第14話 漫画オタク_戦地に向かう
王族に呼び出された。
何事かと思ったら、侵攻を受けているのだとか。
同盟を破棄されたらしい。
「俺たちの大将が向かった戦場は? 連絡は来ていないのか?」
「……そちらは、敵軍が撤退したと連絡があった。今は、休戦協定の作成中だが、それもどうなるか分からない。本音を言うと、我が軍優勢なのだとか。それも、連戦連勝と連絡が来ている。にわかには、信じられんのだ」
「ふっ。流石俺たちの大将だ。格が違う」
異世界召喚直後に、戦場一つを鎮めたのか。
修練が必要と判断した俺とは、格が違う。
ああゆう人が、最初期から『無敵』なんだろうな。勇者認定される人材……。
俺は、ハズレスキルだ。使い道が限定されているし。
「まあ、ただ飯食うのも飽きたし、行ってもいいけど?」
兵士たちが殺気立つが、俺が視線を向けると視線を逸らした。
言い方が悪かったかもしれない。だけど、俺も大将軍なんだけどな。
「その、君の大将と呼ばれる人と、反対側の国境を侵されている。宣戦布告されて、砦を攻められているんだ。北国のネオランドだ」
地図を見る……。
地形的に、ダメな国だな。海を持っているが、対岸に半島がある。小さな海なので、遠洋漁業は出来ないんだろうな。
そして、他国に囲まれている。逃げ場がない。領土も小さいし。
まあ……、いいか。領土を奪って行けばいいだけの話だ。
「ここの国だな。砦を救って、敵首都を陥落させればいいか? 王族の皆殺しまで必要か?」
誰も俺の話を、理解していないな……。
もう軍議は不要と判断して、必要な兵士数を計算する。
「敵兵は、2万か……。こちらは、1千から2千は欲しいな。それと、魔法使いを半分持って行くぞ」
◇
軍議の後に、俺はある奴に会いに行った。
――コンコン
ドアを開ける。
「鈴木……。調子はどうだ?」
「稲葉か? まだまだだよ。とりあえず、試作品が出来たとこかな?」
そう言って、鈴木が見せたのは、『原動機付き自転車』だった。原チャだ。
すげぇな……。
「動くのか? つうか、ガソリンなんてあったのか?」
「動力は、魔力だね。とりあえず、時速30キロメートルだ」
こいつ……、産業革命でも起こそうっていうのかな?
その後、原チャを乗らせて貰った。
快適以外の言葉が出ない。ゴムタイヤまで再現しているよ。
「見事だな。前世のモノと変わりないぜ。いや、魔力が動力源だったか。クリーンだな」
「この後は、車、トラック、飛行機って行こうと思う。船は、後回しかな。海戦が必要になったら作るよ」
「鉄砲は、作らないのか? トラックを注文されていたけどさ、銃も必要じゃね?」
「稲葉がいれば、不要だよ。でもそうだね。武器防具も作っておくか」
「それで相談なんだが、アルミニウム合金って作れるか? 盾が鉄でさ、重すぎるんだ。重歩兵部隊の動きが遅くてさ」
実物を持って来たので、見せる。
鈴木が、調べ始めた。
「何個欲しい? 期間は?」
「とりあえず、1000枚だな。500枚でもいいが。出陣の命令を受けているので、期間はなるべく早くだ」
ここで鈴木が、魔法を使った。左手に盾を持ち、右手に……、魔力が集まって行く。
形状の同じ盾が、生み出されて行った……。
「これでいいか?」
新しい盾を受け取った。凄い軽いな。
「色的にチタンか? 硬そうだしな」
「それなら……、明日までに1000枚行けるかな? まあ、頑張ってみるよ」
こいつが味方で良かった。
頼もしい以外の言葉が出ないよ。
◇
次の日に鈴木は、盾を1000枚用意してくれた。徹夜してくれたんだろう。
ありがたく受け取って、出発だ。
別れの挨拶などいらない。
「次は、4人で集まろうぜ」
「悪いけど、ワイは戦場に立てない。生身で戦場に向かっても肉盾にしかならない。頼んだぜ」
それを補う、スキルと頭があるだろうに。適材適所だ。
「それと、『兵士数』だ。ここからは、どれだけの敵を倒したかじゃない。どれだけの兵士を残せたかによって、大陸の統一の実現に変わって行く」
要は、味方を死なせるなってことだな。
「分かった。まあ、やってみるよ」
それと、薬品を受け取る。他の異世界召喚者が作った傷薬だそうだ。
固い握手を交わして、挨拶とした。
俺の募集に集まったのは、3千の兵士だった。
騎兵も含まれている。
多過ぎると言ったのだけど、俺の出陣の募集を出したら、これだけ集まったのだとか。
勝馬に乗れると思っているのか?
「10倍の敵に立ち向かうんだ。撤退はないぞ? 最後の一兵まで戦って貰う」
全員が、敬礼で返して来た。精鋭と思える。そして、悪態をつく俺に従えるだけの、愛国心を持っているみたいだ。こいつらは、強いな。
そのまま出発する。出陣だ。俺の知識だと、都の真ん中を、声援を受けて出発するのが普通だと思ったけど、声援はなかった。
国民が、死んだ目で働いているよ。
若槻と鈴木に期待だな。
町民を横目に、俺は出陣した。
道案内役がいるのは楽だ。
それと、乗馬の練習だ。
馬車とか、ダセェ乗り物には乗りたくない。原チャは、数が揃わなと俺一人で先行してしまうので、今回は貰って来なかった。尻が痛いが、慣れるまで我慢だ。最悪、飛んでもいい。
「のう、イナバ殿。防具は必要ないのか?」
俺は、一応軍服を纏っている。防具は背中に、鈴木の盾を背負っているのみだ。
服装には敵味方の判別が、含まれているらしい。
まあ、服装などどうでもいい。背後から撃たれないとも限らないし。
この国の兵士が、味方だという保証がない。恨みを買っているしね。
最悪なのが、敵国を滅ぼした直後の処刑だ。
ラノベ原作の漫画で、多く見た。
「俺に、防具は不要だ。重量オーバーで飛べなくなるのは避けたいしな」
「まあ、その赤いマントを狙う奴もいないでしょうし。ですが、怪我しても知りませんよ」
忠告のつもりなんだろうな。俺が怪我をする未来――考えられないな。
さあ、次は戦場だ。
もう引き下がれないぞ。
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