第27話 インタビュー1
それから流されるままに進んでいき、インタビューが始まった。
今回取材をされるメディアは、今まで歌い手を多く取り上げてきた、そういうネットで活動する人たちを記事にするメディアだ。
しろねこは何度か取材を受けたことがあるらしいが、他は全く取材の経験すらない者もいる。玲人もその一人で、とりあえずここはしろねこがどうにか引っ張ってくれるだろう、とバスに乗る感じで玲人は座っていた。
「それでは、よろしくお願いします」
インタビュアーは三十代くらいの男性だった。第一印象は悪くない。
「ではまず、お一人ずつ簡単な自己紹介をお願いします」
これは定番で、どこへ行っても言われるやつだ、と玲人は思った。
「僕から行きます。リーダーのこはくです。普段はゲーム配信してる歌い手です。よろしくお願いします」
一番端にいたリーダーのこはくが最初に言ったので、そこから隣に順に行くような流れになった。なので次は玲人だった。
「踊り手のAriaです。お願いします」
「歌い手しろねこです。よろしくお願いします」
「元地下アイドル系歌い手さくらです。お願いします」
「歌い手のシキです。よろしくお願いします」
ただ名乗っただけで自己紹介でいいのかと思うが、それ以外に言うことがないというか、大抵のことはネットに載っているし、転入生の挨拶じゃないんだから、とも思う。特に決まった挨拶があるわけでもないし。
「よろしくお願いします。ではまず、みなさんについてお聞きします。みなさんは、ハッキリ言って、歌い手グループということでいいですよね?」
「いや、」
すぐに反応したのはしろねこだった。
「ぼくたちをその辺のグループと一緒にしないでください」
まるで歌い手グループに何かされたのかというくらいの拒否反応に見える。実際しろねことその周辺の歌い手たちと、歌い手グループが広まるきっかけとなった今人気のグループやそれを追いかける歌い手たちは仲がいいとは言えない関係だが。白夜たちもこだわっていたように見えるし、おそらくこれは嫌いなのだろうと玲人は思った。
「まあ、だから何だと言われても、回答はないんですけど……まだ何者でもないってことで」
一瞬悪い記事を書かれそうだったが、目を合わせずともわかるしろねこの圧力によってどうにかなりそうだと思った。実際どうなるかはわからないが、元々仲もよくない人たちを敵に回したところで、というのもあるだろう。
ちなみに他の四人はその関係の輪にも入れていないのでほぼ関係がない。何かあったらただの巻き込まれ事故だ。その責任をどうするかというのは、しろねこなら何か考えていそうで、謎の安心感があった。
「そうですか。確かに、プロデュースするsnow dropのお二人が目指すものは、まだ誰もやっていない、ジャンルとして確立されていないものに思えました」
「はい。セククロみたいな、って言われるくらいのものを作っていきたいと思っています」
「結成一ヶ月足らずでそこまで考えているのですね」
「本気でやりたいって考えているメンバーが集まっているので」
「そうですか」
今一瞬、あの炎上の話に持っていこうとしただろ、と玲人は思った。だがしろねこはそれを阻止するように、強引に発言をした。記者はそれに押し負けた。
「それでは、ここからはお一人ずつ質問させていただきます。まずは、リーダーのこはくさん」
「はい」
しろねこ以外に意地悪な質問をされるとボロが出かねないが、それはもう祈るしかない。
「個人で歌い手をしていた時は、リスナーとの距離が近いように思えたのですが、グループになって、人も増えて、やっぱり変わりましたか?」
「確かに人は増えました。ですが、配信スタイルはあまり変えていません」
「それはどうしてですか?」
「変える必要が今のところないからです。僕も調子狂いますし」
「なるほど」
大手になればなるほど、昔はこうだった、今はそうじゃない。大きくなりすぎて悲しい。そして推しを降りるという投稿を多く見かけるようになる。正直勝手にしろとも思うが、それを言ったらそれこそ悪い記事を書かれる。
自分は配信をしていないが、この質問が自分じゃなくてよかった、と玲人は安心した。
「こはくさんはニートと紹介されていますが、それは具体的にどのような……?」
「いや……特に深い意味はないですけど……」
初対面のインタビューでニートですかと聞く人もなかなかいないだろう。
「高校生……なんですよね?」
「はい」
「どういう意味なんですか?」
「あんまり細かいことは配信でも言ってないので……そういうことは」
「そうですか」
「自分の配信にこだわりたいんで、すみませんが」
「そうですよね」
確かに、記者の疑問は玲人も理解できた。だが、聞いていいことと悪いことがあるだろう。メンバーでさえも全員は知らないことなのに。
「それでは最後に、グループ最年少でリーダーを務めるということですが、リーダーとしての想いなどあればお願いします」
「はい。リーダーとして、僕自身が何か特別なことができるわけではないので、他の四人がやりやすいように、色々考えて、いいものを作り上げて、届けられたらいいなと思います」
「ありがとうございます」
まともな質問は最後だけだった。
「続きまして、Ariaさんにお聞きします」
そう言われ、玲人は一瞬恐怖を感じた。変な質問だけはされたくないという気持ちが大きくなっていた。
「セククロは顔出しをする予定はないとのことですが、Ariaさんは以前から顔出しをされていますよね? その点はどうするつもりですか?」
「そうですね……」
いきなりその質問かよ、と玲人はキレそうになった。
「踊ってみただったり、そういうのはこれからもやっていくので、そういう動画では今まで通りやろうと思っています。グループとして顔出しをしないというだけで、個人の判断は自由なので」
「なるほど」
普段とは全く違う自分だから、特に気にしていないというのが本音だ。
「身バレとか、そういうのは怖くないんですか?」
「今までバレたことなくて。なので、大丈夫かなって」
別にバレても恥ずかしくはないとも思っているし。だがそんなことを言うと、他のメンバーはバレたら恥ずかしいと思っているみたいになるので、色々面倒くさいことになる前にそこは自制した。
「次に、今まで歌ってみたなどはやってこなかったと思いますけど、その辺はいかがですか?」
「そうですね。歌う機会はあまりなかったので、そんなに自信はないですけど……でも、大丈夫だと思います。気が向いたら歌って踊ってみたとかやって、レパートリー増やそうかなって思ってますし」
「そうなんですね」
さすがに歌が上手くないと、アイドルをやろうだなんて思わない。
「最後に、グループ唯一の踊り手として、このグループでどんなことをしていきたいですか?」
「このグループで目指すステージに向けて、できることをしていきたいです。俺が一番パフォーマンスに特化していると思うので」
「なるほど。このグループで目指すステージとは、具体的に?」
「具体的に……記憶に残る、初ライブとは思えないクオリティのライブ。それを目指していきたいです」
「そうですか。ありがとうございます」
言ってから少し後悔した。そんなこと言ってできなかったらどうしよう、と。
でもすぐに、やるために努力しようと改めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます