第3話 その名は”エリストリール”

 はい、こんにちは。前回、クロードは、アニマという少女と出会ったわ。物語は、この少女を中心に紡がれていく。そして人々は魔法をも凌ぐ力を手に知れた時、この力を行使する欲望に抗うことは出来るのかしら。それは救いの選択か、破滅への選択か。では、始めましょう、冒険者達の物語を。


大瀑布、古代遺跡最深部。少女は無表情のまま、クロードに告げる。

「アナタに見せるモノがある。」

彼女の言葉に合わせ、周囲が明りを取り戻す。

「これは、・・・甲冑の巨人!?」

彼女の後方にそびえ立つ、全長10mを優に超える白き巨兵。

「私の世界では、【オベリスク】と呼ばれた兵士。ワタシは彼と共にワタシの国で戦った。」

「彼・・・?」

「“エリストリール”。このオベリスクの名。」

次の瞬間、アニマはクロードと共にエリストリールの内部に転送する。

「な、何だ、この鉄の檻は?」

「檻では無いわ。操縦席。今、クロードに彼の記憶を転送する。」

「転送・・・?うわっ!」

クロードが見た世界。それは、アニマかオベリスクと呼んだ巨人兵が、地上で、空で、海で、互いに斬り合い、殴り合う姿だった。

「黒い筒から、光が・・・。町が一瞬で消し飛ぶのか。」

「そう、このオベリスクと、戦艦の力でワタシの世界は滅んだ。全て。」

「エリストリールを動かしていたのは、滅びゆく国の王子だった。敵の目的は、“星の生命”・・・アニマ、“星の生命”とは何を意味している?」

「文字通りよ。クロード、アナタの立つ世界。」

「無茶だ。勝てる相手じゃない。」

「でもオベリスクはずっと眠って待っていた。アナタで無くとも、いずれ他の誰かがオベリスクを手に入れるわ。でも、彼はアナタを選んだ。」

「アニマ、君は一体・・・?」

「ワタシがエリストリールに宿る限り、アナタは敗けない。だから敵はワタシを求める。彼、アニムスにワタシが融合された時、クロード、アナタの世界は消失する。」

「アニマ、ボクの父さんは、昔、世界を滅ぼすとされた厄災龍を奈落に突き落とした。でもそれはとても一人で果たせるモノでは無かった、と教えられた。今、君はボクに父さんと同じ事を求めている。だからアニマ、仲間になろう。」

「仲間?」

「そう、依頼主じゃ無く仲間。ボクは仲間の為なら絶対に負けない、そういう男さ。」

「アナタがそれを望むのなら、ワタシは構わない。」

「じゃあ、そろそろ下ろしてくれるから?」

「分かった。」

再び、棺の近くへと戻る二人。

「さすがに、その恰好は不味いので・・・っと。」

クロードはアニマにブランケットを渡し、羽織るように促す。

「ありがとう。」

「王子の記憶の中で見たよ。君は元々、王子の娘だね。」

「覚えては・・・いない。」

「エリストリールは、彼の持つ異能を使って“敵”の持つ力の一部を奪い取り自らの力に変えた。でも、この膨大な力を制御する為の人格を持った司令塔が必要だった。王子は苦渋の選択で、最も適性の高かった君を選択した。アニマ、君の父上は決して世界を滅ぼさなかったよ。このエリストリールを放逐する事で、“敵”はその失った力を取り戻すために追った。そして、ボク達の世界にたどり着き、眠りについた。文明が発達するまで、ね。」

