
「それは仕方ありませんね。」
「サファイアちゃん、策士やのう。」
ガーネットは、テキパキとコンソールに情報を入力するモモニ族に近づく。
「お前、我々の言葉が分かるのか。」
「ウキュ?」
ガーネットは、モモニ族の小さな手に自らの手を当てる。
「済まなかった。君達とは分かり合える存在だったのだな。」
「ウキュウン。」
「ガーネット、そいつらの手を止めさせるな!どうして、貴様はそうやって極端に走る!」
こうして、アルマダ浮上プロセス構築の間、ギシリトール、ベルベティ、スマラグタス、デマントイドの4機と、訓練用としてディザの遠隔操作により随行するザッカリン9機は、帝国北方山中から飛び立つ。
「さて、誰から稽古を付けてもらいたい?」
「大佐、質問があります。」
「何だ、ガーネット。」
「この訓練後、対価となるべき報酬を頂きたく。」
「対価だぁ?」
「はい。大将軍であるトリスタン様からは、以前より親衛隊という形で報酬を頂いております。しかし、ディザ大佐とは直属の配下になったばかり。親睦を深め、士気を向上させる為にも報酬という“アメ”を我々は要求します。」
「面倒臭え連中だな。で、何か希望はあるのか。」
「はい、我々はディザ大佐の手料理を是非所望します。」
「・・・何故、俺の料理の腕を知っている?」
「トリスタン大将軍からの情報です。小姓時代、前皇帝ガラーガに取り入る為、努力して料理の腕を磨いたとか。」
「あんの野郎、ヒトの個人情報をペラペラと・・・。」
「私も、日々の料理番に疲れていたところ。是非、その腕を披露していただきたくお願いした次第です。」
「ああ、分かった。どの道、奴らとの戦いでどれだけ生き残れるか分からねぇんだ。食材さえあれば食わせてやるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「だが、まずは訓練が先だ。ガーネット、お前の主武器は?」
「長弓です。」
「なら長弓をデマントイドが持つイメージを自分の頭に浮かべてみろ。」
ディザの言葉通り、ガーネットは長弓をイメージしつつ操縦桿を動かす。
「長弓が・・・。」
「デマントイドはA級、といってもザッカリンとは比較にならない性能差がある。そして、お前の持つ魔力が直接反映されやすい。欠点は、使用する魔力の消費量が高い事で、搭乗者の魔力切れを起こしやすい事。矢はお前の魔力が続く限り補充される、つまりそういう事だ。」
「了解です。」
「なら、早速訓練開始だ。ザッカリン三機、仕留めてみせろ。」
ディザの宣言と共に、三機のザッカリンがデマントイドに襲い掛かる。
「まずは、距離を・・・って速い!」
自身の操縦した時の速度とは雲泥の速さで一機のザッカリンがデマントイドの背後を取り、右拳で殴りかかる。
「簡単にやられる訳には!」
デマントイドは急降下でザッカリンの拳を躱すとそのまま長弓で真下からザッカリンを射落とす。
「まず一機!」
「まだ一機だ。」
デマントイドが長弓を撃つその時間を使って距離を縮めた一機が、勢いそのままに猛烈なタックルをデマントイドにぶちかます。
「あうっ!」
攻撃の反動で制御を失ったデマントイドをガーネットは必死に立て直すも、その隙を突いたもう一機のザッカリンに羽交い絞めにされてしまう。
「しまった!」
ガーネットが叫んだ時には、先の攻撃でタックルをかけたザッカリンに追い付かれ、腹部を連打されてしまう。
「あぐあっ!」
「オベリスクにも知性はある。その波長が近ければ近いほどオベリスクは強力になるが、同時に受けるダメージにも強く感応してしまう。そのザッカリンの物理攻撃で装甲がやられる事は無い。死にはしないが、しばらく飯は食えなくなるかもな。」
「それは困ります。炎よ、鎧となりて我を守護せよ『炎の鎧(フレイム・アーマー)』!」
デマントイドの装甲に炎がまとう。その炎に耐えきれず、ザッカリンは拘束を解いてしまう。
その隙を突き、デマントイドは高速で上空に上る。上空への加速の差は歴然であり、その距離は瞬く間に大きな差となる。
「四大精霊よ、この一撃に汝らの力を示せ『精霊の一撃(エレメンタル・ストライク)』!」
