第9話 敵兵_慄く
◆南国の新任将校の視点
なんだ、なにが起きている?
将軍が、暗殺された。部隊長たちもだ。この軍を指揮していた者が全て暗殺されてしまった。
この軍は、小隊の寄せ集めだ。新任の将軍や、繰り上がりの部隊長では、兵士がついて行かない。
かくいう私も、部隊の扱いに困っている。
こんな状況では、砦を攻めるなど不可能だ。
逆に、反撃されたら全てが終わる。それほどまでに、今は統率が取れていなかった。
「とりあえず、話し合いは終わりですな」
「そうですな。拙い連携は期待せずに、各々砦を攻める……。十分でしょう」
「うむ。損害を考えずに攻めれば、本軍到着前に砦を落とせるでしょうしな。もう、あの砦の中の兵士は怪我人多数のはずですし」
本軍が来た時に、砦が落とせていなければ、我々が罪に問われる。
そして、責任者は新任だらけだ。
『今が一番悪い状況だ。だが、まだ好転も期待できる』
あの砦さえ落としてしまえば、全てが丸く収まるんだ。新任の部隊長は、全員がそれを分かっている。ある程度は、優秀だと思えた。
軍議が終わり、各々の陣へ帰る。
その時だった。
「「「うおおぉ~~~!」」」
鬨の声が上がった!?
「攻め込まれている? 不味いぞ、今は防衛の指示なんて誰も出せていない」
「食料だ! 食料を守れ~!」
新任の部隊長が、檄を飛ばした。
そして……、見てしまった。
檄を飛ばした部隊長の首が、宙に飛んだのだ……。
「うああああ!?」
周囲にいた、兵士が悲鳴を上げる。
「落ち着け! 円陣を組め!」
また、別な新任の部隊長が、檄を飛ばす……。そして、血しぶきが舞った……。
『指示を出した者から狩られている?』
私は、戦慄を覚えた。
咄嗟だった。私は、自分の陣へ向かった。
「はあ、はあ……」
「部隊長? どうされました? 走って来られたのですか?」
「襲撃を受けている。今すぐに警戒態勢に移行しろ!」
だが、次の瞬間に、陣の外側に敵兵を見てしまった。
「抜剣しろ! 全周囲警戒!」
反応に遅れた兵士から倒れて行く。
油断していた。
夜襲を受けてしまったか。
その後、円陣を組んで、迎撃態勢は整った。
敵兵と数は同数。
敵の本隊は、食料を狙いに行ったのだろう。
他の部隊の状況を知りたいが、円陣を僅かにでも崩したら、私たちも終わりだ。
耐えるしかない。
――ぐぅ~
兵士の、腹が鳴った。そうだ、もう食事の時間だった。
敵兵の腹が満たされているのであれば、時間をかけるほどこちらが不利になる。
もはや、明日の朝日は拝めないか……。
そんなことを考えている時だった。
「ここだけ、終わっていませんでしたか……」
一人の見慣れぬ服装をした男が、前に出て来た。
生地の良さそうな布の服を着ているが、いかんせん古そうだ。そして、その上に鎧を纏っている?
見慣れない姿だ。
あんな隙間だらけの鎧に意味などなさそうだが……。
それと、真っ赤なマントだ。邪魔そうに、背中に集めている。マントは、そんな風に着るのではないんだが?
一見すると、ただの町人だ。とても戦闘など出来そうにない。
だが、気配が違う。万の死人の上に立つ者……、そんな雰囲気を纏っていた。死を纏っている……、あれが死神?
歴戦の猛者とは違う……、表現できない気配だ。何かを極めた者の雰囲気というか……。少なくとも武将ではない。
そう、魔物の『鬼』……。一度見たことがあるが、あれに近い?
「あ~、責任者はおられますか?」
その声は、全然通らない声だった。将軍ではないのか?
だが、交渉というのであれば、私がしなければならない。
「私だ! 何者だ! 名を名乗れ!」
馬に乗って、頭一つ高い位置に顔を出す。
「それでは、射貫いていください」
私めがけて、矢が飛んで来た? 呼びかけに答えてしまったが、卑怯じゃないか?
矢を受けて、落馬する。
そうすると、兵士たちが動揺してしまった。
円陣が崩れる……。
そして、見てしまった。
「あの、変な格好の男が、最前線で剣を振るっている? 指揮官ではないのか?」
男が、腕を振るうと、槍が斬り飛ばされて、二撃目で兵士が倒れる。いや……、剣劇が速すぎて、何連撃打っているのか、見えないんだが?
その隙をついて、敵兵が円陣を崩しに来た。
もう、我々は持たないだろう。
「撤退しろ!」
私の合図で、兵士たちが一目散に後退した。
だが、包囲されているのだ。どれだけの兵士が、逃げられるか……。
私は、再度馬に乗り、あの男に突進した。
「すいませんね~。捕虜は面倒でね~。討ち取らせて貰います」
男が、足を大きく開き、腰を据えた。腰に佩いた剣に手を添える。
だがこちらは、騎馬なんだ。
あれでは、素早く動けない! 轢き殺せる!
騎馬の突進を避けても、槍の餌食だ!
――カチャ……
そう思ったのだが、次の瞬間に天地が逆となった。
男の姿は見えない。消えた?
『……? そうか、私は、切られたのか』
そこで、意識が途切れた。
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