少女の頬を伝う、一筋の涙。

「あれ、ワタシ・・・涙。」

「あ、それとエリストリールの件はしばらく伏せておいてくれないか。皆がパニックになるからね(笑)。」

「うん。」

アニマは再び閉じられた扉を開く。

「クロード!」

最初に飛びついたのはイズだった。

「心配かけやがってオメー、一時はどうなる事か・・・。」

イズの無言のボディブローがクロードを襲う。

「オイ、何だその娘は。」

「喜んだり、怒ったりと、こっちが聞きたいよ、イズ。」

「どうみても、事後だろ、事後!どこで拾った、オイ。」

「ダンジョンの奥にそんな店ある訳ないだろう、棺から出てきたんだよ。」

「棺?実体のある幽霊なんて、聞いた事ないぞ。」

「ボクも聞かないね(笑)彼女の名前はアニマ。しばらくの間、一緒に同行する事になった。なので、セラ、彼女に予備の服をあてがってくれないか。」

「わ、わかった。」

セラは慌てて着替えをアニマにあてがう。

「良かった、調整もほとんどいらない。」

「お姉ちゃん、妹が増えたようでとても嬉しいですぅ。」

「はしゃぐ前に手伝え、姉。」

こうしてアニマを加えた一行は、遺跡の外へ足を進めるのだった。

「ジャムカの件、どう説明する。」

ミレイに話を切り出され、クロードは渋い顔で答える。

「正直に話すしか無いかな。実際、武器になるようなモノは見つからなかったし。」

「それであのジャーダが納得すると思うか?」

「しないよね(笑)。とにかく、誠意を持って話してみるよ。」

「当初の目的を忘れるなよ。」

「その点は、バッチリですよ。」

(すでに面倒事抱えている割には、楽天的だ。それがクロードである所以か。)


彼らが里に戻った時、里の一角では人だかりが起きていた。里の者がクロード一行を見かけると、大声で叫ぶ。

「長よ、東の使者が戻ってきた!」

その声を聞くと、里の者達は潮が引くように下がりクロード達に道を譲る。

その先には、ジャーダと二人の老婆、そして巨木の枝に木の檻が吊るされており、中には髭面の白い肌の男が囚われていた。

「ジャーダさん、クロードです。先ほど戻りました。」

「帰ってきたかい。ジャムカの姿が見えないようだが。」

「すみません、助けられませんでした。」

「そうか。お前の報告は後で聞こう。クロード、この男を知っているか。東の冒険者と名乗っているが。」

「お、お前が東の冒険者か・・・ってオレが見ていない顔だな。」

「ボクも初顔です。誰でしょう。」

クロードの言葉にジャーダは村人に命じる。

「侵入者だ。焼き殺せ。」

「どあっ!待って、待って。」

檻の中で、男は慌てふためく。

「失礼ですが、お名前は?」

「盗賊のシュロスってモンだ。」

「ジャーダさん、一応仲間にも確認させてもらっていいですか?」

「ああ、許そう。」

そして、クロードは仲間たちを連れて、木の檻を指差す。

「皆、あの男性、“盗賊のシュロス”という東方の冒険者を名乗っているけど、知っているかな?」

「オレは知らん。」

「盗賊の男に知り合いは無い。」

「私も生憎聞き覚えが無く・・・。」

クロードはアニマを一目見る。視線に気づくとアニマは大きく横に首を振る。

(だよなぁ・・・)

