第5話 護衛の騎士_戦慄する

◆輸送隊の騎士視点



 なんなのだ、この異世界召喚者は?

 的確に、盗賊の首領を見つけて暗殺したのを見てしまった。

 そして、盗賊のアジトに火を放って来たのだとか……。

 どれほど、優秀なのだろうか?


 騎士であれば、一日で小隊長になれる手柄だ。

 そして、訓練も受けずに人を殺害できる胆力……。どんな時代を生きて来たのか。戦争中の我が国だが、それよりも過酷な世界から来たのだけは分かった。

 報告を聞いて、背筋が凍ったのが、私の第一印象だ。



 朝日が昇ったで、討伐隊を組んで盗賊の殲滅に向かう。

 盗賊のアジトには、疲れ切った盗賊が項垂れていた。


「奇襲をかけましょう」


 そう言って、異世界召喚者が消えた。

 次々に、盗賊が倒れて行く……。

 盗賊達は、大混乱に陥ったが、体力がないのか、動きが鈍い。

 私たちも突撃したが、武器を捨てて降参して来た。

 最終的に、5人を捕まえることが出来た。


「捕虜は、面倒じゃないですか?」


 その言葉に、戦慄を覚える。殺しを楽しんでいるとは思えないが、その冷酷な言葉の真意が分からない。


「情報を引き出したいので、数人だけでも生かす必要があるのです」


「……そうですか」


 異世界召喚者は、ため息をついて輸送隊に戻って行った。


「中隊長……。あの異世界召喚者は、正気ですか? 殺人を楽しんでいる様に見えるのですが」


「……味方で良かったと思おう。それと、快楽殺人者ではないな。全て一撃で屠っている。あれは、武術を極めた何かだ。あれが、古の武神――なのかもしれない」


 俺たちは、捕虜を縛って、輸送隊に戻った。


 盗賊の捕虜は、輸送隊から2人を分けて王都へ連行することにした。

 流石に、抵抗はないだろう。

 異世界召喚者は、馬車で寝ていた。興味がないようだ。


 いかに職業軍人である俺たちでも、戦闘後には多少思うところはある。

 あの異世界召喚者は、過去にどんな環境にいたのだろうか。訪ねてみたいが、怖過ぎる。戦乱の世である我が国を凌ぐ、修羅の国……。それくらいは、想像できるな。


「王家も凄まじい人材を召喚したモノですね……」


 部下を見る。


「この戦争……。勝てるかもしれないな」





 昼になり、異世界召喚者が起き出して、馬に乗った。盗賊退治の戦利品だ。乗馬の練習がしたいらしい。尋ねられたのだが、『車』と『バイク』という単語が分からなかった。馬よりも良い乗り物らしいのだが。

 少しでも、コミュニケーションをとって、心の内を探りたいのが本音だ。

 雑談を進めて行く。


「う~ん。この輸送隊が戻ったら、王都が変わっているのでしょうね。とりあえず、仲良くなった3人は、私以上の人材でしたよ?」


 絶句してしまう。

 謙遜しているのか、本音なのか……。こんな化物が、他に3人もいるだと?

 いや、『仲良くなった』と言ったのだ。残りの16人が、この人よりも劣っているとは言い切れない。


「とりあえず、私の仕事は、戦争の遅延だけなので。上手くいくといいですね~」


 完璧と思える暗殺術……。

 その仕草には、何も感じない。訓練の形跡が見えない。隙だらけとも思える。それが……、怖すぎる。

 普通の町人としか思えない風貌で、凄腕の暗殺者とは……。

 私の常識が、壊れてしまった。

 そして、まだ本気を出していない可能性……。



 その後、異世界召喚者を観察して行く。

 敵意がなければ、普通の町人だ。


 ここで、猪を狩って来た部下が戻って来た。

 猪の突進を受けて、重傷みたいだ。

 砦まで着ければ、治療を受けられて命も助かるだろうが、今は応急処置しか出来ない。助かるか否かは、五分五分と言ったところだろう。


「うん? 怪我ですか? 出血が酷いですね」


 異世界召喚者は、血にも怯まないのか……。

 その後、怪我をした部下に異世界召喚者が触れると……、傷が全快した!?


「えっ……? 痛みが消えた?」


 瀕死だった部下が、起き上がる。


「出血が酷いと思います。無理はしないでくださいね。暫くは、馬車で移動して、食事を多めに。肉を食べてくださいね。血が足らないと思いますので、貧血で倒れる場合は、しゃがんでください」


 なんなのだ? 治療魔法まで持っていると言うのか?

 俺の常識が崩れて行く……。


「貴殿の職業は、なんなのだ?」


「んっ? オタクと呼ばれる……、カースト下位の底辺人種ですけど? いや、職業と言うなら社畜ですかね? サラリーマンは……、通じないでしょうし」


 なにを言っているのか、理解できなかった。

 〈職業:オタク〉とは、なんなのだ? 〈職業:社畜〉? 聞いたことがない? エキストラジョブ?

 恐怖しかない。


 その後、そのオタクが、剣に手をかけた。

 空気が変わったのが分かった。そう……、この異世界召喚者は、剣を握ると雰囲気が変わる。

 凄まじい殺気が、大気を満たす。


「あれは危険ですね~。興奮していますし。食料に変わって貰いましょうか」


 オタクの視線の先には……、猪がいた。かなり大きい。そして、興奮している。確かに、あの状態の獣は、危険だ。

 視線を戻すと、オタクが消えていた?

 もう一度、猪に視線を移す。


「真っ二つかよ……」


 猪が、頭から、胴、尻尾まで一文字に切断されていた……。

 あれは、断じて剣術ではない。あんな斬り方をしたら、剣が折れる。一番堅い頭蓋骨部分を、切断する方法などない。断言できる。

 打つのであれば、分かるが……。叩き潰すとか。斧ですら、あんな切れ方はしないだろう。

 それに使用している剣だ。数打ち品であり、盗賊が使っていたなまくらだと、一目で分かる。

 だが、魔力を使っているようには感じない。どんな能力スキルなのだろうか……。俺の理解の範疇を超えている。


「久々の、居合術ですが、体が覚えてくれていましたね。『雷の呼吸』みたいに六連撃とか出来ると嬉しいのですが。まあ、練習してみましょうか。(げふん、げふん)」


 スキル名は、〈雷の呼吸〉? (げふん、げふん)

 聞いたこともないな。中央国の歴史にも顕現した人材はいないと思う。


 王家は、魔王を召喚したのではないだろうか?





 補足

 〈職業:異世界の知識人〉は、イメージを具現化するスキルです。

 本人が、『切れる』と思えれば、ダイヤモンドも切れます。

 世界改変もできるんですが、本人が気がつくかどうかです。

 スキル〈説得〉は、営業のサラリーマンから派生しています。

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