第3話 回答
数日後、凛はもう一度スノドロプロを訪れた。
「それで、どうするかは決めてくれた?」
「はい」
「じゃあ、聞かせてもらおうか」
「……アイドル、やります。本気で」
「そっか。ありがとう。よろしくね」
「よろしくお願いします」
こうして凛は、スノドロプロが作る新しいアイドルグループのメンバーになった。
「ちなみに、引き受けてくれた理由、聞いてもいいかな」
「えっと……自己中な理由ですけど……僕、親との仲が酷くて。赤の他人みたいな、思春期どころじゃない感じで。それで、学校もほとんど行ってなくて、引きこもりで……ちょっとでも、現実での繋がりが欲しかったんです」
話せば話すほど、自分のマイナスイメージになることしか出てこない。これは話していていいのかと凛は不安になってきた。
「なるほど。何で仲が酷くなったか、教えてもらってもいい? 言いたくなかったらいいんだけど」
「その……受験に失敗して、中学の。成功した妹と比べられて、親からは見捨てられるし、プライドもへし折られて」
「そういうこと」
そういうことって、どういうこと……?
凛は白夜の気持ちが気になって仕方ない。
「すみません、こんな話」
「いや、大丈夫。でも、学歴だけじゃないからね、社会は。特に、この世界は」
アイドルの世界は、という意味だろう。
「これで、四人は揃った」
「四人?」
「うん。今のグループの人数。回答待ちが一人」
「そうですか……」
誰かと一緒に何かするというのは久しぶりのことなので、凛は改めて不安に思った。
「こはくくんって、高校生だよね?」
「あ、はい、一応……一年生です」
「じゃあ、大丈夫だよ。みんな男子高校生、みんなネットの住民だった子たちだからね」
「あ……はい……」
白夜は凛の気持ちを読んでいたようだった。その辺にいる人よりはわかってくれそうだが、同い年だと逆に何て喋っていいのかわからないというのが凛の本音だ。目上の人ならとりあえず敬語を使っておけば間違いないのだが……白夜と話すより難しいかもしれない。
「じゃあ、新しく立ち絵依頼するから、今のデザインの資料あったら送ってほしい。無かったら、全体がわかるやつでもいい」
「立ち絵使うんですか!?」
「逆に、顔出ししたいの?」
「いや……したくないです」
「歌い手の方は今まで通りって言ったでしょ?」
確かに言っていた。だが、顔出しせずにアイドルなんてどうやるんだと凛は疑問に思った。
「詳しい方針は全員揃ってから話すけど……くれぐれも情報漏洩だけはしないでね」
「はい」
いつか説明されるならいいかと、凛はそれ以上聞かなかった。
その後、契約においての確認事項などの説明を受けた。お金関係とか、そういうのも含めて、色々説明された。
それから凛は必要書類を渡すからと、会議室からオフィスの方に連れられた。
凛がオフィスに入ると、出入り口の方からオフィスに黒髪の人物が入ってくるのが見えた。その人物は完全に学生服で、どう見ても男子高校生だった。青色のメッシュを入れていて、普通なら校則違反をしていそうだが。
「お、
「白夜さん。遅くなってすみません」
「いや、大丈夫だよ。年始めで忙しいだろうしね」
男子高校生と白夜はそう話し始める。
「それで、どうする?」
「もちろん、やります。元々その気でしたから」
「そっか。よかった」
話を聞くに、凛はこの男子高校生が回答待ちのもう一人なのだと勘付いた。
「じゃあちょっと待ってて。書類取ってきてもらうから」
そう言うと、白夜はちょうどトイレから帰ってきたように見える、茶髪の男に書類を持ってくるように頼んだ。凛はそれがすぐに、Snowdropのもう一人のメンバー・
「で、その間、紹介しまーす」
夕真がどこかへ書類を取りに行く間、白夜はそう言ってまず凛を指した。
「こちら、歌い手のこはくくん」
それからもう一人の方も指差す。
「こちら、踊り手のAriaくん」
それから二人の肩を軽く叩き、白夜は二人が同じグループのメンバーだと言った。
「よろしく、こはくくん」
「よ、よろしくお願いします」
凛はたどたどしく挨拶をした。
挨拶をちょうど終えた頃、タイミングを見計らったように夕真が書類を持ってきた。
「はい。じゃあこれ、頼んだよ。契約書。未成年は親の許可が必要だから、それも」
そう言って、夕真は二人にそれぞれA4サイズの封筒を手渡した。
「こはくくん、頑張って。大変だと思うけど、決まりだから」
「……はい。ありがとうございます、白夜さん」
白夜にそう言われながら、凛はスノドロプロを後にした。
同じグループのメンバーになるというAriaとは、その時は特に話すことはなかった。だが帰る途中、電車の中で少し調べてみようと思った。
踊り手と言われていただけあって、動画は踊ってみたの動画がほとんどだった。チャンネル登録者数は四万人くらいで、凛とは大きな差はなかった。自分で振付をしたりもしていて、ネットの反応を見ている限り、その振付が流行っていたことがあったらしい。そうは言っても、それを考えたのがAriaだなんてほぼ知らないようだったが。
それでも、僕なんかよりすごいじゃん……
凛は少し劣等感を感じた。劣等感なんていつものことだから、そこまで心に残るものではなかったが、他の三人もそんな感じで、もっとすごい人たちだったらどうしようという不安は残った。
それより、もっと重大な問題がある。
事務所に所属するにあたって、契約をする必要があるが、未成年は一人じゃ契約できない。つまり、両親にアイドルをやるということを伝えなければならない。ただでさえ口をきいていないというのに、そんな将来が不安定なアイドルをやるなんて、学歴重視で安定志向の両親が聞いたらどうなることか。
先に聞いておけばよかったが、そんなことできるはずがない。許可が取れる気もしない。そもそも、聞いてくれるかわからない。
家に帰ってからずっと、凛はグズグズとそう考え、いつの間にか顔合わせの日が迫ってきていた。
やるつもりはある。キャラのデザインも白夜に送っていて、準備もできている。本当に、あとは親の許可だけだ。でもそれができない。
まだ一歩が踏み出せなかった。
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