「ジャーダさん、やはりボク達も・・・。」

クロードがジャーダに声を掛けようとしたその時、ミレイが両手を組み、檻を見上げて問う。

「もしかして、貴方はあの伝説の傭兵団の団長、【ウロボロス】様ではありませんか?」

「何だよ、オレの事知ってる娘いるじゃんか。」

男は木の檻を隠し持った短剣で破壊すると、そのまま地面に着地する。

「全くこのまま焼き殺されるところだったぜ。」

「その動き、ではやはり本物の!」

「ああ、そうだよ。てか、シュロスとウロボロスがイコールになる奴ってほとんど居ないはずだけどなぁ。」

面倒臭げに頭を掻く男に、ミレイは目を輝かせながら答える。

「はい、私は師匠から貴方様の事はよく聞かされておりました。」

初めて耳にするミレイの甘い声に、クロードは思わず硬直する。

「ミレイ・・・さん?」

「姐さんが・・・白馬の王子様を眺める乙女になっとる。これは一体?」

「何か良くない予感がする。早々に始末しよう、クロード。」

「セラちゃん、いい子だから落ち着いて、ね?」

シュロスは首を傾げて尋ねる。

「師匠?」

「はい、フィリス師匠です。」

その言葉で、クロードは思わず声を上げる。

「ええっ?!」

「何だ、後ろのガキもオレの噂知ってんのか。」

「噂も何も、貴方は25年前の厄災龍戦の際、ルフィア大司教をかばって亡くなった英雄ですよ。」

クロードの言葉が止めとなり、シュロスはその場でへたり込む。

「話は済んだか。」

「はい、彼は強力な味方になり得る方です。仲間に加えるべきです。」

「お前がそこまで言うのなら、その者の措置はお前に委ねよう。天幕へ参れ。命じた件、聞かせてもらうぞ。」

「分かりました。ただし、今回は同席させたい者がいます。」

そういうと、クロードはアニマを紹介する。

『ひぃぃぃぃ!!』

ジャーダに仕える二人の老婆が彼女が視線に入るやいなや、怯えて奇声を上げる。

「どうした、右婆、左婆!」

「滅びです、滅びです。」

「滅するのです、今すぐあの幼子を滅するのです。」

両婆の叫びに村人が集まり、アニマを凝視する。

(何があった、アニマ?)

(たぶん、あの呪術師はワタシを通してアニムスを見ている。ワタシはアニムスの一部と同じだから、彼女達の言葉にさほどの違いは無い。)

(勘違いしないで。君の身体を構成する要素はアニムスと同じかも知れない。が君にはアニマという確固たる自我が存在する。決してアニムスと同じじゃ無い。)

(うん。そう、信じる。)

天幕に進み、再び相まみえるジャーダとクロード。

ジャーダの両脇には、ドワーフ族と人間族の男性がそれぞれ両脇に座る。

クロードの横には、セラの服を借りたアニマが座る。

「では、報告を聞こうか。」

「はい。宝物庫には宝と呼べるモノは存在せず、ただここに座るアニマと名乗る少女だけが棺の中に眠っていました。」

「アニマと名乗る娘よ。お前には何が出来る。」

「ワタシに出来る事はありません。ただ、禍が起きるというのであれば、クロードと共に禍を阻止する覚悟はあります。」

「続けて問う。その禍は我ら里の者にも及ぶものか。」

「はい。」

「ならば、我らは武器を取らねばならぬ。何故その武器を差し出さぬ。」

「ジャーダさん、その話はボクから行います。ボク達はこれから王国へ向かいます。そして、皆さんを庇護できる人物を探し出します。ですから、決して蜂起など行わないよう、村の方々を説得してください。」

「人物の当てはあるのか?そもそも王国は身分社会じゃ。奴隷から逃げてこの里に棲んでおるのに、再び奴隷に戻る者がどこにおろうか。」

クロードの頬を汗が伝う。実際、クロードに良い打開策がある訳でもなかった。

「それなら、いい伝手を紹介するぜ?」

「シュロスさん?」

「何じゃ、罠に単純にかかる割には、忍び込むのは得意じゃのう。」

(あれにかかったんだ・・・)

「罠の類は専門とは違うんでね。今、王国を大きく変えようと画策する奴さんがいます。彼女に話を持ち掛けましょう。オレも元々、彼女の命令で東の冒険者を連れて来るよう依頼されたクチでして。」

「女子か。それは面白そうじゃのう。」

「じゃあ、ジャーダさん!」

「あくまで一時の猶予を与えたまでじゃ。里が襲われれば、我らは戦う。」

「ありがとうございます。では急いで、ここを発ちます。」

「吉報を待とう。クロード。」

クロードはアニマを連れ、急ぎ天幕を出る。

「シュロスさん、どうやってここまで?」

「ああ、手配してもらった魔術師に、森の近くまで転送してもらった。」

「その魔術師と連絡取れます?」

「いや、そこからは現地の奴隷に案内してもらったからなぁ。」

シュロスの説明を聞き、クロードは顔を青くする。

「マズいですよ、早くその魔術師探さないと!」

「何がだ?」

「ボク達には王国は初めての領域です。未知の場所へのテレポートは領域の狭間に飛んでしまう危険がとても高いんです。」

「マジ?オレいつも緊急脱出用にテレポートの呪符使っていたけど。」

「それ、一人用ですよね?」

「あ、そうかぁ。」

(何かこれ、イズが一人増殖した気がするぞ・・・)

