第23話 初配信3

「じゃあまず、ちょっと詳しく自己紹介しようか」


 それから、まず僕からと言って凛から自己紹介をすることになった。


「僕は歌い手のこはくです。担当カラーは黄色で、高校一年生です。誕生日は一月六日で、血液型はA型。身長は一七〇くらいあって、出身地は東京です。趣味はゲームで、一応妹がいます。よろしくお願いします」


 項目は全員で考えたもので、順番も先に決めてあった。


 どれもほとんどは自分の配信で言っていたり、薄々気付けるようなことばかりだが、白夜と夕真の配信で出たプロフィールより詳しいことがなんとなくわかるだろう。


『俺は踊り手のAriaです。担当カラーは青色で、高校二年生です。誕生日は十一月二十三日で、血液型はB型。身長は一八〇くらいで、出身地は神奈川です。趣味はダンスで、一人っ子です。よろしくお願いします!』


 凛が振る前に、Ariaはもう話し始めていた。ちなみに元々そういう予定だったので何も問題はない。


『元地下アイドル系歌い手のさくらですっ! 担当カラーは桜色の、高校二年生。誕生日は八月十日で、血液型はAB型。身長はメンバーで一番低い一六五くらいで、東京生まれ東京育ちの都会っ子。特技はピアノで、兄がいます。よろしくお願いしますっ!』


 そういえば、一番身長が低かったのはさくらだったなと凛は思った。それもあって、さくらのショタキャラがしっくり来たのかと凛は理解した。前にショタボ売りをしていた歌い手が、グループの実写動画で身長が一九〇くらいあって引いたのを覚えているので、凛はなおさらそう思った。


『歌い手のシキです。担当カラーは紫で高校三年生。誕生日は六月十七日。血液型はA型。身長はさくらとは反対で一番高い、一八五センチです。生まれは千葉で、得意なことは動画作成。弟がいます。よろしくお願いします!』


 一方一番身長が高かったのはシキだったな、とさくらの後だったからか凛は思った。こっちもだからか、年齢の影響もあって、なんだか頼れるような安定感と安心感があった。


『歌い手のしろねこです。担当カラーはしろねこですが黒です。高一でクリスマス生まれ、血液型はAB型、身長は一七五くらい。趣味はあんまりないですけど、大体のことができます。きょうだいは、姉と兄と妹がいます。よろしくお願いします』


 しろねこのきょうだいの話は元リスナーの凛でも知らなかった。だが自分だけ言わないのもあれだから、としろねこは自己紹介にそれを含めた。


 ここまでの順番は、こはくを除いて名前の文字順だ。


「じゃあ、こっからいくつか質問していくんで、指名された人は答えて」


 自己紹介が終わり、ここからが本当の質問コーナーだ。


「まず、最近うれしかったこと。……シキ」

『オレかぁ……うれしかったこと……ゲームのガチャの話なんだけど、十連で虹出たんだよね』

『おぉ』

『それが最近うれしかったことかな。さっきなんだけど』

『それガチのプライベート?』

『そうそう。動画とか配信とかじゃなくて』

『いいなぁ』


 Ariaがシキをそう羨ましがっていた。


『じゃあ次いこう』

「あー、次から答えた人が質問振ろうか」

『わかった。次はオレが質問する。まあ、こはくに振ろうかな。逆に悲しかったこと』

「えぇ……」


 普段から外に出ないで引きこもっている凛に、配信で言えるような最近あった出来事なんてあるわけもなく、凛は少し考える。


「ああ、僕はゲームのガチャで天井して確定分以外虹なしだったよ」

『え、マジ?』

「うん」

『なんかごめん』

「いやいいけど……」


 やっと思い出した一個がこんなことだとは、凛は少し悔しかった。シキに便乗したような、空気も悪くするような。


「てか僕に返ってきたら意味ないんだけど。別の人に振りなって」

『あー、ごめんごめん』


 これでなんとかリセットして、次の質問に行きたいところだ。


『じゃあ次俺に振ってよ』

「わかった。Aria、最近怒ったこと」

『怒ったこと!?』


 Ariaは少し考える。


『最近っていうか、ちょっと前なんだけど……オリジナルの振り付けで踊ってみたの動画撮って、多分これ最速だろって思ったら一時間違いで最速じゃなかったことかな。最速って付けて予約してたから、その分なんか……ね?』

『それ、怒ったっていうか悔しいだけじゃない?』

『確かにそうかも』


 しろねこが指摘したことは、凛も同じことを思った。むしろそれで怒っていたら、Ariaという人は大丈夫なのかと心配になる。


『じゃあ次しろねこね』

『うん』

『最近後悔したこと』

『後悔したこと……まあ、後悔って後に来るものだから、最近したことではないんだけど……』


 しろねこは振られてすぐに、考える間を開けることなく喋り始める


『ちょっと重いかもしれないけど』

『大丈夫だよ』


 さくらがそう言ったので、しろねこは話を続ける。


『妹と仲良くしなかったことかな』

『仲良くしないっていうか、仲良くない方が普通じゃない? 兄と妹でしょ?』


 唯一の一人っ子、Ariaがそう聞いた。


『いやぁ……他とは仲いいっていうか……ぼくと悪いわけじゃないんだけど、微妙な気まずい感じになっちゃって。昔は避けてた時もあったから、それを後悔してるっていうか……』

『なるほどね』


 Ariaはまるで何も知らないように話すが、この話でしろねこが指す妹というのは、他の四人も知っている鳳霧碧空彩のことだろう。


 ただ最近四人が碧空彩と会うことは無く、裏方のことは色々やってもらったという話を聞くだけになっていた。


 そしてこの話を聞くと、普段しろねこと一緒にいるから会えないんじゃないかと思ってしまった。別に会いたいわけでもないが、色々と手伝ってもらったりもしているので、ありがとうの一言くらいは言っておきたいと凛は思っていた。


『やっぱ暗くなったじゃん。さくら、責任取って』

『えぇ……わかった』

『じゃあ、自慢できること』

『自慢できること? そうだなぁ……』


 さくらは数秒悩む。


『一応、小さいころからピアノやってるんだけど、そういう関連のコンテストの賞なら沢山持ってることかな』

『おぉーすげー』


 振ったしろねこより先に、シキがそう反応した。


『まあ、うちは特殊だったから。賞取るのは当たり前、みたいな』

『英才教育?』

『まあ、そんなところ』

『へぇ……』


 だから自分で曲も作れるし、音楽センスというのも多少はあったのだろう。さすがに音楽の英才教育を受けた人間には勝てない、と凛は思った。

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