第43話 オタク仲間_現状を確認する1

 今は、4人で別室に移動中です。パーティーの真っ最中ですので、手短にしないと怪しまれてしまいます。異世界召喚された時と同じですね。


「そんじゃさ。手短に現状確認と行こうぜ」


 稲葉さんの言葉に、全員が頷きます。


「まず南国のサンドランドはどうなったんだ? レベル上げもさせずにいきなり行かせちまったけど。大将は、大丈夫だったのか?」


 南国は、私の担当ですね。


「途中で野生生物に襲われましたが、撃退できました。盗賊狩りも少々行っています。それと、戦場では首狩り戦法で指揮官を消して行って、混乱した敵兵を包囲する戦法をとりました。砦は、落とされていません」


「千人斬りって話が、聞こえてきましたが? 結構派手に立ち回っているイメージだったんですけど?」


 噂になっているのでしょうか……。

 ちょっと、恥ずかしいですね。


「〈透明化〉を見破られてしまいまして、囲まれた話ですね……。この刀がなかったら、危なかったでしょう。まあ、武器は戦場に落ちているので、不足はしないんでしょうがね。それでも、この刀は優秀の一言に尽きます。私から言わせて貰えれば、幻想級レベルですよ」


 カチャッと刀の音を鳴らします。

 3人は、絶句していますね。


「本当に、人力で千人倒したんだな……。職業とかスキルがあるけど、おとぎ話のレベルじゃん? 漫画レベル?」


「ラノベの主人公でも、いきなり無双はないですね。一度落ちてから、開眼して無双がテンプレです。本当に、漫画レベルの話です」


「漫画にするのは、無理じゃね? 成長過程が面白いんだし。だけど、戦国浪漫モノなら……ありかな?」


 まあ、そうですよね。剣と魔法の世界ですが、実際の戦争で千人倒せるのは、弓兵くらいですからね。

 漫画みたいに、一振りで10人を吹っ飛ばすなんてのは、不可能でした。


「それで、王都を制圧しなかった理由は、なんなのですか?」


 王都の……制圧?


「私の受けた指示命令は、戦争の遅滞行動でしたから? 南国のサンドランドは、理解できないのですが、兵士を全投入するくらいに戦力を投入して来ましたね~。意味が分かりませんでした」


「あ~。それは、僕が仕向けました。軍事物資を奪ったモノで……。食料がないので、兵士を減らす戦略に変えたみたいですね。それでも、大将が防衛しきるとは、思わなかったんでしょうね」


 裏事情があったのですか……。それで、あの尋常じゃない兵士数が理解できましたよ。全滅するまで、攻城戦を仕掛けてきましたしね。

 砦の下には、数万人の兵士が眠っているんですが……、これも誘導だったのですね。


「この赤いマントは……、誰かの指示でしょうか?」


「いや、大将が認められた証だな。俺は、分捕ったけど、大将は将兵に頭を下げられて受け取ったと聞いている」


 う~ん。そんなに活躍はしていないと思うのですが……。

 怪我人の〈回復〉が、大きな手柄になったのでしょうか?


「まあ私は、当初の目的通り戦争の遅滞行動と砦の防衛を行って来たということで」


「あはは。その気になれば、南国を攻め滅ぼせたのに?」


「砦の兵士数では、制圧は無理でしたね~。援軍も来なかったですし」


 そこまで、見越しているんでしょうけど。あえて言わせて貰います。


「まあ、大将なら分かっていると思うけど、兵士を鍛えていたんだ。この後、大陸の統一に向かう予定だ」


「そうだろうと思っていました。送られて来たのが、武器防具と薬品、それと食料だけでしたからね。それでも、防衛戦だけなら十分な物資でした」


 若槻さんと鈴木さんが、いい笑顔を向けて来ます。



「南国は、連絡通りだな。攻め込んでいないんだし、そこまででいいだろう。次は、俺な。北国のネオランドは、侵攻したのでちょっと複雑になっている」


 稲葉さんを見ます。


「……侵攻――したのですか?」


「大将と違ってさ、兵士を連れて行けたんだ。まあ、俺が練兵したんだけどな」


「ふむ……。複数国に同時侵攻されていたと書かれていましたが、稲葉さんの相手国が可哀相に思えてきます」


「あ~そうだ。途中でさ、盗賊退治をしたんだった」


 あらあら……。南だけでなく北にも盗賊が出ましたか。

 国として、終わってませんか?


「盗賊のアジトを焼いておいた。そんで、捕虜から情報を得て、他のアジトも潰して来たよ。しばらくは、治安も良くなると思う。若槻が、食糧援助してくれているしな」


「その話は、置いておきましょう」


 その食料は、何処から生み出されたのでしょうか……。

 まあ、後から聞きますか。


「まず、3千人の兵士で国境まで進んだ。そうすると、2万の軍隊とのガチンコ勝負だったよ」


「ガチンコ? 圧勝だったのでしょう?」


「まあ、俺は魔法が攻撃特化だからな。敵陣を焼いたら撤退した」


「なに言っているんですか。貴重な食糧庫共々、溶鉱炉にして……」


「先に奪っておいてくれよ」


 怖い話を、さわやかな空気で話して行くのが怖いですね~。

 笑顔で話す内容では、ないと思うのですが。


「そんで、王都に向けて進軍すると途中に関所があって、瞬時制圧。そこを拠点にして王都攻略を考えていたんだけど、また平地戦になった」


 もうね……。稲葉さんの攻撃力が羨ましいですよ。敵兵数なんか聞けないですよ。


「また、瞬時制圧なんだろう?」


「う~ん。ちょっと小さめの爆発を起こしたら、逃げて行った……かな?」


 小さい爆発で、敵軍が四散するモノですかね~?


「それで、王族から休戦協定の依頼が来た。無条件で王都を明け渡すなら、王族貴族に手を出さないと約束すると、逃げてったよ」


 ここで、疑問を感じます。


「王族を倒せば、平定になりませんか?」


「東西の国がさ、攻め込んでいたんだよ。大将も、西国から攻められたんだろう? あのタイミングで国が亡ぶと、領土を大幅に持っていかれるって判断だ。それに俺が、左右の国を止めるための休戦協定でもあった」


 考えていたんですね~。若いのに先見の明があります。

 いえ、知識量なんでしょうね。


「そんで、東西の国の軍隊を撃退した」


「全滅させた――ではなく?」


「う~ん。8割くらいの損失で抑えた……かな?」


 やっぱり、稲葉さんは怖いですね……。それ、ほぼ殲滅ですよ? 生き残っても無事じゃないんでしょうし。


「その後は、若槻と組んで復興だ。今は、民を手懐けている状況かな~」


「元王族は、残しているのですか?」


「ああ、国境近くの小さい城で細々と暮らしているみたいだ。北国の領土は、ほとんど降伏したよ。まあ、あと一歩ってところで止めている感じかな~」


 やはり、稲葉さんは怖いですね。

 魔法だけではありません。戦略眼も持っているみたいです。


「私以上の成果ですね」


「レベル上げする時間を貰ったし、3千人の部下もいるんだ。比較はできないよ。まあ、攻撃魔法特化の俺だ。攻め込んで、城の一つも落とせなければ、使えなくて追放じゃね?」


 ふむ……。謙虚ですね~。

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