渋い顔のクロードに、シュロスが尋ねる。

「クロード、一つ聞いていいか?」

「はい。」

「ハーフエルフとして生まれた事で神様を恨んだ事無いか?」

「ミレイさんから聞きましたか。無いと言えば嘘になります。」

クロードは一瞬アニマの顔を見やると、立ち止まりシュロスに笑い返す。

「でも今は大人です。誰かに頼られる冒険者である以上、ボクの出生なんか些細な事です。」

「本当にあの二人の子か?お前。」

「何がです?」

シュロスは呆れた表情で首を振り、答える。

「いや、何でも無い。ともかく、今日からはオレもお前のパーティーの一員だ。よろしく頼むぜ、リーダー。」

「ええ、こちらこそ。シュロスさん。」

こうしてまた一人、新たな仲間を加え、クロード一行は次なる目的地、セヴェルス王国都市マデリーンへと向かうのであった。


一方、帝国領北方にて古代遺跡の扉の奥へと向かう特務部隊50名の班分けが行われていた。

「班分けなんて軍学校以来だぞ。さっさと突入で良いだろうに。」

悪態を付くライルにフレイが駆け寄る。

「やったね、ライル。フレイも同じ班だよ!」

「またパパにおねだりしたのか、お前。」

「ん?違うよ、司令官の指示。」

「という事は、残りの三人も知っているのか?」

「いんや?聞いてないよ。」

「そこは聞いておけよ・・・」

「おやおや、こんな僻地でも仲のよろしい事で。」

ひと際響く、少年に近い高音の声。

「何だ、ここでもやるつもりか?」

ライルの声が一段低くなり、声の相手を睨みつける。

「冷やかしのつもりはないけどねぇ。今回は同班という事で挨拶に来たまでさ。」

「貴様が同班?ガリウス将軍は一体何を考えている。」

「彼じゃあ無い。皇帝陛下の勅命さ。ボクは生き残る確率の一番高い者と組む権利がある。」

「小姓風情が。報酬に目がくらみ、また陛下に尻でも振ったか。」

「貴様、陛下を愚弄するか!」

「誰が陛下を愚弄した?単にお前が正体を見せただけだろう、ディザ=クルーウェル特務中佐。」

「ならば、今ここでどちらが上か証明してやる!」

煽られたディザが、怒りの余り剣に手をかける。

「止めてください。限られた戦力で同士討ちをして何がしたいのです。決闘なら後日好きなだけ闘ってください。私は関知しませんので。」

止めたのは青の長い髪に空色の瞳を持つ、同じ軍服姿の女性だった。

「おお、ステビアよ。よく来てくれた。」

「何で貴女が偉そうにしているのです。お目付け役を押し付けられたこっちの身にもなって下さい。」

その姿は軍人らしく慄然とした振る舞いのステビアだが、哀しいかな言葉の節々から苦労性の性格がにじみ出ていた。

「ステビアちゃんの言う通り。二人とも仲良くしないといけませんよぉ。」

そしてライルとディザの首をそれぞれの腋でがっちり固め笑う大男。

「と、トリスタン?!」

「この怪力が、さっさと放せ!」

「じゃあ、二人ともケンカしないで。アタシ達が最後の砦なんだから。」

「つまり、最終組か。」

「何もなくても無傷で陛下からお褒めに預かれるんだ、幸運と思え。」

「本当に何もない事を願いたいわ・・・。」

「5人揃ったし、まずは自己紹介だね♪私は、フレイ=ヴァルザック、19才、階級は特務少佐で、得意な・。」

フレイが得意げに紹介を始めるも、ライルが口を挟む。

「得意分野は火炎魔法。剣術は上。前に立たせておけば、大抵の敵はコイツで済む。」

「ぐぬぬ・・・。おのれ、折角の出番を。」

「なお、年齢は当年21才、と訂正を入れておく。」

「ぐふ。」

「次に、ディザ=クルーウェル。当年19才。階級は特務中佐。得意分野は精神破壊。剣術は下だが、仕込武器を多彩に扱う。フレイと同様、近接戦闘を得意とする為、彼女とのツートップが現状最適な戦陣だろう。」

