第21話 初配信1

 スノドロの二人の配信が終わると、セククロの五人は一斉に加入したことを知らせる投稿をした。


 反応を見る限り、瞬間的ではあるが、今この国で一番熱い話題になっていて、五人それぞれの投稿には今までにないくらいの反応があった。


「お疲れ」


 凛はその反応を見ながら、セククロのボイスチャットに入った。


『おつかれ、こはく』


 そう答えたのはしろねこだった。ボイスチャットには他のメンバーもいたが、他は何も言って来なかった。


『こはくはどう? フォロワー増えたりした?』

「えっと……」


 凛は自分のアカウントページを見る。さっきまでは約四万人だったのが、今は六万人に増えていた。


「増えてる。すごい数……」

『そっか』


 このしろねこの反応からして、他の三人も同じように増えていたようだった。


「しろねこは?」

『ぼくはそんなにすごい増えたって感じじゃないよ』

「そうなんだ」

『多分スノドロの方の視聴者数万人とぼくの視聴者が流れた感じだと思う。まあ、スノドロの視聴者は歌い手なんて興味ないだろうから、ぼくが新しくグループ組むならフォローしておこうかなって人が多そうって感じ』

「そっか……」


 結局しろねこから貰ったような数で、凛はなんとなく自分が惨めに思えた。


『最初はこんなもんだよ。元々知ってる人が来てくれる感じ。もう少しすれば歌い手グループとか見てる人たちが来る。まずは歌い手オタクとかを狙っていくべきだよ』

「そうだね。これからって感じ」


 そう簡単に新しく人が集まってくるはずがない。まずセククロがいけると判断された理由はスノドロの世間的知名度と、しろねこの界隈的知名度があるからで、そこから流れてきたからなんだ、と思うべきだろう。


『じゃあ全員集まったから、この後の流れを説明する』


 凛との話が終わったところで、しろねこはそう話を始める。


『まず、二十時にオリ曲が投稿されるから、そのあと全員それぞれの配信枠を立てる。それから全員で色々喋って配信して、最後に用意してある曲を個人で投稿して、っていう流れ』


 しろねこはだいぶ簡単に説明した。


 最初に投稿する曲は全員でレコーディングした初のオリジナル曲で、個人で投稿するのは歌ってみたと個人のオリジナル曲に分かれるが、凛は歌ってみたの方だ。


『とりあえず配信の告知忘れずにしといて』


 それから約一時間、五人はなんとも言えない空気感で過ごした。


『じゃあ、配信始めるよ。気楽にいこう』


 しろねこがそう言い、とんでもない緊張感の中、全員で配信を開始した。


「……全員配信つけた?」


 凛は全員にそう確認する。これは事前に決められていた流れだ。配信が始まってからは、リーダーの凛が配信を回していく。だから凛は一層緊張していた。


 全員から緊張気味の応答を受けて、凛は次に話を進める。


「はい。えっと……みなさん、初めまして。本日発表されました、sextet clockの初配信ということで……どうぞ、よろしくお願いします。僕はセククロのリーダー、こはくです。よろしくお願いします!」


 凛がそう挨拶すると、他の四人が拍手や歓声で盛り上げる。


「じゃあ次、Aria」

『はい。セククロのAriaです。普段は踊り手やってます。よろしくお願いします』


 Aria のあとも同じように盛り上げる。


「次、さくら」

『はいっ! 元地下アイドル系歌い手、さくらです! よろしくお願いします!』


 さくらは表になると、本気でキャラ作りをしていた。ちょっとぶりっ子で、好きな人には刺さりそうな感じ。高い声も相まって、典型的なショタキャラになっている。普段会う時より進化していたので、凛は少し驚いた。


 だがそうなることは予想できていたので、さくらの時も変わらず一同は盛り上げる。


「次、シキ」

『はい。歌い手のシキです。最年長です。よろしくお願いします』


 一方シキは元々想定していた表でのキャラと違っていた。もっと明るくてワイワイしていて、食い気味で、メンバーを引っ張ってくれるような、自信家で自我を持っている感じだと思っていた。だが最初の配信で、初めてシキのことを知る人もいるというのに配慮してなのか、だいぶ控えめな感じになっていた。


 だがむしろ普段会う時に近かったので、何の動揺もなく進行していった。


「最後、しろねこ」

『はい。歌い手のしろねこです。お願いします』


 何の捻りもない無難な挨拶だった。それに触れることもなく、凛は次に話を進めた。


「ということで、この五人がsextet clockです! 改めて、よろしくお願いします!」

『お願いしまーす』『お願いしますっ!』『お願いします』『よろしくー』


 一旦挨拶のフェーズは終わった。


「まず、さっき投稿された初のオリジナル曲、『sextet clock』。もう既に沢山の人に聞いていただいているようで」

『え、そうなの』

『すごいね』

『一万回再生だって』

『そんな数この速度で見たことない』


 さくら、シキ、しろねこ、Ariaの順でそう言った。


「まずはこの曲について何か話したいと思うんですけど、誰から行く?」

『まあ、作ったのしろねこだし。しろねこからじゃね?』


 シキがそう言い、全員がそれに賛同した。


『じゃあぼくから話させてもらう。この曲は、ぼくたちにとって最初の曲で、今のぼくたちを表すような曲になると思った。だから、最初にコンセプトとしてあった、歌い手グループでもなく、アイドルグループでもない、ちょっと特殊なグループっていうのを表現しようと思った。あと、最初にイラストのデザインが出来てて、それが全体的に黒っぽいサイバーパンクみたいなデザインだったから、夜の街みたいなイメージで作った。それが、このsextet clockという曲です』


 今はやっていることは歌い手グループと変わらないし、歌い手グループも2.5次元アイドルと呼ばれることもあるから、何が違うのかあまりわからないが、こういうものは言ったもん勝ちみたいなところがあるので、細かいことは気にしない方がいいだろう。

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