第14話 友人

特待生クラスの初日。

奏が話しかけてくれたおかげで

クラスメイトから向けられていた

冷たい視線は薄れていた。


だが、やはり俺のことを

良く思っていない生徒は多い。


特にこの特待生クラスのある

1棟校舎にいる成績優秀な生徒の視線。


ここにいる誰もが特待生クラスに

憧れて日々勉強に励んでいる。

だから、いきなりその憧れのクラスに

入った俺へのヘイトは高い。


中でも、


「おい! 敬!!!!

ふざけんなよ!」


俺の親戚である響からの

憎悪は凄まじいものだった。


1棟校舎の廊下を歩いていると

乱暴な力で俺の腕を掴んできた。


「なんだよ離せよ」


その俺の反応に響は顔を真っ赤にする。


「なんでお前が特待生クラスなんだ!!

てめえみたいな底辺が!!!

ここにいれるはずがないんだよ!!

どんな手を使った!?

一体どんなズルをしたんだ!?」


「なに喧嘩?」

「あれって成瀬敬?」

「あーカンニングしたっていう」


こいつ……

人目の多いとこでわざと……


「言ってみろよ!

今ここにいる皆に!

自分はズルをしましたって!!」


「おい……お前声がでかいぞ」


「はあ!?

なんかやましいことでもあるのか!?

皆に言えないことが!?

そりゃそうだよな!?

お前がここにいれるはずないよな!?

ずる! カンニング野郎が!

恥を知れ!」


「カンニング?」

「やっぱあの成瀬ってやつ

カンニングしてたのか」

「うわ最低……」


かっと頭に血が上った。

だが、そこをぐっと我慢する。

ここでこいつに手を出したら

また暴力を振るったと噂になる。


それをさせないために

わざと人目の多いとこで言ってるのか。


ここは……


俺は響の手を振り払って

その場を離れようとする。


「おい!!! 逃げんのか!?」


それをさせまいと

俺の前に響は立ちはだかった。


こいつ………


「おいやめとけよお前」


そのときだった。


「大丈夫~?」


俺と響の間に二階堂守が介入し、

加えて俺は背後から


「な、何してんの!?」


「え? 酷いこと言われてたから

抱きしめてみた」


白百合愛に抱きつかれた。


「ま、守さん」


「成瀬はズルしてない」


守はぐいっと響に詰め寄る。


「そ、そんなはず……

だってあいつ馬鹿ですよ?

とてもこんなとこに

いていいやつじゃ……」


「成瀬君は馬鹿じゃないし。

今日の抜き打ちテストも満点だったし。

ねえ?」


そう耳元で白百合が聞いてくるが

パニックでそれどころではない。

近い。


「そ、そんなはず……ない……

こいつがズルをして特待生クラスに

来たおかげで俺は……

下のクラスに落とされたんだ!」


あーそういえば、響って1学期は

特待生クラスだったな。

俺が来たせいで1人下のAクラスに

落ちてるからそれでこんなに

ぶち切れてるのか。


「え? でも君今

Dクラスのバッチ付けてるじゃん」


白百合の言葉に響の表情が固まった。


「つまりさ~君って成瀬君が

特待生クラスに来てなくても

成績悪くてDクラスに

落とされてたじゃん」


「そ、それは……」


「え、てか待って。

君って1学期同じクラスだったの!?

全然記憶にないんだけど。

守覚えてる?」


「知らね」


その嘘偽りのない正直な言葉が

響の心に突き刺さる。


「じょ、冗談ですよね?

守さん、愛さん」


「愛って下の名前で

気安く呼ばないでよ」


「……は、はいすみません」


「もうこんなやつ置いて

行こうぜ成瀬」


「行こう? 成瀬君。

次私たち音楽室に行かないと」


そう二人に連れていかれる中、

一瞬だけ見えた響の絶望に満ちた表情を

俺は一生忘れることはないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る