デマントイドの放った光の矢は、二つに分かれるとそれぞれザッカリンの胴体を見事に撃ち抜き、二体はあえなく爆散する。
「ふう。」
「ただの飯当番じゃなかったな。初戦闘にしては上出来だ。」
「ありがとうございます。では私は先に休ませてもらいます。」
「途中で墜落するんじゃねぇぞ。さて、次はどっちだ。」
「エメラルド少佐、お願いするであります。」
「エメラルド、お前の主武器は何だ?」
「はい、既に準備しているであります。」
エメラルドの乗るスマラグタスが手にした武器、それは・・・。」
「・・・ランス?」
「はい!」
「理由は?」
「いやぁ、一度使ってみたかったんですよね、こういう厳つい武器。」
「・・・。」
ディザは操縦席で頭を抱えるも、気を取り直し操縦桿を握る。
「訓練の対象はガーネットと同じ、ザッカリン三機だ。始めるぞ!」
ザッカリンが三方向に分かれ、スマラグタスを挟み撃ちにせんと距離を詰める。が、スマラグタスは三体を容易に躱し、突撃の為の距離を取る。
「そいじゃあ、行きますか。疾風迅雷、いざ敵を撃ち抜かん!」
スマラグタスはランスを構えると、雲をも切り裂く勢いでザッカリンに突撃を仕掛ける。
「ぐっ、一旦散開させるか。」
「おっそーい!」
ディザの遠隔操作よりも早く、スマラグタスの突き出したランスは一機のザッカリンを突き刺し爆散させる。
「次はどれにしよーかな?」
「こいつ、俺の想定以上に反応速度が速い。・・・ならもう少し難度を上げてやるか。」
ディザからの力を受けて、ザッカリンも加速を強める。
「この速度では、動体視力では追い付かん。さあ、どう戦う?エメラルド。」
高速でかく乱するザッカリンを前に、エメラルドは最初照準が定まらずにいたが、やがて一機のザッカリンに的を絞り始める。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・今だ!」
エメラルドは、一機のザッカリンに向かってスマラグタスを疾走させる。
だが、スマラグタスの突撃を見たザッカリンは、避けるどころか逆に特攻を仕掛ける。
「と、特攻?!」
ザッカリンの特攻爆散を受けたスマラグタスはバランスを失い、落下していく。が、最後の一機となっていたザッカリンが落下を受け止める。
「あ、ありがとうございます。」
「本能のままに戦うのもいいが、もう少し感覚を研ぎ澄ませ。ランスは本来カウンター用の武器だ。それでお前がダメージを受けていては意味が無いぞ。」
「反省しております。」
「だが、あの速度は十分戦力になる。ステビアとの戦闘、期待が持てそうだ。」
「は、はい!ありがとうございました。」
「さて、最後はお前、か。」
「よろしくお願いします、ディザ大佐。」
「お前の主武器は長剣だったな。そのままのスタイルで戦うか?」
「いえ、私は・・・。」
サファイアの乗るベルベティが繰り出したのは、一振りの斧槍(ハルバード)。
「お前も長柄かよ。」
「懐にさえ入れなければ、武器としては最強格の破壊力を持ちます。使わない手はありません。」
「勝負事だ、勝てるのならそれでいい。じゃあ、始めるか。」
「大佐、私はアナタと直接勝負をお願いしたい。」
「はぁ?」
「アルマダの起動シークエンス、そして先ほどの2人との遠隔操作での戦闘訓練。相当量の魔力を消耗されているはず。ですので、魔力の消耗も少ない実機での勝負を希望します。」
「要は、疲れ切った俺の遠隔操作でのザッカリンじゃ話にならん、と言いたい訳か。」
「その通りです。」
次の瞬間、ギシリトールの持つ蛇腹剣がサファイアの乗るベルベティを襲う。その攻撃に対し、ベルベティはハルバードを回し蛇腹剣の攻撃を弾き返す。
「いい反応だ。お望み通り相手をしてやろう!」
ディザはギシリトールの左手に筒状の新たな武器を召喚させる。
「光線銃(ビームライフル)だ。ガーネットの様に魔法で威力強化は出来んが、お前を行動不能にする程度の衝撃なら与えられるぞ。」
「部下の訓練に飛び道具とは大人げないですね。」
「悪いが、その手の陽動に乗る年頃は過ぎてるんだよ。さぁ、いつまで躱せるかな?」
ベルベティのハルバードによる風車は、魔法による盾替わりとなってギシリトールのビーム攻撃を打ち消していく。しかし、想定外の使用による魔力の消耗は大きく、サファイアは次第に追い詰められていく。
