第17話 漫画オタク_戦地に着く

 それから、馬で数日……。目的の砦が見えて来た。

 だけど、異変が見える。黒煙があがっているんだけど?

 それと……。


「なんだ、あのデカい鳥は? 人が乗っていないか?」


 砦の上空に数匹の飛翔物体が見える。なにかを振り撒いてもいるな。


「ワイバーン部隊ですな。油をまかれて、火矢で悩まされていそうです」


 ちっ……。危惧していた航空戦力か。北国は計算していなかった。

 希少なのに、前線に投入するほど追い込まれているのか。もう、戦争の終盤なんだろうな。反撃がないと計算されているんだろう。そうしなければ、希少なワイバーンを投入する理由がない。


「もしかして、遅かったか?」


 俺がそう呟くと、将兵が質問して来た。


「大将軍殿。ワイバーン部隊を落とせますか? それであれば、まだ間に合うと思います!」


「……殺していいんであれば、余裕じゃね?」


 その後、話し合ったんだが、捕獲は難しいらしい。なんでも、帰巣本能があるのだとか。

 面倒でも、落としてしまった方がいいとのことだ。


 話していると、砦から盛大な黒煙が上がった。もう、猶予はないな。


「ちっ。行って来るわ。お前らは、馬を潰さない程度に急いでくれ!」


「「「はっ!」」」


 まあ、歩兵がほとんどだ。残り10キロメートルってとこかな?

 砦に着いた時に、疲れ切っていては意味がない。彼等には、援軍として敵兵の背後を突いて貰おう。


「ご武運を!」


「互いにな」


 兵士たちが、敬礼して来た。

 漫画で良くあるけど、これを言われると嬉しいかもしれない。

 俺は、飛翔して砦へ向かった。



 砦は、酷い状態だった。

 陥落寸前だ。だが、まだ落ちてはいない。戦っている兵士がいる!


「イオ……。(げふん、げふん)」


 ――ドガン


 爆発する空気を、ワイバーンに向けると混乱してくれた。

 ワイバーンは、5匹だ。


「なんで、人が飛んでんだよ?」


 俺を見た、ワイバーンライダー(?)が、呟いた。

 そうか……。この世界の現地人は飛べないんだな。つうか、人を乗せて飛べる動物がいるのに、文明が発展しない理由ってなんだ?


 鈴木が、戦闘ヘリを作ったら世界が終わりそうだ。

 俺は、それまでこの国を生き延びらせればいい。理解した。


「イオ、イオ、イオ、イオ、イオ……。(げふん、げふん)」


 ――ドガン、ドガン、ドガン、ドガン、ドガン


 ワイバーン部隊は、制御を失って、砦から離れて行った。ワイバーンと言っても、獰猛な生き物ではないのかもしれない。直接当てなくても、爆発音だけで混乱している。

 これで、航空戦力は無効化された。

 後々を考えると、ワイバーンは始末した方がいいかもしれないが、その気性から見逃すことにした。

 漫画や神話で描かれるような、凶暴な動物でいいと判断したからだ。

 あれは……、臆病な動物だと思う。それに、王都を落とせば、味方になりそうだ。


 眼下を見る。

 砦は、城壁を登られて陥落寸前だ。

 村で一日無駄に過ごしたのが失敗だったみたいだ。いや、ここまで放置した王家に問題がある。


「だが、まだ間に合うな……。ギラ! (げふん、げふん)」


 俺が開発した、炎による範囲攻撃だ。名称は置いておいてくれ。

 敵兵が、炎に包まれる。

 城壁を登るための梯子も焼け落ちた。


 戦場が静まり返った。

 敵味方問わずに、全員が俺を見上げている。

 俺は、楼閣の屋根に降り立った。


「俺は、セントラルガルド国、第一将軍、稲葉だ! 援軍に来た! 砦の兵士たちよ、もう少し耐えろ! 援軍は目の前まで来ているぞ!」


 背中の大盾を外し、マントを翻す。このマントは、第一将軍のみが纏うことを許されるのだとか。背中に家紋みたいな刺繍がある。


「「「うおおおおおおおおおお~~~~~!」」」


 一瞬の沈黙の後、味方の歓声が上がった。

 士気は、これで大丈夫だろう。


「さあ、火力を上げて行こうか! ベギラマ! (げふん、げふん)」


 まず、砦の周囲を焼いた。火の海だな。

 それを見た、砦城壁にいる敵兵は、士気を見る見る下げて行った。

 これから城壁上には、援軍は来ないと悟ったんだろうな。梯子がないので、撤退も出来ない。


 ――ボッ……


 矢が飛んで来て、俺の纏う炎で焼かれた。

 矢が飛んで来た方向を見る。弓兵がいたが、唖然としている。


「度胸は褒めるが、もうこの戦場は、もう詰んでんだよ。メラ! (げふん、げふん)」


 弓兵が炎に包まれた。

 砦の城壁は、味方が押し返してくれる。敵兵が、城壁から落下し始めた。


「もう少しだ! 目の前の敵を追い落とせ!」


「「「おおお!」」」


 形勢が完全に逆転した。


 流石、最前線で生き残っている兵士だ。王都で遊んでいた連中とは、覚悟が違う。

 俺は、手柄をとるつもりはない。押されている味方の手助けをする程度に留める。

 その後、楼閣の上で見学していると、敵兵が全滅した。


 俺の引き連れて来た援軍も、敵陣に雪崩れ込んでいる。


「……とりあえず、初日は完勝ってとこかな?」


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