第11話 星彩学院

 翌日は集まる予定はあったが、来れる人だけという条件付きだった。


 凛は家にいても暇なのでスノドロプロに来てみたが、他は学校やら何やらがあってほとんど来れないという結果だった。そんな中、事務所に来たのは凛としろねこだけだった。


「お疲れ、今日はこはくだけ?」

「多分、そう」

「そっか」


 凛はひきこもりらしくパーカーにスウェットだが、しろねこはちゃんと制服を着ていた。その制服はどこか見覚えがあるもので、それがどの学校のものか凛はすぐに分かった。


「ん? どうした?」

「いや……しろねこ、星彩せいさい学院なんだなーって」

「え、あ、うん。よくわかったね」

「まあ……一応受けてたから」

「そうなんだ」


 しろねこもなんとなく、凛が落ちたんだなということは察してくれただろう。


 星彩学院は普通の全日制からスポーツコース、芸能コース、通信制、など様々な形態の科を持つ最大級の私立学校だ。全日制は国内屈指の偏差値を誇る特進クラスがあり、普通クラスもそこを目指して入学した生徒ばかりなので平均的に頭がよく、進学実績も有名大学ばかりが名を連ねる。一方スポーツコースはスポーツの分野に特化して有名選手を多く輩出しているし、芸能コースは有名なタレントが集まってきている。


 そんな星彩学院は全日制のみ小学校から高校まである一貫校で、他は高校からしかない。全日制は学校が一つ上がるタイミングで募集があり、凛は小学校から中学校に上がるタイミングで受けたが、見事に落ちた。本命ではなかったものの、本命じゃない学校でさえ落ちてしまったことは相当大きなものだった。


「ちなみに、しろねこっていつから星彩?」

「最初から」

「えっ。クラスは?」

「特進理系」

「マジかよ……」


 数少ない小学校からでしかも超高偏差値特進コースの理系。凛は驚きを隠せなかった。まさかそんな天才が現実に存在しているとは思っていなかったから。しかもこんなところで会うなんて。


「勉強とか、どうしてるの?」

「別に……大体できるし。他の人はなんか色々やってるけど、ぼくはそこまでいい大学行って一流企業に就職してなんて考えてないし。考えてたらこんなことしてないし」

「それもそっか……」


 でも確かそのクラスには成績上位者しか入れないし、成績が悪くなったらクラスを下げられると聞いたことがあったので、維持しているということは少なくともそのクラスの最低限程度には頭がいいのだろう。と凛は思った。


「ぼくの後に聞くのもなんだけど、こはくはどこなの? 学校」

「えっと……行ってない」

「行ってない?」

「所属はしてるけど、不登校っていうか」

「あー、なるほど」


 思った以上にしろねこは驚いていなかった。


「いじめられたりしたの?」

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「ふーん。いつから?」

「覚えてないけど、中学の一年か二年」

「そっか。よく高校入れたね」

「中高一貫だから。最低限勉強はしてたし」

「なるほどね」


 頭がいいからなのか、しろねこは物分かりがよかった。


「でも、いじめでも勉強でも無ければ何が理由だったの?」

「えっと……家族関係って言えばいいのかな……」

「家族関係?」

「うん。中学受験したんだけど、今のところが最低限の滑り止めで、それ以外全部落ちて、親にそれで見限られて……」

「そんなんで見限る親なんているの?」

「妹が本命受かっちゃったもんだから、余計に」

「ああ……なるほど」


 家族が異常なんだということはわかっている。でも凛にはそこしか家族はいない。


「そこから、親と会いたくなくて、部屋から出ずに、引きこもってって感じ」

「そっか……よく出てきたね」

「うん。ここしかないって思ったから。最後のチャレンジっていうか……ここを逃したら、もう一生引きこもって自殺するんだろうなって思ったから」


 でもそれを可能にさせたのはしろねこだ。


「親の承諾とかどうやって取ったの?」

「ある人に言われて。それができないようなら、それは本当にやりたいことじゃないって。本当にやりたいことのためならできるはずだって」

「そっか……」


 それを言ったのはしろねこだ。


「……どっかで聞いたな、それ」

「うん。しろねこに言われた。相談室で」

「あ、この前の?」

「そう」

「てことは、こはくはぼくの視聴者だったってわけ?」

「うん。そうなるね」


 これは嬉しいのか嬉しくないのか、しろねこが何を考えているのか、凛にはわからない。


「じゃあ、こはくはぼくのこと、どう思ってるの? どう見えてるの? ぼくは」

「えっと……」


 急に聞かれると、何と答えたらいいのかわからない。


「僕にとって、しろねこは歌い手を始めたきっかけの人で、憧れの人。同い年とは思えないほどキラキラしていて、すごいと思ってる」

「そっか。その人と一緒にやるんだよ」

「うん。やるからには、本気でやる。もう後がないから」

「わかった。ぼくがきっかけならぼくが面倒みないとね。頑張ろ、こはく」

「うん」


 二人はしっかりと目を合わせてそう言った。


 浮つかないで、ちゃんと真剣に、まだ実感もないけど、アイドルになる。これくらいしか、もうチャンスはないから。

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