第44話 オタク仲間_現状を確認する2

「次は、僕ですね」


 若槻さんを見ます。


「まあ……、あれです。東西南北の軍需物資を奪って貧困にあえいでいる人たちに配っています。それと、他の異世界召喚者に仕事を振って、この国の改革を行いました」


 2人が笑い出します。


「おいおい、簡単すぎないか?」


「そんじゃさ。貧民街のシスターの話をどうぞ。一番、異世界を楽しんでんだろう?」


 若槻さんは、苦笑いですね~。王都で活躍していたので、知らないのは私だけなんでしょうか。


「それと……、異世界召喚者の内、3人を死なせてしまいました」


 おやおや? 死亡者が出てしまいましたか……。


「稲葉と同じ攻撃系タイプみたいだったんですが、迷宮ダンジョンから帰って来なくて、探しに行ったら死亡していました。冒険者になりたいと言ったので、意見を尊重したのですが……、失敗でした」


「そいつらは、将軍候補だったんだけどな。まあ、自業自得だ」


 迷宮ダンジョン? そんなところがあるんですね~。流石は、異世界です。

 それと、先走った人がいましたか……。時間をかけてレベル上げすれば、稲葉さんクラスになれたんでしょうに。


「まあ、問題ない。あいつらの私物は回収したから、別の次元で生き返らせる」


 全員が、鈴木さんを見ます。


「生き返らせる?」


「ワイの話は、次にしよう。若槻、続きを頼む」


 若槻さんが、ため息を吐きます。


「まあ、僕の話は、皆知っていそうですけどね。中流階級と貧民層を救って来ました。川の水が汚染されていたので、『スライム』を放って浄化させたのが大きかったですね」


 スライム? 話を聞くと、ゴミを食べてくれる魔物らしいです。

 そんな便利生物がいたのですね。前世でも欲しかったですよ。

 それと、中流階級以下の支持を得たのは大きいですね~。封建社会みたいですけど、数は正義です。


「貧民層は、労働力になっているからいいんだけど、マフィアのボスって危なくないか?」


 マフィア? 若槻さんは、なにをしていたんでしょうか?


「どんな社会でも、裏がないと生きていけない人たちもいるんですよ。冒険者がいい例ですね。言ってみれば、『何でも屋』なんですし。それに、マフィアも淘汰されていて、一つの家しかいませんでした。抗争するのであれば、他国で行って貰いたいと思います」


 ふむ……。裏社会ですか。

 若槻さんは、私以上にこの社会に溶け込んでいますね。

 元社会人として、恥ずかしいかもしれません。


「まあ、時期が来たら、彼等は兵士になって貰います。制圧兵の水増しですね」


 若槻さんも、怖い人材だったみたいですね。


「食料は、どれくらいの貯蓄がありますか?」


 私だけ知らないので、聞いてみます。


「う~ん。この大陸の住人が数年食べて行けるだけはあるかな~。燃やされると困るんですけどね」


 政治・経済・物流を、牛耳っていませんか?

 怖すぎます。



「そんじゃ、最後にワイだな」


 そうでした……。私の佩いている日本刀もどきを作った鈴木さんがいました。

 恐怖を感じるのは、これからなのかもしれません。


「まず……、前世に帰れるぜ!」


「へっ……?」


 私が間抜けな声を出すと、2人が笑い出しました。


「まあ、なんだ。元の世界に帰るのに『国宝』が必要って言ってたじゃん? そんなもんはないと、稲葉から連絡を受けてさ、自分で作ることにしたんだわ」


 作る? なにを?

