第8話 知識オタク_砦に着く
次の日の朝、砦の包囲はありませんでした。
どうやら、敵軍は議論を重ねているみたいです。愚策ですね~。自分たちに異変があったと宣伝しているようなモノです。この場合は、昨日と同じように攻めるのが、上策だと思うのですが。
その隙をついて、補給部隊が砦に入りました。これで、依頼の一つを達成出来ましたよ。
「良く来てくれた」
「良く持ちこたえてくれた」
隊長同士が、握手を交わします。
「いい光景ですね~」
刎頸の交わりなんでしょうか。趙国の張耳と陳余に見せてやりたいです。
誰か分からない人は、調べてください。春秋戦国の人たちです。
「それと、紹介したい者がいる。池上殿だ。敵将を倒して来てくれた。だから、襲撃を受けずに砦まで辿り着けたのだ」
紹介されたので、前に出ます。
「ほう? 見慣れぬ服装だな。異世界召喚者か?」
今だに、ヨレヨレのスーツなのは頂けないですか。その上に、盗賊から奪った、借り物の鎧ですものね。何処の世界の住人になら、認識されるのでしょうか……。私もそろそろこの世界の服が欲しいです。
そう言えば、砦に着いたら武器防具を支給してくれるのでしたっけ?
「池上と申します。10日ほど前に召喚された、異世界召喚者になります」
握手を交わします。
名刺を渡しそうになったのは、愛嬌と言うことで。胸の内ポケットに入っているのですよね。この世界に会社はないので、もう使えないのですが。
「今回の敵軍の混乱は、貴殿の働きか……。王都に報告しておこう。千人隊長くらいは確実だろうな」
他人の手柄を取らないみたいです。いい人みたいですね。
前の世界では、功績は上司のおかげで、失敗は部下のせいでした。
誇りたいなら出世しろ……だったな~。
その後、城壁を登り敵軍を見ます。
敵陣の配置などの説明を受けます。どうやら、古代の戦争みたいですね~。
「兵を引き上げて、円陣を組んでいますね。あれは、防衛する時の形ですね~」
「池上殿は、兵法の心得があるのか?」
「兵法書を読んだ程度です。それだけでも、違うモノですよ」
中隊長たちは、驚いていますね。
この世界では、兵法書は高価なのかもしれないです。もしくは、他国の書物なのか……。
「それにしても、隙だらけですね~。今攻め込めば、追い返せそうですよ? 行きませんか?」
「う……む」
隊長たちは、納得してくれました……、よね?
◇
その日は、攻めて来ませんでした。
砦の中を案内して貰いますが、怪我人多数ですね。
動けるのは、半分もいないみたいです。数百人程度みたいです。
「どうしましょうかね……。怪我人を回復させるか、敵陣に攻め込むか」
これでは、後何交戦まともに出来るか……。
夜襲か、回復に時間を割くか……。悩ましいですね~。
「池上殿は、回復出来るというのか? 回復魔法を持っている?」
隊長同士が、話し合いを始めます。
私は、見せた方が早いと思い、息も絶え絶えな兵士を〈変身〉させることにしました。
傷を消して行き、血肉に変換していきます。
「……あれ?」
「気がつかれましたか?」
「「「えええ??」」」
重傷者が一人、立てるまでに回復しました。
その後、重傷人から、〈回復〉させて行きます。
陽が暮れるころには、傷病人はいなくなってしまいました。
砦の中央に招かれて、兵士全員に敬礼されます。
「いやいや……。そんな大げさな」
「これより、この砦は池上殿の指揮下に入ります。どうぞ、このマントを着て頂きたく」
真っ赤なマントを渡されました。
目立ちますね~。暗殺しかスキルのない私にこんな目立つ服を身につけろとか……。
死んで来いと言われているみたいで、嫌ですね~。
こんな時に、ある言葉が脳裏を過ぎります。
『止めとけ止めとけ。隊長機なんざ、真っ先に狙われるんだ。(げふん、げふん)』
昔見たアニメですけど、格言だと思います。ずっと日陰で生きて来たのに、異世界で大将になり、指揮官ですか……。
ふ~、やれやれですね~。
どうやら、砦の隊長になれたみたいです。役職は、なんでしょうか?
それと、装備一式を頂けました。スーツの上に装備して行きます。これで異世界でも浮かないでしょう。
◇
陽が暮れてから、軍議です。食事も済ませました。私は、夜襲を提案しました。
「夜に攻め込むのですか?」
「相手は、油断しきって野営しています。油があるのであれば、食料を焼いて撤退して貰いましょう」
「食料は、奪えないでしょうか?」
下級将校が、私の策に異論を唱えて来ます。
話を聞くと、今年は飢饉が起きているのだとか……。
「兵士を半分失う覚悟があるのであれば、可能ですが」
「食料が奪えたら、周辺の村に返したい」
下級将校が頭を下げます。
う~ん、正義感溢れますが、血を流す兵士はたまったものではないですね。
どうしましょうか……。
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