第18話 ライブ後

 アンリリの解散ライブがスノドロプロの運営で行われていることもあって、セククロのメンバー四人はそのライブに招待されていた。


 凛は前までなら推しのライブという感覚だったが、今日はもうそんな感覚ではなくなっていた。


 練習で見せた、なぜか引き込まれて釘付けになってしまうしろねこの姿を見たら、その理由を知りたいと思ったし、できるものなら身に着けられたらなんて思っていた。


 凛はそういう目線で、楽しみにしていた。


 だが、もうそれどころではなかった。


 理由は全くわからない。具体的にどこがすごいのかわからない。でも、今日はしろねこだけではなく、神夜も含めてアンリリの二人に釘付けになった。『すごかった』と無意識のうちに思うほど、圧倒的にすごかった。


 会場を出てもまだ、凛は放心状態だった。ライブを思い出し、余韻に浸っているとも言える。


 何なんだ、あのライブは……


 いくら考えてもわからないから、これがトップを走る歌い手の実力なんだ、と結論付けるしかなかった。


 それにしても、しろねこはすごかった。あの青い瞳には吸い込まれるようだった。まるでしろねこが世界の中心だと思うような何かを感じた。でも神夜も同じくらいの存在感を放っていて、バランスが取れているのがまたすごかった。


 これが、一時期大人気だった元アイドルの白夜にステージに立つために生まれてきたと言わしめる天才――しろねこなのだと改めて感じた。



「大丈夫? こはく」


 考えすぎて何を話しかけても答えなかったのを心配して、Ariaがそう聞いた。


「あれを見て、大丈夫なわけないよ」


 凛は思いっきりマイナス思考でそう答えた。


「あんな天才と、一緒にアイドルなんて……」


 何のステージ経験もない凛が、あんな人と同じステージに立ったら、絶対に埋もれてしまうだろうし、バックダンサー状態になってしまうかもしれない。グループとして、そんな状態になるグループは、色々といざこざが起きて、ギクシャクしたとんでもないグループになって、解散するオチだ。


 自分の実力の足りなさと、将来への不安で、これはマイナス思考にならざるを得なかった。


「今のままじゃ、到底……」

「経験が違うから、そりゃ無理だよ」


 確かに、同じようにできようとするのがそもそも無謀なことなのかもしれない。


「でも、まだ三ヶ月ある。大丈夫だよ、そこまで思い詰めなくても。白夜さんだって、しろねこがすごいことはわかっていると思うし、実力差が出てどうなるかなんてわかりきってるはず。それでもうやるってことは、無理じゃないってことなんじゃないかな」

「……そっか」


 努力次第ではあるが、無理だと決まったわけじゃない。あの天才には劣っても、まだ隠れないくらいには、なれるはずだ。


「だから、頑張ろ、こはく」

「うん。ありがとう、Aria」

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