第15話 約束

あれから一か月が過ぎた。


不安だった特待生クラスでの生活は、

学校で特に人気者である

白百合愛、二階堂守、

漆原奏の助けもあって

予想以上に平和に過ごせている。


「成瀬君、学校の生活楽しい?」


下校時、毎日のように奏が

そう声をかけてくれる。


今俺が平穏に学校生活を送れているのも

奏がいてくれたからだ。

感謝してもしきれない。


一方で、


「あ、あぶねえ!!!

殺す気か!?」


「殺す気よ」


お風呂の洗面器を俺に投げつけてきた

シルバはそう答える。


現実の生活とは打って変わって、

この戦闘女を招待してしまったことで

俺は今戦場で生活している気分だ。


シルバの部屋の前には木を

削って加工した鋭い針のようなものが

散らばっている。踏んだら出血は免れない。


隣を通るとき、一瞬でも動けば

今のように物が飛んでくる。


「成瀬さん!?

大丈夫ですか!?」


床で腰を抜かしてしまった

俺を見つけてガブリエルが

駆け寄って来る。


彼女の言う通り、

シルバを招待したのは

失敗だったのかもしれない。


だが、一度招待したら

取り消すことはできないらしく、

シルバと一生このマンションで

暮らしていくしかない。


だから、彼女と仲良くなる

しかないのだが、


「ご飯置いておきましたよ……」


「……」


会話すらしてもらえない。


まあでも、彼女の最後を

知っている身からすれば、

ここまで心を

閉ざしてしまうのも分かる。


俺は努力家が好きだし、

何かに一生懸命に取り組んだ人は

報われてほしいと思ってる。


シルバがまさにそれで、

彼女ほど国のために戦った戦士はいない。

それがあんな最後だなんて。


「シルバ……

ずっとこの部屋の中にいるのも

気が滅入るだろ?」


俺は初めて自分から声をかけた。


「ついさっきマンションの外に

噴水を建てたんだ」


俺とガブリエルの幸福度が上がり、

招待できる枠が一つ増え、

建てれる創造物が一つ増えた。


といっても、建てれるのは噴水か

神様の銅像のどちらか。

幸福度が高まれば建てれる種類も

増えていくのだとか。

とりあえず、消去法で噴水を建てた。


娯楽がまだないこの世界で

涼しくて美しい噴水なら

気分転換になるかと思ったのだが。


「噴水なんて見て何が楽しいのよ」


そうばっさりと

切り捨てられてしまった。


だよな。

けど、ここにはそれ以外の娯楽がない。


この世界から連れ出せたら……


『可能です』


そのとき、ルーナがそう言った。


『できるのか!?』


『はい。成瀬敬がこの世界で眠りにつく直前に

体に触れていたものは現実世界に干渉します。

現に、成瀬敬の服装は現実で

着ていたものと同じです』


『つまり、眠る直前にシルバに触れれば

シルバを現実世界に連れて行けると?』


『そうです。戻ってくるときは

同じ方法で帰れます』


まじかよ。

……なら!


「なあシルバ……俺の世界でよければ

行きたい場所はないか?」


「……」


「きっと楽しいぞ」


返事がない。


それほどまでに俺を……

いや、他人を信用できないのか。


「なあシルバ。

少しだけだがその気持ち分かるぞ」


こんなことを言っても

無駄なのかもしれない。


けど、言わずにはいられなかった。

この他人を信用できない気持ち。

痛いほど分かるから。


「俺も他人を信用していないんだ」


それを変えようとしても、

今まで受けてきた経験が

そうさせてくれない。


だが、気づいたんだ。


「けど、中には本当に

お前のことを思ってくれる人がいる」


奏に出会って俺の世界は変わった。


初めて味方ができた。


きっと奏に出会ってなければ

今も俺は人を恨み続けていたと思う。


「俺がそれになれるなんて思ってない。

けど、きっといつかそういう人が

現れるから……外に出るのを

怖がらないで欲しい」


微かに物を置く音が聞こえた。

一応は聞いてくれているのかもしれない。


「なあ、シルバ。

平和な世界を見てみたくないか?

お前のいた世界とは違う。

きっとお前の望んでいた世界だ。

俺はお前に一度でいいから

見て欲しい」


「…………ほんとに……なの?」


微かに声がした。


「え? もう一度言ってくれ」


「ほんとに平和な世界なの?」


「本当だ。行ってみようぜ」


「……」


「何か見てみたいものはないか?

どこにでも連れて行ってやるから」


「……」


「だ、駄目か?」


「学校」


「え?」


「平和な世界の学校を見てみたい」


「学校でいいのか?」


「そう言ってるでしょ。

なに? 連れて行きたくないの?」


バンと扉が開いてシルバが出てきた。


でも、俺の学校って関係者以外

立ち入り禁止だしな……

いや待て。

一週間後に文化祭があるし、

その日だったら誰でも学校に入れる!


「分かった。

行こう。俺の学校に連れて行ってやる」

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