第22話 初配信2

『まあ、レコーディングまでやらせてもらって。そういえば聞いてなかったけど、みんなレコーディングどうだった?』

『ボクは曲がよかったから気持ちよく歌えたかな』

『オレも思ったより上手くいってよかった』

「でも僕はめっちゃ緊張した。上手くできたか心配だったし」

『いやぁ、みんな上手くできてたよ』

『俺が一番下手だったと思うわ。普段歌わないし、むずかった……』


 それぞれレコーディングの感想をそう話した。


『それはしょうがないよ。その分練習してたのはぼくたちも知ってるから』

『なんか急に優しくなるじゃん』

『急でもないけどなぁ』


 確かにしろねこが急にそんなこと言うとはイメージにないかもしれないが、この言い方だと普段はすごく厳しいみたいな印象を受けてしまう。全く厳しいわけではないが、あまりにも誤解を生む表現だ。


「まあ、そんな感じでレコーディングもしたけど、今日はもう一つ投稿するものがあるんだよね? みんな」


 凛がそう呼びかけると、『そうだね』『そうだったね』と口々に反応する。


「今日は追加で、個人のオリジナル曲だったり、歌ってみただったりがそれぞれ投稿されます!」


 そう言い切ると、四人は拍手や歓声で盛り上げた。


「じゃあ早速、投稿しちゃいますか」


 凛がそう言うと、全員が一斉に準備を始めた。一応投稿の下準備はできているが、確認などの作業をするために数分時間を取った。


 そして数分後、凛の合図で一斉に動画を投稿した。


 しろねことさくらがオリジナル曲、他の三人が歌ってみたを投稿した。


 歌ってみたの三人は、一つの世界で巻き起こる恋愛を中心としたストーリーを曲にするというボカロPなどが集まったグループのアイドルをテーマにした曲を三人はそれぞれ歌った。ちなみに三人とも違う曲だ。


 そのグループの曲は歌い手がよくカバーする曲で、固定ファンも多いグループだ。そのストーリーは多くの媒体で制作されていて、小説・漫画の他、有名な声優などがキャラクターCVとして参加し、アニメやゲームなどにもなっている。ちなみにキャラクターの声を担当する声優がオリジナルとして曲を歌うことも最近は多い。そういう点で、かなり界隈では大きい存在となっている。


 一方しろねことさくらはオリジナル曲を投稿したが、それぞれ自分で作詞作曲したというのがさらにすごい点だ。これはグループの顔合わせの時に少し言っていた、ライブまでに用意する個人のオリジナル曲に含まれるものだ。


 投稿前に全員分お互いに聞いたりしていたが、その時にしろねこが自分で曲を作ることができることは知っていたが、さくらも作ることができるなんて凛は驚いた。


 しろねこの曲は、sextet clockと似たような夜の街のイメージ。でもさらに闇が深く、そこに消えていなくなるような印象を受ける。でもどこかそれがかっこよく思えて、それがしろねこの曲の特徴だった。


 さくらの曲は、一瞬では暗い印象は感じられない、青春の曲。でもどこか切なくて、悔やんでいるような歌詞。凛はまだ高校生のさくらにそんな歌詞が書けるのかと思ったが、本心ではなくすべてを作り上げれば簡単なことだとすぐに気づいた。でも最初の曲がそんな曲というのもすごいと思った。もしかしたら初めてではないのかも、とも。


 そんな各動画を投稿してから数分は一気に配信の視聴者数が減ったが、数分後にはほぼ元の数に戻っていた。


 それを確認してから、凛は配信を進行する。


「それぞれの動画の話はちょっと時間ないのでそれぞれの配信でやる予定なんですけど、今回歌ってみたを投稿した三人も後日オリジナル曲を投稿する予定なので、楽しみにしておいてほしいです」


 そう一言言ってから、次の話題に進む。


 配信の時間はそれぞれの都合もあって限りが決まっていて、その中で何をするかを決めた。動画の話を短縮したのは凛ではなく、元々省こうかという話になっていた。


 そんな話になるほど動画の話よりももっと重要だったのが、それぞれのメンバーについて知ってもらうことだった。


 しろねこのことはこの界隈を知っていれば少しくらいは知っていることだろうが、他の四人に関しては自分の推し以外は知らないという人は多いだろうし、スノドロの方から知って配信に来たそもそもしろねこのことすら知らない人も少しくらいはいるだろう。


 それを予想して、構成の中によく配信者が聞かれる質問などをかき集めて一問一答コーナーをやろうという話になった。


「ここからは、もっと僕たちのことを知ってもらうために、よく僕たちが配信とかで聞かれる質問なんかに答えていこうかなと思います」


 正直何を言ったら個人のことをわかってもらえるのかわからないが、配信でよく聞かれるということは知らない人が気になることなのだろうと、五人は考えた。

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