「次にステビア=ユーリカ。当年25才。・・」

「24です。」

「俺と同期だ。25で構わんだろう?」

「まだ24なんです!」

ステビアの威圧に、ライルは少々引くものを感じつつも口上を続ける。

「当年24才。階級は特務中佐。得意分野は水気魔法。といっても回復、弱体解除が中心になるだろう。剣術は中。だがフレイのような獰猛さに欠ける分、戦い方が正直すぎるのが弱点だ。」

「次にトリスタン=ラジャン。階級は特務大佐。当年34才。・・・」

「嫌だわ、ライル君。アタシはまだまだ20代のつもりヨ。」

トリスタンからの訂正要求に対し、ライルは全く応じる事無く先を続ける。

「得意分野は無い。が、全てを卒なくこなす万能型だ。剣術は上の上。付いても離れても隙を与えない。唯一の欠点は、コミュ強過ぎるのとオネエ言葉くらいか。」

「ライル、唯一なのに二つ言ってるぞ。」

「良いんだよ、フレイ。この人にはダメージにもならん。・・・最後は俺、ライル=オルトロス。当年25才。階級は特務中佐。得意分野は闇。光、雷魔法なら完全に打ち消すことが可能だ。剣術は上。少なくとも、大佐とフレイ以外には勝つ。・・・以上、どうでしょうか、俺の見立ては。ラジャン大佐。」

「良い線行ってると思うわよ。でも、その見立てだとアタシはステビアと後方援護に回るのが良策になるから、このパーティーのリーダーはオルトロス中佐、アナタになるけど?」

「あっ・・・。」

「ライルがリーダーかぁ。うん、フレイも一票入れるん♪」

「私もライルに。これで三対二。決定です。」

止めとなった、ステビアの反撃を許さない一言。これでパーティーのリーダーは決まった。


数刻の後、ライル達に声が掛かる。

「どうやら、帰還者はゼロ、だそうよ。」

「何でそんなに楽しそうなんですか、大佐。」

呆れ顔で問いかけるライルに対し、トリスタンは笑顔で答える。

「あら、任務はスリリングなほど楽しいものよ。」

「他の二人と真逆な事言ってますけど。」

「あらそう?じゃあリーダーさん、後はよろしくね。」

(ああ、この妙な自信は、“他を置いても、自分は絶対生き残る”という確信だろうな。)

その後、調査隊最後の砦である5人は一路、扉の奥へと進む。


先に進めど人の気配を感じない5人。しかし違和感を覚えるのはライルとステビアのみ。

フレイとディザは我先にと3人を置いて先に進んで行ってしまう。

「放っておいていいの?リーダー。」

「庭園で走り回る犬と同じです。付き合った方が負けですよ。」

(いいのかな・・・本当に)

困惑するステビアにライルが忠告する。

「そろそろ覚えた方がいいですよ。アレの獰猛さを。」

「そ、そうなの?」

すると物凄い勢いでフレイが戻ってくる。

「いたいた!みんなやられてた!何かでっかいのに。」

「いや、その前にディザはどうした?」

「知らない。」

「知らないじゃないだろ、ここじゃ貴重な戦力だぞ!」

大慌てで走るライル。それに追随して三人も地下へと下りていく。


地下へ進むに連れて、むせ返るような血の臭い。

「どうやら一箇所でまとめて屠られたようだな。」

「ライル、ディザいたよー。」

フレイの指した方角には、血を吐きうずくまるディザの姿があった。

「いけない、直ちに治療を・・・。」

ステビアの振り向いた部屋の先には、円形の闘技場に似た巨大なホールに立つ、二体の巨人の姿があった。そしてホール一面に叩きつけられた調査隊の死体が肉塊となって転がっていた。

