第38話 科学オタク_策謀を巡らせる

 女王が水面下で進めていた、休戦協定は破棄させた。

 貢物も集められるだけ集めて、返却する。

 ついでに、返却物の中に爆弾を混ぜてもいいが、それではテロだな。

 挑発にしては、やりすぎだと思う。


 その後、東国のエアタリアから来る使者は、俺が担当することになった。

 まあ、もてなさずに、追い返すだけだけどね。


 そんな感じで、三回程度使者を追い返したら、もう来なくなった。


「――ピコピコ。東西南北の四国が、怪しい動きをしています。使者が活発に往来しています」


 突然、『AI』が語り出した。


「それ……、俺たちにとって不利益か?」


「――ピコピコ。同時に4方向から攻め込んで来るのでしょう。防衛態勢を整えれば、迎撃は可能です。一度に全ての王都を落とすことも可能ですね。不利益はないですが、無駄な血を流さないようにしなければ、大陸の統一後に反乱が起きるでしょう」


 ……ダメだ。こんな普通の回答を望んで、こいつを作ったわけじゃないんだ。


「東国のエアタリアは、どんな進軍経路をとるか分かるか?」


「――ピコピコ。海軍でしょうね。海を渡るしか道はありません」


「何時、出陣するんだ?」


「――ピコピコ。大臣の意見が真っ二つに分かれています。若槻殿が、食料の大半を奪ったので、軍事行動は後一回しかできません。もしくは、来年ですね」


 若槻がやり過ぎたのか。泥棒するにしても、四国の軍事物資を奪い過ぎるのはどうかと思う。

 まあ、中央国のセントラルガルド王国内は物資で溢れている。

 流通も支配しており、多過ぎず少な過ぎずを維持しているらしい。

 貨幣の流れが、活発で好景気になったとか聞いた。


「……一国が豊かで、他四国が貧しかったら、戦争になるよな~」


「――ピコピコ。後一回、東国に経済的打撃を与えてはいかがでしょうか?」


 それも一つの手か……。





 駐在している東国の大使に、話を持ちかける。こいつらは、戦争が始まったら、死刑台送りの人質でもある。


「食料を売りたいと?」


「ああ……、過剰生産らしくてな。輸送船を回してくれれば、港で引き渡そうと思う」


 かなり嘘を含んだ話を持ちかける。

 だけど大使は、慌てて部屋を出て行った。

 本国と連絡を取るんだろうな。電話がないのは確認済みだ。だけど、〈念話〉があった。この大陸でもほんの数人しか使えないスキルだと聞いている。


「若槻を呼んでくれ」


 東国の話し合いが終わる前に、ワイは計画を伝えようと思う。

 ワイは、応接室からラボに向かった。





「……。こんな感じで行きたいんだが。どう思う?」


 今ワイの目の前には、若槻がいる。


「う~ん。反対ですね。食料を売っても一般市民には届きませんよ? それどころか、攻めて来るんじゃないですか?」


「それならそれでいい。ワイが迎撃する。それよりもさ、飢えた農民が怖いんだよ。矛先を国の中枢や軍に向けてくれるのであれば、いいと思っている。頭のない飢えた集団が生れるのが怖いんだ」


「上手く反乱を起こしてくれるかどうか……。賭けになりますね」


「飢えた人間なんて、獣になるんじゃね? 徴発でもされて、軍隊だけ食べれるのであれば、不満も高まるだろう?」


 若槻は、考えている。


「――ピコピコ。成功確率は、80%以上です。若槻殿が協力してくれれば、99%以上でしょう」


 AIが、援護射撃をしてくれた。つうか、勝手にしゃべるな。


「なんですかそれ? 人工知能?」


「そのままだな。『AI』って呼んでいる。情報処理が面倒でさ、雑務を熟して貰っているんだ。まあ、最終的には、ミサイルの弾頭にする予定だ。核を使う予定はないんだが、万が一を考えている。今一番火力の高い、燃料気化爆弾サーモバリックの誘導に使えれば、本望だろう」


「――ピコピコ。この、人でなし!」


 若槻が、呆れた顔をした。


「人格を持っていませんか? 僕の前世では、そこまでの人口知能は作れていませんでしたね」


「まあ、ワイの前世でも同じだ。だけどさ、この世界には魔法がある。前世になかった物質もな。この世界で組み合わせれば、なんだって作れんだよ。錬金術師が作った『ポーション』なんて怖いぜ? まあ、知ってるだろうけどさ」


「まあ……、クラフト組(生産系)の成果は、僕も把握はしています。でも……そうですね。その背後にある装置の説明をして貰ってもいいですか?」


 ゴウン、ゴウンと不気味な音を響かせている、その装置。

 他にもあるんだけど、若槻は情報を得ているんだな。隠せていなかったか。


「まあ、あれだ。元の世界に戻る装置だ。異世界転移じゃないみたいだからな。魂だけ、前世の肉体が正常な時間帯に戻すことを目標にして作成した」


「女王が言っていた『国宝』はすぐに嘘と分かっていましたが。……完成は、何時ぐらいですか?」


「んっ? 今からでも帰れるぜ? でもさ、大陸の統一くらいは、したいかなと思っている。全員が集まったら、帰りたい奴だけ帰す感じかな? 残りたい奴もいるんじゃね?」


「疑う気はないんですが、成功率は?」


「俺は、行って帰って来た。魂を半分送ってな、飲食して戻って来たよ。でも……、往復可能な異世界転生とか、混乱しかもたらさないと思う。残るか帰るかの、一択だな。そこは、譲れない」


 若槻が、笑い出す。

 まあ、そうなるよな。最終目的がもう適っているんだ。生産系の人材の中には、すぐにでも戻りたい奴もいるんだろうし。

 好き好んで戦争に首を突っ込むのは、頭がイカレている。ワイもだが。


「死亡した人は……、戻れませんよね?」


「あ~、そいつらを実験に使った。とりあえず記憶を消して、平穏に暮らしているんじゃね? あのヤンキーは、自滅していそうだけどな」


 若槻が、安堵の息を漏らす。

 戦闘系の3人は、本当であれば、将軍となって兵を率いて貰っていたはずだ。

 迷宮ダンジョンで死亡したらしいが、若槻が責任を感じていたか。

 ワイから言わせて貰えれば、自業自得なんだけどな。


「……呼び戻すか? 20人揃っての大陸統一を希望するならだけど」


「いえ……。混乱しかもたらさないと思います。人材は、十分ですし彼等は必要ありません。この世界では、死亡したことになって貰いましょう。物語的にも、多少こちら側にも被害があった話にしないと、後世でなにを言われるか分からないですしね」


 うん? 後世? 異世界召喚者が、大陸を蹂躙したでいいんじゃね?

 まあ、戦後の記録は、若槻に任せればいいか。ワイは、国語は苦手だ。理系なんだよな。


 その後、若槻が協力を申し出てくれた。

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