第12話 完璧なパフォーマンス

 翌日の朝、凛が起きてすぐにパソコンでチャットアプリを確認すると、そこにはしろねこから送られた音源ファイルが貼られていた。どうやらそれは、セククロの新曲のデモ音源らしかった。


 凛は早速、ヘッドホンを着けてその音源を再生した。


 曲はすでに歌詞まで入っていて、ボーカロイドに歌わせている状態だった。これだけでもしっかりいい曲だが、これが自分たちの曲になるのかと思うと、凛は妙に緊張してしまった。


 聞き終わってすぐ、ボイスチャットの方にしろねこがいたので、何を言うわけでもないがボイスチャットに接続した。


『あ、おはよ、こはく。早いね。こはくはもっと遅いと思ってた』

「この後走りに行こうと思って」

『そっか』


 他の四人は来ていなかった。それもそうだ。今日は平日で、みんな学校がある。さっきまで配信していたしろねこと、学校がない凛が特殊なだけだ。


『どうだった? 新曲』

「うん。すごかった」

『そうでしょ』


 しろねこは話したくてうずうずしていたかのように、曲のことについて話し始める。


『雰囲気はキラキラしてるけど、ネットっぽい暗さっていうか、闇みたいな要素も入れた。夜の街をイメージした感じ。影の部分がある中で輝く街の明かり……みたいな感じ』

「うん。確かにそう。僕は結構好き」

『それはよかった。セククロは他とは違うっていうのを示したくて、アイドルっぽさも王子様っぽさも全部無くして、闇がある曲にした』

「僕たちっぽい曲になってるんじゃないかな。なんか、僕たち色々闇ありそうだし」

『まあ、ね』


 凛は言うまでもなく、Ariaはそうでもなさそうだが、一度グループを抜けたさくらに、何かあって転生したシキ、幼いころからネットに浸るしろねこ、普通ではないし、何か深い事情がありそうだ。


『白夜にもそれでオッケー貰ってるから、大丈夫だと思うけど……二曲目はちゃんとアイドルっぽいのにするね』

「そっか……しろねこが作ったのか……すごい」


 確か前から自分でオリジナル曲を作っていたということを凛は思い出した。


『歌詞とか変なところあったら教えて。もしなかったら歌詞割考えるから、ここは歌いたいとかっていうところあったら教えて』

「わかった」

『一応メッセージの方にも貼っておく。みんないつ見てくれるかわかんないけど』

「うん」


 そういえば、しろねこは学校に行く準備とかはしなくていいのだろうかと凛は疑問に思った。まず、配信時間的に今日も寝てないことに気付き、ただ心配になった。


『今日は来る?』

「一応行くつもり。誰か来るなら」

『ぼく行くから、何か話そ。学校行ってくる』

「うん。じゃあ、また後で」

『あとで』


 そして二人はボイスチャットを後にした。


 それから数時間後、学校が終わるくらいの時間になって、二人はスノドロプロに集まった。


「こはくとぼくだけか、結局」

「みんな忙しいだろうから、しょうがないよ」


 しかもセククロの練習をすることなんて急に決まったのだから、来れなくて当然とも言える。


「二人だけか。暇人だな」


 白夜までそう言う。


「二人には先に伝えておくけど、明日からの五連休も練習進めようかなって思ってる。Ariaがバイトあるみたいだけど、しろねこの新曲の振り付けはすぐやってくれるみたいだし、その辺の練習できたらって思ってる。五人でやってみないとわからないところもあるだろうし、時間は長い方がいい」


 そうは言ったものの、結局Ariaが来れなさそうなので、とりあえず自主練をするということに決まった。


「完成したらすぐ収録したいから、まずそっちの練習しておいた方がいいかもしれない」


 後ろで聞いていた夕真がそう自主練のアドバイスを挟む。


「確かにそうだね。っていうかカルアにも連絡しておかないと」


 そう言って白夜は事務所の奥に行ってしまった。


「カルア?」

「音響のエンジニア。スノドロプロで抱えてる専門の人。昔からの知り合いで、ぼくも仲良い」

「そうなんだ」

「うん。収録だけじゃなくて、ライブも担当してくれる、結構すごい人。体弱くて、ここが無かったらニートだったと思う。今はスノドロが引退したから競馬しかやってないけど、それなりに儲けてるみたい。普通の体だったら酒飲んでただろうから、どうなってたことか……」

「なるほど……」


 しろねこが凛にそう説明したが、大体どんな人かがわかった。この説明だとやばい人にしか思えないが、それでも白夜が信頼して任せるということは、そこまでまともじゃない人ではないのだろう。いや、そう思いたい。


「連休中、どうするの?」

「まあ、普通に練習して、頑張るよ」

「そっか」

「しろねこは?」

「ぼくはライブの準備あるから」

「そっか、アンリリの」

「そう。よかったら見にくる? ライブのイメージできると思うし」

「いいの?」

「多分。いいよね? 夕真」

「え、ああ……大丈夫じゃない?」


 夕真の許可が降りたので、凛はアンリリのライブ練習の見学をすることになった。もちろん他の三人にも声をかけるつもりだ。


「練習ってどこでやるの?」

「ここ」

「あ、ここなの?」

「うん」

「アンリリって、スノドロ所属なの?」

「所属ってわけじゃないけど、サポートはしてもらってる。ほぼ所属と変わらないけど」

「そうだったんだ……」


 それから帰って連絡すると、他の三人も全員見学に来るということだった。しろねこからアンリリのもう一人のメンバーに伝えてもらい、ちゃんと許可をもらってきたという連絡も受けた。


 数日後、当日になり、いつもと変わらずスノドロプロに集まった。その頃にはアンリリの練習はもう始まっていて、見学できるようにしてくれていた。


 レッスンスタジオにはしろねこともう一人がいた。凛はその人のこともよく知っている。活動名は神社Pもしくは神夜かみや。ボカロP出身だが自分で歌うこともできて、しろねこと二人でUnlimited Lyricを結成した人物だ。確か受験がなんとかという話だったから、年齢は高校三年生だろう。


「来たんだ。みんな初めましてだよね? 俺は神夜。よろしく」

「Ariaです」

「さくらです」

「シキです」

「こ、こはくです。よろしくお願いします」


 軽く挨拶を交わすと、二人は練習を再開した。


 ライブも近かったので、今は一曲通してやる練習のようだった。


 凛にとっては知っている曲ばかりだったが、歌のクオリティはもとより、ダンスも隙がなく、素人が言えたものじゃないが、完璧なパフォーマンスに見えた。


 白夜と考えが近いしろねこにしてみれば、誰かに見せるなら完璧じゃないといけないみたいに思っているのだろうが、それは相当にレベルが高いものなんだと凛は実感した。


 こんな人と一緒にライブをするんだ。それならもっと、僕も、僕たちも、頑張らないと……


 凛はそう思った。


 そしてそれは他の三人も同じだったようで、もう一つのレッスンスタジオを借りて四人でAriaが仮でつけた新曲の振り付けの練習をすることにした。

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