第34話 vivid gem
そして数日後。ついに収録の日を迎えた。
放課後、学校が終わると、玲人は友達からの誘いを素早く断り、いつもよりも早く学校を出た。
電車に揺られて数十分。事務所と距離はそれほど変わらないが、心境はまるで違った。
最寄り駅に近づくにつれて緊張度が増していき、気を紛らわそうとスマホをいじってもSNSを見てしまい、ファンの投稿ばかり目に入る。どれも今日の放送を楽しみに、応援する声だったが、それは玲人にとって相当なプレッシャーとなっていた。
とにかくもう、気が気じゃなかった。
収録スタジオの最寄り駅で降りると、その駅で待ち合わせ予定となっていたためちょうどそこで五人全員が揃った。
それから白夜と合流し、スタジオに向かった。夕真と碧空彩は先に行って準備をしているとのことだった。
到着すると控え室に通されて、そこには先に来ていた夕真と碧空彩とハンガーにかけられた衣装が並んでいた。
部屋自体は控え室というか、広い会議室だが。
「全員揃ってるね、よかった」
「誰か遅刻してこないか、夕真心配してたんだよ」
夕真と碧空彩はそれぞれそう言って、五人を迎える。
「ここからだけど、予定通り結構時間詰まってて、すごく忙しくなるから、マジで迷惑だけはかけないように。大丈夫だと思うけど」
白夜は真剣な表情でそう言った。
「よし、じゃあ準備しよう」
まずはウォーミングアップから。こういう時こそ必要だと言い、リハーサル室を使えるように頼んでいた。事前に言われていたので、五人は素早く練習着に着替え、リハーサル室に移動した。
まずはストレッチをし、どうにか緊張を紛らわす。まあ、そんな上手くいくはずもなかったが。
そして位置につき、いつも通りの通し練習を始める。
最初はやはり緊張もあって、どこかおかしいような気がしていた。だが段々とそれも無くなっていき、調子が良くなっていった。
玲人の体感としては、いつもと変わらずに、いい感じで通せたといった印象だった。
「Aria、どうかな……今日の感じ」
こはくは玲人にそう聞いた。
「結構いい感じだと思う。俺は」
「でも緊張やばい……」
「大丈夫。一人じゃないんだから」
玲人はそう励ますが、自分もそんなことができるほど余裕があるわけではない。
でも今は白夜も夕真もテレビ局のスタッフの人と何か話しに行っているし、碧空彩はしろねこと何か話しているし、ダンスのことに関しては玲人しか答えられる人がいないので仕方ない。
そんな不安な二人をよそに、さくらとシキは気合いが入っていて、不安よりも期待が強いようだった。
通し練習も無事に終わり、次はいよいよリハーサルだった。だが言われていた時間になっても全く声をかけられなかった。
それから十分ほど経った頃、控え室にテレビ局のスタッフらしき人が入ってきた。
「すみません、ちょっといいですか」
そう声をかけられ、白夜がそのスタッフの人と話しに部屋の外に出る。
一分ほどで話が終わって戻ってきた白夜だが、何の話だったかは見当もつかないし、表情からも読み取れない。
「えっと……」
全員の視線が白夜に集まる。
「前が長引いてて、予定より遅くなるらしい。でも代わりに前のグループの収録を見学させてもらえることになった」
「えっ」
「本当ですか」
「うん。向こうはオーディション番組でできたグループだから、レベルは高いと思う。同年代から刺激をもらえると思うよ」
「マジか……」
「やったぁ」
シキとさくらは嬉しそうだった。こはくも驚いていた。だが玲人は少し不安に思った。
そういうレベルの高いグループ、明らかに格上を見て、自信を無くしてしまわないか、心配になった。特に元々不安がっていたこはくだ。
だがそれは白夜もわかっているだろう。それでも見る価値がある、ということなのだろうか。玲人はそう不安になった。
だがそれを言うわけにもいかず、五人は白夜に連れられて、収録の見学をしにスタジオに向かった。
スタジオに入るとちょうど収録が始まるいいタイミングで、一同はスタジオの一番後ろの壁際からステージを見る形になった。
ステージの上にいるのは、白夜が言っていた通り、オーディション番組から生まれた七人組グループ『vivid gem』だった。
このグループのことは、玲人も少しくらいは知っていた。一応玲人も応募はしたが、落ちたグループだ。まあそれは元々腕試し的に受けたので、期待はしていなかったので大丈夫だ。
vivid gemはrainbowプロダクション――通称虹プロという、芸能業界ではかなり大きな事務所の所属で、snowdropの二人もその虹プロの所属だった。他にも有名なアイドル、モデル、俳優、声優、アーティスト、数多くの人が所属している事務所だ。
そしてvivid gemは、その大手事務所の名に恥じない実力と人気がある。
デビューしてから多くのメディアに出演し、アイドルに詳しくない人でもグループ名くらいは知っている。
もしかしたら、白夜と夕真は、このグループに対抗できるグループを作ろうと思ったのかもしれない。
だから自信を失うだとかそんなことは無視して、このグループのステージを見せようとしたのかもしれない。
そして収録が始まった。
パフォーマンスは、さすが何千人もの中から選ばれた七人なだけあって、ダンスをやっている身からするとよりすごく感じるものだった。
加えて玲人は自分たちとの大きな違い、大きな壁を感じた。やっぱり自分たちは初心者で、向こうは経験者、しかもこういう場の経験も数多くある。仕方ないことだが、玲人は悔しく思った。
難しい振り付けをいとも簡単に踊り、それを感じさせず、しかも完璧に。それでもって、この出来で歌も口パクではないように聞こえる。
そんな彼らはステージの上で、眩しいくらいに輝いていた。
「なんかすごかった」
「あれ生で見れるなんてな……」
「上手く言葉に出来ないけど、ああいうグループが国民的アイドルなんだろうなって」
収録スタジオを出ると、さくら、シキ、こはくはそれぞれそう言った。
「ボクたちも頑張ろ。あんな風にはいかないだろうけど、ボクたちなりに」
さくらはそう加えて、圧倒されてグループの雰囲気や主にこはくとシキの気分が落ち込まないようにフォローした。
だが一番圧倒されて落ち込んでいたのは玲人だった。
一歩違ったら、あっち側だったかもしれないと考えると、余計に悔しくて、自分の実力を思い知らされていた。
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