第24話 初配信4

『じゃあ次の質問。こはくでいっか』

「ん?」

『好きな食べ物』

「急に普通だな」

『まあ』


 ちなみに質問は事前にリストアップしてあるのでわかっていたことだ。なんなら、本当のことを言うと、この質問順も事前に決めてあった順番だ。


「まあ……ポテチかな。太ってないけど」

『別に太ってるから好きかって言ったらそうでもなさそうだけど』

「なんとなく、そういうイメージあるから」

『なるほどね。さすがひきこもり』

「褒めてる?」

『うーん……』


 どう見ても褒めてるようには思えなかった。


「もう次行くわ。さくらに戻そう。嫌いな食べ物」

『嫌いな食べ物? それはもう乳製品でしょ』

「乳製品か。体質的に?」

『それもあるし、シンプルに無理。全てが無理。アイスだけいける』

「アイスはいけるんだ」

『バニラは無理』


 凛は大声で笑った。


「まあ、好き嫌いはあるよね」

『うん……』


 なんとなく、さくらはしょげているように感じた。それほどいじったつもりはないのだが……まだこういうところがわかっていない。だが別に笑っていたのは凛だけではないので、凛だけのせいではないだろう。


 喋っているのは主に回答者ともう一人だが、それは単に話に入りづらいと全員が遠慮しているからで、相槌やリアクションは一応している。


『次しろねこ。好きな季節』

『好きな季節か……冬かな』

『理由は?』

『合法的に家に籠れるから。あと誕生日とか色々被って優越感があるから』

『あー、誕プレとクリスマスとお年玉とみたいな?』

『うん』


 しろねこもそんなこと考えたりするんだな、と凛は思った。


『でも結構そういう人って一つにプレゼントまとめられたりするって聞くけど』


 そう聞いたのはAriaだった。確かにそういう話はネットでもよく見る。


『うちはそうでもない』

『へぇー』


 ということは、しかもきょうだいも多くてそれなら、しろねこの家は裕福なんだな……と凛は想像してしまった。まあ、小学校から私立に行かせられるのだから、それもそうかとすぐに思った。まず、あまりそんなことを想像するべきではない。とも思った。


『じゃあ次行くよ、シキ』

『おう』

『好きな色』

『好きな色か……緑かな』


 シキはあまり迷う間もなくそう答えた。


『紫じゃないんだ』

『うん。色はリスナーに決めてもらったから。別に好きな色じゃなくていいかなって思ったし』

『なるほどね』


 確か、シキの本名は『翠』で、それは緑系の色を表すはずだ。そう考えると、緑の方が合っているとも思えるが……


『ま、しろねこって名前で黒にしてる人に言われたくない』

『それもそうだな』


 だがまだしろねこは対比になっているのでまだマシだ。


『じゃあつぎー……Aria行こうか』

『うん』

『行ってみたい国』

『行ってみたい国か……』


 正直、この質問は自分に振られなくてよかったと凛は思った。この国のこともわかっていないのに、外の国なんて……と想像もできなかった。


『アメリカかな、なんとなく』

『思い浮かんだから?』

『いや、なんか、ダンスといえばアメリカかなって。何ができるか知らないけど』

『あー、なるほど』


 確かに、『ダンスの本番』みたいなことは聞いたことがある。


『でもあんまり行きたくないかも。日本しか勝たんって思ってるから』

『それもそうね。安全だし、言葉通じるし』

『そうそう』


 それにも凛は同意できる。正直、自分の国が一番いい。


『あんま面白くならなくてごめん』

『大丈夫でしょ。ね? こはく』

「え、あ、まあ……共感できたから良し!」

『じゃあ次こはく行こうか』

「この流れで?」

『うん』


 ちなみにどういう流れで振るかは台本にはない。


『じゃあ、欲しいもの』

「欲しいものか……」


 現状、特に欲しいものはない。なんとなく、セククロは居場所になっているし、そういう面ではない。そもそも物欲はない。


「あぁ……友達かな」

『え? 俺たち友達じゃないの?』

「いや、友達っていうより仲間っていうか、そういう感じじゃなくて、もっと薄い仲でいいんだけどなーって」

『おぉ……なるほど?』


 Aria の頭にはハテナが浮かんでいるだろう。この歳にもなって、友達が欲しいだなんて。


「ひきこもってるから、そういう友達いないんだよね。あんまり物欲も無いから、強いて言うならって感じ」

『強いらなくていいよ』

「まあ、そこまで欲しくはない。僕にその質問振ったの間違いだったな」

『そうだね』


 Ariaより面白くならない話になったな、と凛は感じた。


『ちょ、罰として次俺に振って』

「わ、わかった」


 こういうアプローチになるとは、なんとも対応しづらかった。


「最近見た夢」

『最近見た夢……寝てる時の?』

「そう」


 それから数十秒Ariaは考えた。おそらく、これは言ってもいいのだろうかと考えているような間だろう。


『いや、あんまり言いたくないんだけど、この流れで言うのもあれなんだけど、その……』

「そこまで予防線張るなら言わないでよ」

『え、あ、いや、言うって』


 これはまずいものが投下されそうだ。


『あのー……炎上した夢見たんですよね、今朝』

「マジかよ」

『でも今のところなってないから大丈夫っていうか……』

「まあ、それだけセククロを大事に思ってたってことだよね?」

『そうそう』


 Ariaはしっかり着地できて安心したような声色だった。凛も上手く軌道を修正できたな、と自画自賛していた。


『もうこの話やめよう。みんなごめんね』


 Aria は一応視聴者にも謝っておいた。


『気を取り直して、これが最後かな。しろねこ』

『うん』

『ズバリ、あなたの宝物は?』


 急にちゃんとした質問者っぽくなった。


『宝物……家族かな』

『家族……めっちゃいいじゃん』

『まあ、今のぼくがあるのは家族のおかげだし、当然でしょ』

『さすがしろねこ』


 そう、さすがしろねこだ。最後にいい感じの回答を持ってくることによって、いくら前が悪くても、少しくらいはいい印象で終わることができるような気がした。



 ざっと質問コーナーが終わり、それから簡単な自己紹介をまとめた動画を投稿して、無事に初配信を終えた。


 その動画はシキが動画を作成したもので、スノドロの配信で出たプロフィールに、それぞれの代表曲を付け加えた動画になっていた。


 動画の出来は申し分ないほどで、忙しい中作ったとは思えなかった。

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