第37話 科学オタク_東を望む

 西のウミタリアには、連戦連勝を続けていると連絡が来た。

 まあ、そうなるよね。

 そこそこの武器は、持たせたつもりだし。

 圧倒はしないが、苦戦もないはずだ。

 後は、兵士を失わなければ、負けはないだろう。


 ワイは、資料をテーブルに置いて、レーダーを見た。

 海を隔てた先に、東の国がある。

 まあ、海と言っても、数十キロメートルしか離れていないが。


 地形的に、いくつかの島がくっついて、この大陸になったんだと思う。

 世界地図が手に入らないが、地球に対して日本よりも小さい大陸の争いなんだろうな。


「海の先に、本当の冒険が待っているのかもしれない……」


 某有名漫画の、『暗黒大陸』が連想できた。(げふん、げふん)


「東国のエアタリアは、動かないな……」


 稲葉が、北で少し交戦したらしいが、イマイチ意図が読めない。

 一ヶ月も時間があれば、戦争の準備など整うだろうに。


「もしかして、攻めて来ないのか?」


 ワイが、惑わされている? これが、ミスリードになるのか?

 だとしたら、エアタリアの攻撃目標は何処だ?

 レーダーは、エアタリアを全て補足している。ただの金属レーダーだが、それこそ荒野で独りで暮らしている人物の動きでさえも捕捉できる精度だ。


「エアタリアの軍に動きはない……」


 それだけは、確信を持って言えた。

 そして、兵士は対岸に集まっている。

 補足は、出来ている――はずだった。


 どうすべきか……。


「先制攻撃……」


 いや、制圧後に民衆が懐かないのでは、意味がない。

 住民まで皆殺しにするのは、下策でしかない。

 殴るなら心であり、目標は心を折ることにすべきだ。

 ワイは、そんな戦争がしたい。


 思索を続ける。


「精鋭……。極少数を送り込んでいる場合……。暗殺者タイプか?」





 とりあえず、王城に張り巡らせた、盗聴器の確認を行った。

 だが、不審者は見つからない。

 ワイは、次に街に放った盗聴器を確認することにした。


 数千人の声を一度に聞き分けることなどできない。

 ワイは、そんなスキルは持っていないので、作ったばかりのAIに学習させる。ワイが作った、学習型対話AIだ。

 先日、会話ができる程度の知能を持たせた。

 ディープラーニングの替わりに、街の声を学習させる。

 さて、質問してみるか。


「なあ、AI……。怪しい話をしている奴はいないか?」


 そのうち、名前をつけてやろう。今は、今後使えるかどうか分からないので、『AI』と呼称する。

 最悪は……、廃棄だな。ミサイルの誘導くらいはできるだろうから、弾頭に乗せてやる予定だ。


「――ピコピコ。女王が、怪しい動きをしています。東国と水面下で同盟を組もうと画策しているみたいです」


 同盟? こちらが優位なのに?

 そもそも、国が追い詰められていたので、異世界召喚なんて外法に手を出したんだろう?


「なんで、同盟を考えているんだ? 大陸の統一まで、後少しじゃないか?」


「――ピコピコ。申し上げにくいのですが、……異世界召喚者が恐ろしくなったのでしょう。それと、東国からの貢物が魅力的だったみたいです」


「どんな、貢物だったんだ?」


「――ピコピコ。化粧品ですね」


 ため息しか出ないよ。化粧品目当てに、国の大事を変えるのかよ……。

 戦争してんだぞ?


「どうすればいいと思う?」


「――ピコピコ。錬金術……で、『若返り薬』を作って貰うのがいいでしょう」


 なるほどね。



 ワイは、錬金術師の元に向かった。


「おう、鈴木殿。今日はどうした?」


「ちょっと、相談があってな。協力してくれないか?」


 ワイは、錬金術師に詳細を話した。


「……なるほど、それで『若返り薬』が必要なのか。でもさ、池上だっけ? 南の国を抑えている人に頼めば良くないか?」


「今、国境から動かすと、軍事バランスが崩れそうで怖いんだよ。特に、稲葉と大将(池上)は、重要なんだ。西は、薬品と武器防具で防衛させてんだしさ」


 錬金術師が、ため息を吐いた。

 そして、飲み薬を渡してくれた。


「もしかして、作っておいてくれたのか?」


「まあ……ね。なんとなく必要になりそうだったので」


 もう一人、怖い奴がいたな……。

 こいつの作るモノは――正直ヤバい。現地人は、その効果に引いている……。ワイも、怖いと思う。

 この錬金術師の前世は、どんな世界だったのか……。少なくとも、ワイいた世界とは大きく異なるんだろう。

 薬品を受け取って、錬金術師のラボを後にした。

 あれをラボと言っていいのか……。ワイには、黒魔術とかの怪しい儀式を行う部屋にしか見えなかった。



 その後、王様に相談しに行く。


「ふむ……。女王一派が、東国と同盟ね~」


「ここで、時間の浪費を行うと、異世界召喚者が反乱を起こしかねませんよ? 止めて貰えませんか?」


 その後、『若返り薬』を渡す。

 女王に上手く渡れば、考えも変えてくれると思う。

 王様は、考えると言ってくれた。





 次の日に、連絡が来た。


「女王が、赤子になった?」


 詳細は分からないが、東国のエアタリアからの貢物に薬品が混ざっていたことになっていた。

 この日から、女王一派は、急速に発言力を失って行く。

 各地の領地に帰って行ったのだとか。民衆の反乱が起きそうなんだとか、本当かどうかも分からない噂が聞こえて来る。どんな政治をしていたんだよ。


 これで、中央は若槻が掌握してくれるだろう。若槻が、宰相になってもワイは驚かない。


「ふう~。ワイの周囲には、怖い奴しかいないな。ワイも頑張んないと……」


 あいつらが、味方で良かったと思おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る