第29話 テレビ出演

「えぇっ!?」


 いい反応を見せたのはさくらだった。他の三人は言葉が出てこない様子で、しろねこだけはスンとしていた。


「まだライブを見せたことはないから、そことテレビっていうのはどうかなと思って、みんなの意見が聞きたい」

「な、なるほど……」


 こはくはなんとか受け止めたようで、話を進める相槌を打つ。


「白夜さんたちはどう思ってるんですか?」

「俺たちは……これはチャンスだと思ってる。こういう時にしか出られないから、今のうちに出ておいた方がいい。今はちょうど出たばっかりで話題になってるから、こんな簡単に出られるのは今だけ」


 白夜はそう言った。


 確かにこんなことは二度とないかもしれないし、出ることによって、さらに多くの人知ってもらえて、次のチャンスがあるかもしれない。


 今回は白夜と夕真がプロデュースするということで芸能ニュースに取り上げてもらって、ここまで来た。発表された時はクラスのアイドル好きな女子たちがセククロの話をしていたのを玲人も聞いたくらいだ。


「そういえば、顔出ししないって言ってるのにどうやってライブするんですか?」


 玲人は気になってそう聞いた。今までそういう歌い手たちがテレビに出た時の例は色々あってイメージはできるが、単純に気になった。


「前にしろねこの友達の歌い手がやったみたいに、カメラのピントが合ってない感じでぼかした演出になる予定。収録だから事故も無いし、もしかしたら他のグループの収録とか見られるかもしれない。悪くない話だと思うよ」


 偶然にもその友達の歌い手が出た回を知っているので、玲人は明確にイメージできた。


 でもそんな形で出てもいいものなのか、とも思った。だが白夜たちのことだから、そういう話はついているだろうし、番組の方もそういう演出の前提で話を持ってきているだろうから心配はいらなさそうだ。


「来月だから、練習の時間は一か月くらいある。まあ、ここは五人で話し合ってほしい」


 そして白夜は部屋を出ていき、五人だけで話し合うことになった。


「急なことだけど、みんなはどう思う? 僕は、セククロがより多くの人の目に触れるいい機会になると思う」


 こはくがリーダーらしく話し合いを仕切り始める。


「オレとしては、最初のステージは自分たちのリスナーの前がいいとは思うけど。そういう厨もいるし」

「振付とかの完成度もまだまだだし、こんな状態で出ても逆によくない気もする」

「まあ、どう思われるかもわかんないしね。白夜さんが言ってたあの番組、まだボクたちみたいなのは出たことないし」


 シキ、玲人、さくらの順でそう言った。


 玲人は出たくないわけでもないが、改めて考えるとクオリティの担保ができないのを不安に思った。さっきインタビューでその話をしたせいもあるかもしれないが、あとは個人のセンス次第としか言いようがなくて不安だった。


「経験は力になると思うよ。収録なら目の前にいるのはスタッフだけだし、いきなり一万人近い人たちの前に立つ方がまずそうな気がする」


 三人に対抗するように、しろねこがそう言った。


 確かにいきなり大きめのステージに立つことに不安がないとは言えなかった。緊張する性格ではないが、それでも不安にはなる。


「今回は好意で呼んでもらってる可能性が高いから、断った方が今後に響くと思う」


 しろねこはそう付け加えた。


「みんながそこまで頑張れるなら、俺は出た方がいいと思う。でも練習はかなりしないといけないから、余裕はなくなるけど……」


 しろねこがそう言うなら、というのもあったが、玲人はそう言って賛成した。


「ボクはいいよ? ダンス一応できるし。スタライ唯一のやり残しがテレビだったし」


 さくらもそう言った。


「みんながやる気なら、オレもやる。本当にやるなら、選んでられないもんな。機会なんて、選べるほどない」


 シキもそう言い、五人の意見は一致した。


 それから五人はオフィスの方に向かい、白夜たちに結果を伝えに行くことにした。


 オフィスの方に行くと、ちょうど白夜と夕真が戻ってきたところで、取材の人たちはもう帰ったようだった。


「五人揃ってどうしたの?」

「いや、さっきの話で……」

「あー、どうするか決まった?」

「はい」


 代表してリーダーのこはくが話をする。


「僕たちは、出たいです。みんなでそう、決めました」

「そっか」


 白夜たちは納得した様子だった。


「さっきの記者みたいな、ボクたちを見くびってる奴らを見返したいんです」

「お、おう……」

「テレビって色んな人が見るし、ぎゃふんと言わせてやりたい。ぼくもこのままじゃ気分悪い」


 さくらとしろねこの後押しに、白夜は若干引き気味だった。


「わかった。じゃあ、頑張らないとね」


 そんな白夜に代わり、夕真がそう言った。


「とりあえず、曲はsextet clockで、その振り付けは完璧にできるようにしよう」


 白夜も気を取り直してそう言った。


「基本的な振り付けはできてきてるから、あとはその完成度だけだと思う。でもまだ、歌って踊るのだけで精一杯っていう感じがする。余裕がないと、緊張には耐えられないと思う」

「特にこはくとシキかな。元々の基礎がない分、頑張って。もう結構頑張ってるけど」

「はい」「頑張ります」


 こはくとシキは今でも十分頑張っている。だからこれは二人に限った話ではない。五人全員が、努力して完成度を高めていく必要がある。そう玲人は思った。


「ただ、スケジュールの都合上、出演までギリギリなのもあって、ステージを意識した合わせ練習しかできないから、各自自主練でカバーしてほしい。全員集まれない日もあるけど、その日は俺とか夕真とか碧空彩で埋めてでもステージ練習をする。そのつもりでいてほしい」

「正直、話が急すぎるからどうかとも思うけど、決めたからには頑張ろう」


 二人がそう言い、全員でうなづいて、一つのライブに向けて頑張ろうという目標に一斉に向いた気がした。

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