「遮蔽物の無い空中戦はこちらに不利。地上に降下して魔力の回復を待つ。」
ベルベティは地上に降下すると、森林地帯にその姿を隠す。
「ルビーのように熱くならないのは、実にお前らしいな。」
ギシリトールも同じく降下し、森林地帯を移動する。
「だが逃げるだけではお前に勝ち目は無いぞ、何が狙いだ!」
サファイアに挑発を掛けながら、木々の間を抜けながら進むギシリトール。が、突如ギシリトールがアラームを発する。
「左後方に敵?がはっ!」
ギシリトールの背面を襲ったのは、ベルベティのハルバードによる一撃。
「いつも間に背後に・・・。」
「すみません、あらかじめ罠を張っていました。この森林は全てが森林では無く、障害の無い平原となる場所が何箇所か存在します。その場所に幻影魔法で森林に見せかけ大佐を呼び込みました。」
「森に逃げ込んだのも計算ずく、という訳か。」
「いえ、最初からベルベティの実力で勝つつもりでした。あんな飛び道具を持ち出した大佐が悪いのです。あれでは訓練になりません。」
「恐らく相手側もこの武器を使う。その模擬戦と考えておけ。」
「そうでしたか。すみません、ご教授感謝します。」
こうして、ディザは三人との模擬戦を終え、アルマダへと帰艦する。
アルマダの艦橋に戻ると、モモニ族の長らしきネズミがディザに話しかける。
「アニムス様、アルマダ、いつでも出航出来ます。」
『シャ、シャベッター?!』
「いちいちうるせーぞ、お前ら。モモニ族の文明は、少なくとも帝国より遥かに上だ。コイツらは、この世界の情報をトパーズの記憶から仕入れている。だから会話程度ならすぐに理解可能。・・・おい、お前名前は?」
「はい、マハダと申します。」
「よし、マハダ、艦長席で寝ているトパーズを下してやれ。残りの連中は空いている席に着き次第ベルトを装着しろ。準備が出来次第アルマダを発進させる。」
『了解!』
数刻後、北の山を大きく揺らしその深くから浮上する、黒の船体に銀の縁取りを施した戦艦アルマダが浮上する。
「まずはトリスタンと合流して腹ごしらえだ。ガーネット、食材は揃っているんだろうな?」
「はい、残った三方が厨房を荒らさない限りは。」
「嫌な予感しかしねぇな・・・。」
こうしてアルマダを手に入れたディザ一行は、一路トリスタンの居城への帰途に就く。
一方、一足早く戦艦グロリアーナを浮上させ、帝国内にその足を踏み入れたクロード一行。
「何だ、この惨状は・・・。」
「酷い、どうして同じ帝国軍同士で戦っているの。」
ライルとステビアは、帝国内の惨状に思わず言葉を失う。
「クロード君、頼みがある。」
「聞きましょう、ライル。ただし難民の救助は行えません。理解して下さい。」
「少しの時間でいい。彼らから情報を手に入れたい。アゼルファーム発艦の許可を頼む。」
「私も同行します。一人でも多くの命を救わせてください!」
二人の嘆願にクロードは目を瞑り、考えに耽る。
「貴方達二人は亡命者です。一度祖国を裏切った以上、二度目が無いとは誰にも言えません。」
「確かに君の言う通り、俺は祖国の裏切り者だ。しかし、軍団の争いに帝国民は無関係だ。」
「私達は逃げません。ただ、傷ついた人を救いたいのです。」
二人の言葉に、クロードはニコリと笑い答える。
「だからボクも一緒に行きます。それなら文句は出ません。」
「ありがとう、クロード君。」
「ありがとうございます!」
こうして、クロード達三名はオベリスクを駆り戦場へと降下する。
帝国軍団同士の戦いに舞い降りた巨大甲冑兵に戦場は静まり返る。
「帝国軍の軍団兵達よ、直ちに停戦せよ。私の名はセヴェルス帝国軍特務隊所属ライル=オルトロス特務中佐である。」
「オルトロスだと?!」
アゼルファームの前に騎馬にまたがった軍団兵が果敢にも単騎で姿を現す。
「俺の名は、セヴェルス帝国第九軍団軍団長、リキウス=マエナス。何故陛下を裏切った?」
「あの男は自身の野心の為に義娘であるフレイを戦争の道具にしようとした。しかしそれは私の私怨だ。お前達は何故同じ帝国軍同士で戦っているのか、と聞いている。」