「酷い・・・。」

ステビアは涙を堪えつつ、ディザの治療に当たる。

「痛っ。何なんだ、あの女。一体、どんな体力してやがる。」

「お前、フレイの力知らないのか。」

「だったらどうだって言うんだ。」

「巨人が2体。1体はフレイに任す。お前どうする?」

「調査隊をほぼ全滅させた巨人だぞ?たった一人で倒せるものかよ!」

「わかった。」

ライルはフレイの方を見やると、巨人を指し告げる。

「フレイ=ヴァルザック特務少佐。敵巨人二体、狩れるか?」

「私一人で?」

「無論。」

「了解であります!」

その掛け声と共に、フレイは二体の巨人に駆け寄っていく。

「オルトロス中佐、いくら何でも無茶です!」

「見ててください。ユーリカ中佐。」

ライルは笑みを浮かべ、その先のフレイを見つめる。

「行くよっ、ロイジィ。」

フレイは両脇の長剣を抜く。二本の剣は、瞬く間に炎をまといフレイの全身を覆いつくす。

左の巨人が、その巨大な手をフレイに叩きつける。が、フレイの身体は無傷のまま、巨人の手を貫通していた。続けてもう片方の手をフレイに叩きつけようとするも、すでにフレイは腕を伝って巨人の肩まで到達していた。

「にパ☆」

フレイは巨人の首筋に狙いを定め、急降下し炎の剣で切り結ぶ。続けて巨人の崩れ落ちる身体を足掛かりにし、四方八方から炎の斬撃を繰り返していく。遂に巨人は片膝を付き、その動きを止める。フレイは空中で両手に剣を携えたまま、呪文を詠唱する。

「天が許そうと、我は許さじ。我に仇為す者、炎の怒りを知れ。」

彼女の詠唱が終わりに近づくと、巨人の傷跡から炎が噴き出し始める。

「滅べ、地獄の業火と共に。炎の傷跡(フレイム スカー)、オーバーシュート!」

呪文の完成と共にフレイが斬り付けた傷口から溢れ出すマグマの様に炎が吹き出す。そして轟音と共に巨人は崩れ落ちていった。

「まず、一体!・・・え?」

巨人を倒し、一息ついたフレイの間隙を突き、もう一体の巨人が掌をフレイに叩きつける。

「きゃっ!」

「あの馬鹿、油断したな。」

ライルは剣を鳴らすと、瞬時にフレイの元へ向かう。

「私も行きます!」

ステビアの行動に対し、トリスタンが制止する。

「君の役目はディザの介護。今、気を失っているから静かでいいけど、彼が飛び出していかないように治癒呪文の効果控えているでしょう?」

「でも、私、オルトロス中佐の強さを余り知らなくて。」

「それなら、一緒に鑑賞しましょう。フレイが絡んだ時のライルはきっと誰よりも強いから。正に『愛こそ正義』よ。」

「は、・・・はあ。」


ライルは、落下し地面に直撃する寸前でフレイを抱きとめる。

「おい、何変な演出させてくれるんだ。お前自分で二体片付けるって言っただろう。」

「えー、せっかく“愛する部下を決死の覚悟で助ける上官”という一大シーンなのに。」

「しかし、一体撃破はよくやってくれた。っと、呑気に喋ってられる場合じゃ無ぇ!」

巨人の放つ、飛来する張り手を交わし逃げる二人。

「フレイ、お前は戻れ。リーダーの命令だ。」

「一緒に戦おうよぉ。」

「褒美に、お前の好きな『ライル=オルトロス』を見せてやる。」

「ホントに!うん、じゃあ戻る戻る。」

フレイはスキップしつつ、ステビア達の元へ戻っていく。

片方のライルは剣を杖に片膝を付き、うずくまっていた。

「まさか、自分のセリフで精神的苦痛を負うとは・・・」

そんな彼の心中を巨人は知る訳も無く、執拗に張り手攻撃でライルを追い詰める。

「ティアマト、起動。」

ライルは長剣を抜き、巨人と対峙する。紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、と明滅の色を刀身は変えていき、最後は漆黒の刀身となる。

