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第19話 レコーディング
解散ライブから数日後。
スノドロプロは慌ただしく、珍しく久しぶりにセククロの全員が揃った。
今日は最初のオリジナル曲のレコーディングの日だった。
本当なら順番に録るので全員が一斉に集まる必要はない。だが、ほとんどが初めてのレコーディングだったため、どんな感じか見学してからやろうという話になった。
「君たちが例のグループの子たちか」
レコーディングスタジオに入ると、そこには金髪の男がいて、そう言った。
「オレは
これが例のカルアか、と凛は思った。
「みんな練習してきたよね? すぐ録れる?」
早速カルアが指揮をとり、収録を始める。
まずは慣れているしろねこが先にお手本として録ることにした。
歌詞割りはだいぶ前に済ませていて、それぞれ自分らしく歌えるような形にして分けた。全員納得しているし、配分もほぼ変わらないから変に荒れることは無いだろう。
「じゃあ唯、マイクテスト」
『ん? ああ……あー、あー、ほんとは最後に録ろうと思ってたんだけど、最初にやらせるならしっかり見とけよ』
「おっけー。じゃあいこう」
そして手本を見せるように、しろねこのレコーディングは各部分一発ずつで終わった。あとで取り直せるから、みんなの感じを見て合わせなおすとも言っていたが、先に録られたら他がしろねこに合わせてしまいそうだ。
しろねこが録り終えると、今度は他の四人の番になる。しろねこは作曲者としてカルアと一緒に色々注文をつけながら見守る。
まずはさくら。多少の録り直しはあったものの、特にしろねこから注文もなく、さくらっぽい、いかにもショタキャラという小悪魔みたいな印象を与える歌だった。どこか狂気も感じられて、この曲に合っていた。
次にシキ。シキもさくらと同じように、あまり指示はなかった。特に慣れている様子で、前に言っていた『前世』でレコーディングは経験済みなのかもしれないと思った。シキのパートは陰の人間みたいな怖さがあって、それがいい塩梅での要素になりそうだった。
そして次は凛の番だった。あとから合わせて録り直すと言っていたしろねこは除いて、さくらとシキの間くらいのイメージでやれば上手くまとまると凛は思った。
だが、こんなに見られている前でやるというのは緊張して仕方がない。いざレコーディングが始まると、どうしても緊張で上手く歌えた気がしなかった。
『こはく、調子悪い?』
「えっ?」
『緊張してるだけ?』
「えっと……まあ……」
しろねこには簡単に見破られてしまった。
『こはくのやりたいことはわかった。すごくいいと思う。だからもっと自信もって』
そう言われて切り替えられるようなら、最初からそんな風になっていないだろう。
だが、凛だってやる気がないわけじゃない。できる限りのことはする。
そして録り終えた凛の音源は、世界に絶望し、世界を嘲笑うような狂気を感じさせるようなものになった。今までの凛を総括したようなものだ。
さすがにさくらとシキの間……という風にはならなかった。
そして最後はAriaだ。
Aria は歌が本職ではないので、凛以上に自信はなさそうだった。
だが別に下手というわけではない。既に前の四人の声が入っているが、そこで浮いているわけでもない。と凛は感じた。
一方作曲者のしろねこは、凛とは別のことを思っていたようだ。
「Aria、ただ歌えばいいってわけじゃないよ。なんかズレてる」
しろねこはそう言った。口調や声色から、かなり真剣そうだった。
『ズレてるって何? 何が言いたいの?』
「そう歌いたくてやってるの?」
『そういう意味。わかった』
何がわかったのか凛にはわからなかったが、Ariaはしろねこの言いたいことがわかったようだった。
それから録り直したAriaの音源は、しろねこ的には何かがとても良くなって、許可に値するものだったらしい。だが何が変わったのか、凛にはよくわからなかった。
「何が変わったのかわかんない……」
凛は独り言のようにそう呟く。
「大きくは変わってないね。でも、なんとなく曲に馴染んだ気はする」
さくらが凛の独り言を受けてそう返した。
「馴染んだ……」
全員の声が入っていて、個人パートも一瞬なのでよくわからなかった。なんとなく、他のメンバーはわかっていそうだったので、凛は自分の才能の無さを実感するだけになった。
「実際にAriaが何を考えていたかはわからないけど、他との温度差っていうか、雰囲気が違いすぎて、ちゃんと他の音聞いてんのかなって思った。でも、一回で直ったから別にいいかな」
しろねこはヘッドホン越しに話を聞いていたようで、凛にそう説明した。だが具体的に何がどう変わったのかは教えてくれなかった。
「じゃあここから、ちょっとずつ直すところを直していく。全員合わせると出てくる違和感だとか、そういうところは録り直ししたい。あと、それぞれ録り直したいところがあったらそこも録り直そう。ちゃんと納得できるものにしたいから」
一通り収録が終わってから、しろねこが次の工程をそう説明した。
しろねこによれば、本当なら一人ずつ時間をかけて納得できるまで収録をするみたいな流れになるのだが、今回は初めてなので特別にこういう流れにしたらしい。これから一旦休憩に入り、その間に音源を確認して、誰のどこを録り直すかを決めるらしい。
ということで、一同は一旦休憩に入った。
「あ、こはく」
レコーディングスタジオを最後尾で出ようとした凛を、しろねこが呼び止める。
「さっきの続きだけど」
「えっ?」
「本当に聞きたかったのはああいうことじゃないでしょ?」
「あぁ……うん」
しろねこは凛の疑問を完全に見抜いていた。
「最初のAriaは、ちょっと明るすぎたんだよね。周りと比較して」
「明るすぎた?」
「うん。どちらかと言えば、周りが暗すぎる。まあ、そういう曲を作ったのはぼくなんだけど……」
「なるほど……」
「だから、暗くなりすぎないように光っぽいところは維持したまま、もうちょっと闇っぽい成分が入ったらって思った。で、Ariaは大体そんな感じにしてくれた。まだ違和感は残るけど、その辺はぼくのパートを録り直してどうにかするつもり」
「そっか……わかった。ありがとう」
細かいし、素人にはわかる気がしない。でも、それが納得できる形なら、それでいい。その録り直し後の音源に不満があるわけでもないし、凛は何も思わなかった。
それから休憩が終わり、いくつか録り直しをした。凛も何か所か録り直しをしたし、しろねこに関しては全て録り直しを行った。
その結果、凛は変わらず世界に絶望し、世界を嘲笑うような狂気。Ariaは夜の街を表でまとめる人みたいな、普段は優しいが裏がありそうな人を想像させる。さくらは腹黒い小悪魔のようなイメージ。シキは思いっきり裏の人間みたいな陰のイメージ。そしてしろねこがバランスを取って、よくわからない感じになった。
そしてそんな人たちが歌う、メインビジュアルになっているサイバーパンクをイメージした曲。内容はその世界の物語を一つ切り抜いたもので、その世界観に視聴者を誘うようなものだ。
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