「原因はお前を始めとする特務隊の弱体化だ。フレイ=ヴァルザックもトリスタンとの戦いに敗れ行方不明、それでも陛下は軍閥貴族弱体化の為に軍団解体を我々に命しられた。が、
結果はこうして大反乱となったのだ。」
「フレイが・・・トリスタンに?」
「ライル、ダメだ!」
「止めるな、クロード!」
「言ったはずだよ、ここで君がボクを裏切る行動を取るなら、ボクは君を敵と見なす。」
「ぐっ・・・。」
「ステビアさん、ここから皇都までオベリスクでどのくらいかかりますか?」
「そうね、大体一日程度かしら。」
「一旦グロリアーナに戻りましょう。ステビアさん、アゼルファームの肩を担ぐのをお願いします。」
傷心のライルを乗せたアゼルファームを二体で担ぎ、三機は一路、グロリアーナに帰還する。
「ステビアさん、ライルの事を頼めるのは君しか居ない。彼が無茶な行動を取らない様、彼に語り掛けて欲しい。必ず君の想いも通じるはず。」
「・・・はい。」
艦橋に戻るとクロードはセナに向かってある依頼をする。
「戦場を飛ぶ?」
「うん、可能な限り戦場の上を飛んで彼らの戦意を喪失させる。」
「目的地は?」
「セヴェルス帝国皇都。まだ皇帝陛下にヴァネッサ女王からの書簡を届けていないだろう?」
「そういえば、そうだった。」
「と、いう訳で引き続きよろしく、セラ艦長。」
一方、トリスタンの居城に到着した戦艦アルマダ。その着艦を祝い、トリスタンの計らいによって宴が開かれていた。
「で、ここは普通、料理が出て来るところだろう?何で、すでに俺が作る事が確定している。」
「まず、この戦火で真っ当な食材が備蓄されている事に感謝しなさい。料理人なんて余裕、ウチには無いのよ。今回の宴は“慰労”が目的なのだから上官が行うのが務め、よね。」
『楽しみにしてまーす!』
「で、勝てそう?あの子達。」
「さぁな。だが、アンタの目利きが衰えてない事は、アイツらが証明するだろうぜ。」
「ふぅん。」
「こっちは8人分の食事をこれから用意するんだ。手伝う気が無いなら城主だろうと容赦無く追い出すぞ。」
「おお怖いコワイ。では、食堂で待たせてもらうわ。」
食堂に戻る途中、トリスタンは思う。
(戦力は互角以上。後は、完全体となったアニムスと“星の生命”を食らったギシリトールをディザが制御できるか、よね。出来たのなら良し、暴走した場合フレイ達で討伐可能かどうか。でも、どう転んだところで、アタシの星間飛行の夢は決して変わらない。アルマダが撃沈されない限りは。オホホ、今から楽しみだわぁ。)
宴を終えたその夜、ディザは一人テラスで夜空を眺める。
「眠れませんか?」
そう、言い寄って来たのは赤いドレス姿のルビーだった。
「どこで手に入れたんだ、そんなドレス。」
「女性らしく振舞えるのは、今日が最後かも知れないから、とトリスタン様が皆に。」
「へぇ。まぁ、アイツらしいっちゃあアイツらしい気配りだな。」
「ど、どうでしょう。」
酒に酔っているせいか、いつも以上の積極さでルビーはディザに迫る。
「やめとけ。」
「え?」
「明日にでも俺達は戦火の中に入る。俺はお前達を戦力にする為に鍛えた上官に過ぎない。」
「それは理解しています。でも、せめて今日ぐらいは普通の男女として接しても良いでは無いですか!」
「なら、生きろ。最後まで生き残ってみせろ。その時、聞いてやる。一人の男として。」
「・・・わかりました。貴方の言う通りに生き抜いてみせます。」
「そうそう、その目。忘れるなよ。」
ディザはルビーを突き放すように離れるとテラスを後にする。
ルビーは、ディザの背中を見送った後その場で崩れ落ち、ただ肩を震わせ必死に涙を堪えるのであった。
翌日、アルマダは城を後にし、いよいよ出発の時を迎える。目指す場所はただ一つ、エリストリールを乗せた戦艦グロリアーナ。それぞれの想いを胸に、“星の生命”を懸けた総力戦が始まろうとしていた。
今日はここまで。また会える日を楽しみにしているわ。
私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部よ。
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