「いーなー、あれ。フレイも欲しい。」

「何か意味があるのでしょうか。大佐はご存じなのですか?」

「語る時があれば、ライルから語るはずよ。」

そしてライルが動く。彼の言葉通り、その動きはフレイの剣の冴えに劣らぬ速さだった。そして切り口が浅いフレイと違い、ライルの一撃は確実に巨人の肉体を砕いていく。

「大佐、オルトロス中佐の剣の腕は素晴らしいと感じますが、“闇魔法が得意”とはどのような意図があっての発言だったのでしょう?」

「どちらかというと、得意な者が多い『光、炎、雷』の魔法に対する相殺手段、の色合いが強いわね。つまり、対魔法戦士を想定して習熟・・・あら、口が滑っちゃったかしら。」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「それより、カタが付きそうよ。」

トリスタンが指を差す方向には、両手足を失って動きを封じられた巨人がライルの前にもがいていた。

「再生されても困るからな。徹底的に潰す。」

ライルは呪文を唱える。巨人の後ろに出現する巨大な黒い空間。

「永久(とこしえ)の闇に呑まれ消えろ。次元門(ディメンショナル ゲイト)!」

呪文の発動と共に、闇に呑まれ巨人は姿を消す。

「やったー、勝ったー!」

フレイは、いの一番にライルに飛びつき喜びを分かち合う。

「くっつくなフレイ!ステビア、ディザの方はどうした。」

「大分自信喪失しちゃったみたい。これじゃあ、特務隊も引退かしら。」

ライルの問いに、トリスタンが答える。

「じゃあ、その件は大佐に任せます。ヤツとは俺も関わる気は無いんで。」

「それならガリウスに返しておこうかしら。アタシも必要ないし。」

「まだ、任務完了していませんから、今後の件は後にしません?」

ステビアがディザの回復を済ませた後、一行は巨人が立っていた壁の前に立つ。

「何か彫ってあった形跡はあるが、劣化して分からないな。」

ライル達がそれぞれに壁を調べていると、突然大きな揺れと共に壁が沈んでいく。

「ライル、今度は何をした?!」

「勝手に俺のせいにするな、フレイ!・・・奥に誰かいる?」

壁が沈み終わると、パン、パン、パン、という乾いた拍手の音。

「実に楽しい見世物だったよ。特にその二人。」

鈴の音の様によく通る、声の名は棺に座る一人の少年だった。

透き通るほど白い肌。そして白目を持たない全くの黒の目。

「お前がこの遺跡の主か。」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。」

「小僧、勿体ぶらずはっきり言いやがれ!」

ディザが大声を上げ、少年を恫喝する。

「ボクは君達、帝国の救世主だよ。その様な無礼、皇帝陛下が許すとでも思うのかい。」

やがて周囲に明かりが灯り、部屋の全容が判明する。

「こ・・・これは、巨人?いや、鎧を装着している。何だ、一体。」

「そしてこの数。ざっと見ても50体はありそうね。」

「これは怪物?生き物では無いようですが。」

「あ、フレイ、あの子に決―めたっ。」

「これは力、チカラを感じる。これが全て帝国兵となるのかっ!」

ディザの言葉に少年は笑う。

「その通りだ少年。ボクはあるモノを探している。それに協力さえすれば、この神の如き力は君達に委ねられる。」

「ディザ下がれ。この化物は危険だ。」

ライルは剣に手を掛けるが、トリスタンがそれを遮る。

「大佐、アンタのヤツの口車に乗る気か!」

「乗ってみてもいいんじゃないかしら。彼は未知の力を握っている。それはひょっとしたら彼女を救う切っ掛けになるかも知れないわ。」

「!?」

「相談は終わったかな?ボクは別にキミ達である必要は無いんだ。」

「・・・話を聞こう。俺はセヴェルス帝国所属特務中佐ライル=オルトロス。」

「ボクの名はアニムス。このオベリスク達を使って、アニマという赤い目を持つ女の子供を探してほしい。」

「オベリスク?」

「君たちが見た、この巨人たちの事さ。そして存分に味わうといい。無敵の暴力を手に入れた快感を、ねぇ。」


今日はここまで。またの機会にお会いしましょう。

私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部よ。

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