 その後、鈴木さんのラボに移動します。


「……壮観ですね~」


 ラボには、すっごく大きな、プラントみたいな装置がありました。


「とりあえず、元の世界に行って帰って来た。魂を半分だけ、前世に送り込んだ感じかな? 飯食って帰って来たよ。ハンバーガーを食べて来た」


 なにを言っているのか、分かりません? これが、『電波』という人なのでしょうか……。


「もう、試運転も終わってんだ?」


「ああ、だけど異世界との往復は混乱を招く。戻りたい奴だけにした方がいいな」


「……死亡した人は? 先ほど、戻れるようなことを言っていましたが?」


「それよりもさ、俺たちは本当に前世で死亡したのかを確認すべきじゃね? 戻っても、肉体が瀕死じゃ意味ないだろう?」


 ほう……。もうそんなことを考えているんですね。

 ついて行けないのは、私だけみたいです。


「順番に行こうか。まず、死亡した3人だけど、実験に使わせて貰った」


 怖すぎるんですけど?

 どんな実験体にされたのか……。


「そんで、異世界転生するタイミングだけど、本当に死亡する直前だったんだ。あっ……、3人は別な世界の住人な。ワイたちは、前世で面識はないって結論になっている」


「異世界転生の直前の記憶って、ないんだよな……」


「見てやろうか? ハンカチでもあれば、トレースできんだぜ?」


 ここで、若槻さんが、ハンカチを出しました。彼だけは、学生服のままですからね。

 鈴木さんが受け取って、装置にセットしました。

 カチャカチャと何かしていると、画像が映りましたよ。

 若槻さんが、平手打ちされているんですが?


「若槻……、女に振られてんじゃん。その後に、トラック転生か?」


「あ~、かなりショックでしたからね。彼女と別れた後の記憶が、なかったです」


「前世に帰るのは、この振られた直後な。トラック転生の一分前なら時間軸も大きく狂わないと思う」


 ほう……。時間も操れるのですか。

 鈴木さんの技術は、神様レベルのような気がします。


「なるほど。それで、死亡した3人は?」


 鈴木さんが、カチャカチャと設定を変えます。


「あのヤンキーは、子猫を助けようとして4階から落ちたんだよ」


 その映像が出てきます。

 その続きなのですが……、子猫がヤンキーさんに近寄って手に乗りました?


「ちょっと、因果律を変えて、死亡することはなくした。まあ、なんだ。あの映像のヤンキーは、この世界に来なかったことになっている。他の2人もちょっと変えておいた。厳密に魂とか考えると違うんだけどさ、まあ他次元で生きていると思っていいよ」


 因果律を変えた?

 鈴木さんは、神ですか?


「これで、退路の確保もできたな。後は、大陸の統一だけだ」


「おいおい。ワイの活躍も聞いてくれよ。これだけで、満足しないでくれ」


 皆で笑い合います。


「まず、女王の一族は、追放処分だ。それと、王様とは意思の確認が終わっている。若槻と一緒にこの国を変えているから、もう敵対勢力はないと考えてくれ」


「途中で、戦闘ヘリコプターを見たのですが……。あれも、鈴木さんの製作ですか?」


 鈴木さんが、いい笑顔を向けて来ます。


「やっと、触れてくれたか。大将が時間を作ってくれたからさ。ワイも戦力になれるモノを作っておいた。東国に攻め込んで、王城を吹き飛ばしておいた。それと、投降兵を多数確保している」


 鉄砲だけでも十分なんですけどね。

 怖すぎます。

 ミサイルとか搭載しているんですが……。この世界の戦争は、どうなってしまうのでしょうか。


「捕虜は、面倒じゃないですか?」


「そこは、懐柔している。もう、中央国の兵士と思っていいよ」


 ……懐柔の方法は、聞かないでおきましょう。薬品だと思いますが、口には出せません。


「それと、零戦みたいなプロペラ機もある。移動用に使って貰ってもいいぜ。大将専用機にして、この大陸を周って貰ってもいいな」


「私は、飛行機免許なんて持っていませんが?」


「まあ、なんとかなるよ」


 スルーされてしまいました。この後操縦マニュアルでも貰えるのでしょうか?

 でも、空飛ぶ乗り物の初フライトですか……。

 怖いな~。


「兵士の移動は、トラックで十分だろう。あの自衛隊が使っている……」


「73式大型トラック……な。(げふん、げふん)」


 私が、前線で四苦八苦している間に、状況は大きく動いたみたいですね。

 それだけが、分かりました。

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