第16話 漫画オタク_盗賊退治をする2

 俺は、盗賊のアジトを一つ潰した。秒殺だったな。

 捕らわれていた女性たちを解放する。

 ちなみに、女性の盗賊もいたが、容赦する気はない。殺しはしないが、手足を焼いた……。


 少し待つと、兵士たちが来てくれた。

 女性の保護を頼む。


「……他の盗賊のアジトも調べたかったですね」


「他の?」


 話を聞くと、国中に盗賊が溢れているのだとか。

 どんだけ、デンジャラスな国だよ。

 明らかに政策の失敗だな。まともに働いても食べていけないから、盗賊するしかないのだとか。


「20年続く戦争が始まる前は、まともな国だったのですけどね……」


 戦争の長期化が、この事態を生んだのか。

 今は、五ヵ国だが、元は十二ヵ国あったのだとか。淘汰されて行ったのか。そして、土地を奪われた農民や、権力を奪われた貴族が多くいるらしい。


 戦乱の世……。末端から見るとこんなものか。

 人の歴史は、戦争の歴史でもあるが、平和が一番だな。

 再認識した。



 俺は、飛翔して先に村に戻ることにした。

 兵士たちは、アジトを探るんだそうだ。俺には、何が必要かが分からない。

 村で、他のアジトに向かった兵士を待つことにした。


 続々と戻って来る、兵士たち。

 中には、捕らわれた盗賊もいるな。投降したか。


「大将軍殿! 盗賊を締め上げて他の拠点を聞き出しておきました!」


 そういえば、俺はいつの間にかこの国の第一将軍になっていたんだったな。

 あんまり気にしていなかった。


「……聞こうか」


 地図が出て来て、アジトの地点が記されていた。

 どんだけ、盗賊いんだよ……。国中に隙間なく盗賊のアジトがあることが分かった。

 もっと話を聞くと、今年は飢饉が起こり、何処も実りが少なかったらしい。

 餓死者多数と予想されているらしい。


 だが、悪い話だけでもなかった。


「異世界召喚者が、食料を届けてくれた? 各村にも?」


「はい、一日分だけですが、毎日来てくれております」


 疑いの余地はない。若槻だな。

 空間魔法を駆使して、各村に食料を配っているのか。


「ふっ……」


 笑いが込み上げてしまった。

 この短期間に、どれだけの命を救っているのか……。まだ、なにもしていない俺とは、やはり違う。


「ちっ。成果出していないのは、俺だけかよ。負けてられねぇな……」


 その俺の笑いに、兵士たちは血の気が引いたのか、青い顔をしていた。





 陽が昇った。

 損害の報告を聞くが、軽症者がわずかとのことだった。

 相打ち覚悟で特攻して来た盗賊がいたらしい。だけど、武器防具と戦術が違う。

 まあ、負けはないと思っていたので妥当かな。


 待っていると、若槻が来た。


「あれ? 稲葉? どうしたのですか?」


「ああ、将軍に任命されてな。これから防衛戦に向かう予定だ」


 地図を見せる。

 北国の国境の状況を説明した。


「ああ。そこの敵は、食料がなくなって飢えていますよ。一週間持たないと思います。飢えて動けなくなってから攻めてくださいね」


「おいおい。盗賊や他国から盗んだ食料を村々に配っているのか?」


「まあ、そうなりますね。戦争しているんだし……、いいじゃん?」


 こいつもイカレているな……。一番思考が、危ない奴かもしれない。


「毎日、配る理由はなんだ? 一ヶ月分を配れば、手間も減るんじゃないか?」


「盗賊に取られたくないから? 食糧を溜め込まなければ、襲われないと考えています」


 なるほどな……。溜め込まずに、僅かな食料を毎日配布か……。考えている。


「盗賊退治は……、当分無理かな。任せられる奴がいない。これだけ散らばっていると、拠点を潰して行っても、殲滅は無理だな」


「ああ、それなら安心してください。時期に農民に戻って貰います。仕事を増やす予定です」


 若槻は……、なにをしているんだ?

 俺には、理解できない。


「まあ、俺は手が回らない。王都は頼むぜ。それと、鈴木がすげぇの作ってる。時間があったら協力してやってくれ」


「鈴木は……、独りで大丈夫ですね。後、一ヶ月もすれば、王都も変わると思いますし」


 情報収集能力では、若槻が一番だな。


「ちなみに、大将はどうしている?」


「砦を守っていますね。攻めて来た『南国のサンドランド』なんですが、『西国のウミタリア』に攻め込まれています。それで、大将は、平地での防衛を止めて、砦の防衛に入りました。怪我人多数でしたので、治療を終えて、今は武器防具を揃えていますね。何時でも王都を落とせる状態ですが、考えがあるんでしょう。砦で防衛しています」


「二虎強食の計……か」


「そうだと思います。ただ……、あの人なら、独りで敵国の王都に乗り込んで、王族を皆殺しにでも出来そうなんですけどね。噂話ですけど、1000人斬りを実際に行ったそうです」


 1000人斬り? どんだけレベルアップしてんだよ。

 俺たちが、笑い合うと、兵士たちは静まり返った。

 まあ、理解も出来る。大将は、怖いスキルの持ち主だ。


「くっくっく。それは、若槻もだろう?」


「僕に人殺しは、無理じゃないかな~。稲葉的には、卑怯かもしれませんが、死にそうな人を救って行こうと思います」


 全然、そうは思えないんだが?

 数万の敵兵士が、飢えに苦しんでいるんだし。餓死者多数じゃないか?

 そうなると、一番人を殺す人は、若槻になるぞ?

 まあいい……。


「大体分かった。この方面は、任せてくれ。そして、敵国同士で争わせるんだな?」


「それが一番でしょうね。鈴木の準備が整ったら、五ヵ国の統一に向かう感じで。味方の兵士数をなるべく減らさないでくださいね」


「分かったよ。まあ、元よりそのつもりだ。そのために、訓練を行ったんだしな。精鋭を作り上げて、従軍させているつもりだ」


 若松も、頼もしい味方だ。

 大陸統一まで見据えているように思える。軍師とか知将のタイプなんだろうな。

 最前線で特攻するしかない俺とは、やはり違う。

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