第18話 漫画オタク_敵陣を蹂躙する
俺の率いていた部隊が、砦に到着した。敵陣を蹂躙して、撤退させた後なので、結構ボロボロだな。戦闘の痕が見える。
戦争に勝ったとはいえ、砦にいた兵士はほぼ壊滅状態だ。
こうなると、怪我人しかいない。
王都は、なにを考えていたんだ?
ここまで追い込まれるほど、砦を放置するとか。
しかも、この砦から王都まで関所もない。
敵兵が砦を越えて雪崩れ込んだら、国が終わっていただろうに。途中の村も滅んでいたぞ?
「大将軍殿。この後、如何いたしましょうか?」
「怪我人の手当てと、食事の用意な。敵が攻めて来たら、俺が相手をする。監視は、怠るなよ」
「はっ!」
鈴木が言っていた……『兵士数』か。ここに来て、言葉の重みが理解できた。
「逆だったかもしれねぇな。大将がこっちに来るべきだったかもしれない。いや、あちらも追い詰められていたんだろうし、単純には言えないか」
回復魔法のない、自分に歯噛みする。
なんで俺は、〈炎魔法〉だけなのか……。
「脳筋そのままのステータス。恥ずかしい。もしかして、俺だけハズレスキルなんじゃないのか?」
他の2人も『怖い』と思える。
あいつらは、時間が経つにつれて、真価を発揮するタイプだ。
特にこの国は、若槻と鈴木にかかっていると言っても過言じゃない。
「ふう~」
ため息が出た。
「負けてらんねぇな。とりあえず、実績を作らないと……。将軍に祭り上げられているけど、成果がまだないんだし」
俺は、敵陣を睨んだ。
◇
それから数日、敵兵は攻めて来なかった。
おかげでこちらは、大分回復できた。
魔法使いの中に、回復魔法持ちがいたのも大きい。
それと、薬品だ。作った奴の名前は憶えていないが、同じ異世界召喚者が作った『試作品』が凄い効果を発揮するのだとか。傷口が一瞬で閉じるって、体に悪そうだな。まあ、瀕死から一瞬で安静にまで回復できるんだ。戦場では、不満もないだろう。
錬金術師になるのかな? 後で名前を聞いておこう。
「次は、どうするか……」
俺は敵陣を観察しているのだけど、ワイバーンが人を乗せて移動しているだけだ。
あれは、連絡を取っているのか? 敵国の王都と往復している?
もしかして、電話がない?
そこまで、古代なのか……。
ナーロッパとはいえ、魔法のある世界なのに、手紙による連絡か。
「意識改革が必要だな。だが、それが俺たちのアドバンテージでもある」
鈴木に、電話を作って貰おう。
王都に帰ったら、相談だな。スマホを作って貰い、データベースも欲しい。
それと、現地人に漫画を描かせて、この国の書物を全て漫画化するのが、俺の野望になりそうだ。
「大将軍殿。この後如何なさいますか?」
考えていると、声をかけられた。
そちらを見る。
俺の監視役だった奴だ。戦場にまで、ご苦労なこった。
「とりあえず、時間稼ぎが目的だ。一気に攻め込んでもいいが、敵は遠征しているんだ。浪費して貰おうと思う。食料が尽きれば、撤退だろう? 若槻が、盗んで行って、数日前に敵の陣地は崩壊したんだ。待ってれば、その内動きがある」
「いえ……。他国が北国に攻め込んだみたいです。もう、この砦に攻め込んで来ることはないでしょう。西国と東国です」
他国? 隣国か? 手薄になった敵国の本土を狙っている?
「その情報は、どうやって手に入れた?」
「鳥による、手紙ですが?」
「ちっ……」
情報が、数日遅い。
そうなると、敵陣は、撤退の真っ最中か。判断を誤ったな。
俺は、飛翔した。
敵陣に近づくと、矢が飛んで来た。
だが、上空から俯瞰すれば、なにをしているかは丸見えだ。
「まじで、撤退かよ……」
食料を運び出していた。
負傷者からだろうに……。人命を軽んじている。回復魔法がある世界だというのにな。
観察していると、雨のような矢が、下から襲って来る。曲射射撃なので、自分たちには降り注いでいない。そして、撃ち終わると回収している……。
それで、また撃って来た。
俺は使い物にならないように、今度は全ての矢を焼いて行く……。
一時間もしないうちに、矢が止んだ。撃ち尽くしたのだろう。
やはり、飛べるというのは優位性があるな。俺の〈炎魔法〉と組み合わせると、弓矢を無駄に消費させられる。
「矢は、応戦しないと、弾切れになるよな……」
それでも、一万本はあったと思う。
敵兵は、槍と盾を構えて、抵抗の意志を見せる。
そこから、飛んでいる俺に何をするのだろうか……。
「これだけ、力の差を見せても撤退しないのか……。いい兵士だ」
俺もそれに応えないといけない。
俺は、両手に炎を纏った。
それを合わせる。
「ベギラゴン! (げふん、げふん)」
眼を開けていられないほどの閃光の後に、敵陣が溶鉱炉に変わった。
今の俺の最大火力だ。だが、核兵器には遠く及ばない威力……。
回数だけは、数十回は撃てるが、威力がな~。
『ギラグレイド』を撃てるだけの研鑽を積みたかったな~。(げふん、げふん)
「さて、他の国に取られる前に進軍と行こうか。ここからは、時間との勝負だ」
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