第20話 お披露目

 六月初週の土曜日。アンリリが正式に解散してから約一週間が経った頃。


 スノドロプロの公式SNSなどで、重大発表があるという告知がされた。それはすぐに広まり、とても話題になった。


 その告知はセククロのことで、告知がその日にされることは時間まで聞いていたが、いざ告知がされて、話題になると、とても緊張してきた。加えて今でもスノドロの二人の影響力がこれほどあるのかと実感した。


 そしてその次の日の昼、白夜たちは事務所公式のアカウントから動画サイトに配信を始めた。


 凛はそれを薄暗い自分の部屋で見ていた。


  ◇  ◇  ◇


「みなさん、本日は、配信をご覧いただき、ありがとうございます。snowdrop productionの白夜こと瀬川光です」

「同じく、夕真こと岩本理央です」

「今日はこの事務所にとって大事な発表をします。まあ、悪い話じゃないので、心配しないで聞いてください」


 そうまず挨拶をすると、二人は見覚えのあるスクリーンを挟むように両端に立った。そこには少し高い机が置かれていて、おそらく資料がそこに並べられているのだろう。


「突然ですが、みなさん。今の社会は何で動いていると思いますか?」


 まず白夜がそう話し始める。


「まあ、インターネットです。大抵のことは、インターネット無しでは成立しない。そんな世の中になっています。特にこのエンタメ業界では、インターネットで話題になり、そこからデビューする。そんなのが当たり前になっています」


 それは今に始まったことじゃない。


「僕たちも、インターネットで主にボカロ曲などの歌ってみたを投稿する『歌い手』から、アイドルになりました」


 白夜たちだってそうだ。


「そんな歌い手というコンテンツは、約十五年前から、ボカロの登場によって広まっていったと思っています。そして今やインターネットの発達によって、同じように広まった踊り手と共に多くの人に知られるようになったと思います」


 昔を知らない凛にはどのような経緯を辿ったかはわからない。でも、白夜が言うならそうなのだろうと思った。


「そして今、リスナーの増加と気軽に動画を作成・投稿できるようになったことにより、作る側へと回る人々も増えています。また、それを加速させたのが、歌い手などを含めた活動者たちのグループの登場だと思います。また、そのグループの数も増加し、これを戦国時代と呼ぶ人もいます」


 確か、どこかの歌い手グループの曲の歌詞にもなっていたような……と凛はその言葉を思い出した。


「その分、もったいなくすぐに消えてしまうことも多々あり、仮に生き残ってもアーティストなどとしては実力不足で、金銭面でも後ろ盾がなく、なかなか有名になって知られることもない。そんな、戦国時代です」


 これでも、白夜たちのころからは良くなった方だろう。これはインタビューで二人が言っていたことだが、前はインターネットの印象も良くなく、そのおかげで二人はアイドルとしてデビューしたとかなんとか。少なくとも不本意だったというのは事実らしい。


「一方、僕たちが飛び込んだアイドルという世界は……」


 次は夕真の番だ。


「男女共に、生き残るのは大手事務所のグループがほとんどで、強いて言うのならオーディション番組出身のグループがいますが、それも最初に始めたいくつかのグループだけが残り、ほかのグループは消えていくだけ」


 Snowdropがこれだけ人気になったのが不思議なくらいだ。


「長期的に考えて、大きな業界との繋がりというのが重要になっていると僕たちは考えます」


 長くグループや事務所を続けていくためには、ということだ。特にスノドロプロは現在セククロのワンマンプロダクションなので、そもそも長く続けることができないと困る。


「そんな双方のいいところを合わせて、事務所として最大限のサポートをして、大きな話題性を持つ2.5次元アイドルグループをここに発表します」


 夕真がそう言うと、配信サイトの方でのコメントの流れが一気に早くなる。


「そのグループの名前は、『sextet clock』です」


 発表したのは白夜だ。その瞬間、スクリーンにグループのロゴが映る。


「メンバー五人と応援してくださる方々、僕たちのような関係者、全員で作っていくグループ……という意味で、このグループ名にしました」


 白夜はそう続ける。


「メンバーは全員が歌い手や踊り手などとしてネットで活動する高校生たちで、そんなメンバー全員で最高のステージ、最高の時間をお届けできればいいなと思います」


 それがsextet clock。


「具体的に何をするかというと、まず今まで個人でやってきていた動画や配信といった活動は継続していって、その上でグループとしてもそういったことをしていきたいと思っています。そして、それに加えてライブなどといったイベントなども行っていきたいですし、他にも様々なことを通じて多くの方の目に触れるようなグループにしたいと思っています」


 おそらくテレビとかにも出られたらいいなーとも思っているだろう。機会があるかは知らないが。


「メンバーはインターネットでは主流のイラストを使って顔出しをしないで個人情報を明かさないで活動するスタイルをしばらくは継続し、イベントなどでのみ顔出しをする予定です」


 普通のアイドルならば、顔出しをしてなんなら本名まで出してる人もいるくらいなのだが、さすがに今までネットで偽名を使ってきて周りもそうだったので、急に変えるのには不安がある。まず凛の場合は両親にも知られていないわけだし、他も学校の人たちなんかにバレたくないという話はしていた。でもそれは普通ではないことだろうから、最初に白夜は説明したのだろう。


「それでは、sextet clockのメンバーを簡単にご紹介します」


 紹介するのは夕真だった。


 スクリーンが切り替わり、一人ずつのプロフィールが書かれた画像が表示された。そして最初に表示されたのは凛――こはくだった。


「まずはリーダーのこはく。歌い手出身で最年少の十五歳。イメージカラーは黄色。普段は歌を歌うよりもゲーム配信の方が多い、ひきこもりゲーマー」


 こんな大勢の前でひきこもりと言われる日が来るとは思っていなかったが、凛は段々と恥ずかしくなってしまった。


「次にAria。踊り手として自分でも振り付けをする十六歳。イメージカラーは青色で、しっかり者のエンターテイナー」


 ちなみに唯一の陽キャなんじゃないかと凛は思っている。


「次にさくら。元地下アイドルで歌い手の十六歳。イメージカラーは名前の通り桜色。センスや経験も抜群のショタ男子」


 アイドルをやる上でその経験があるのは大きいんだろうな、というのは凛でもわかる。


「次にシキ。俺様系歌い手の十七歳。イメージカラーは紫で、メンバーを支える最年長。歌い手でも雑談配信の方が人気という配信者」


 シキは最年長なのもあって一番真面目でしっかりした人だと思うが、正直凛はシキのことはよくわからない。


「最後にしろねこ。SNS総フォロワー数七十万人以上を誇る大手歌い手。イメージカラーは黒で、十五歳とは思えない天才ぶりを見せる孤高の歌い手」


 七十万人というのは動画投稿サイトが四十万人、文面での投稿をするSNSが三十二万人で、その合計だ。おそらく他の四人を足しても上回ることはできないので、凛にはよりすごさがわかる。


「この後、この五人でそれぞれのアカウントから配信を行うので、少しでも興味を持っていただけたのなら、ご覧いただけると幸いです。sextet clock――略してセククロとして最初の動画も投稿する予定なので、よろしくお願いします」


 いつもより人が増えるはずだが、増えて変な人たちが増えたら困るし、増えなくても今後に影響するので困る。そんな不安を抱えながら、凛は配信の準備を始める。


「そして、sextet clockのお披露目ライブを八月に行う予定です。会場は東京New worldのBホール。詳細は配信後に更新する予定です。今後のsextet clock、Snowdrop productionに乞うご期待ください」


 白夜がそう締めくくり、発表配信は終わった。

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