第12話 特待生クラス

一週間後。


あれ以来、シルバと

一切話していない。


風呂とトイレはマンションに

一つだけあるのを皆で共有しているから

たまにすれ違うのだが、

そのときはとんでもない

顔で威嚇してくる。

あれは猛獣だ。


俺、いつ殺されても

おかしくありません。


「はあ………」


まあ、正直、今はそんなことを

考えている暇はない。


今日はクラス替えがある。


本来は学期の始まりにあるのだが、

帝王高校は夏休みも

普通に授業があるので

期末テストが終わると直ぐに

クラス替えが行われる。


実を言うと、この一週間で

俺はカンニングを疑われ、

再試験をさせられた。

結果は同じく満点。


流石に教師陣は俺の成績を

認めざる得なかっただろうが、

生徒達の不信感は全く拭えていない。


悪い方向で目立ってしまった。


緊張して震える手で

特待生クラスの扉を開いた。


一瞬にして、全生徒の視線が集まる。


「あれが成瀬敬ってやつ?」

「今回の期末の首席って本当か?

Pクラスからいきなり

そんなのあり得ないだろ」


絶対ズルしてる。

誰もが疑いの目を向けていた。


ここは完全なる縦社会だし、

下のやつがいきなりトップに

到達したのが許せないのだろう。


だが、そんな中で


「ようこそ! 特待生クラスへ!」


奏だけはいつもと変わらない

表情で俺を迎え入れてくれた。


俺に向けられたこの剣呑な雰囲気を

奏も感じているはずなのに。

それでも、いやだからこそ俺に

話しかけてくれたのかもしれない。


「待ってたよ」


この教室に入るまで、正直特待生クラスに

入室したくなかった。


けど、奏の笑顔を見て、俺はようやく

心がほっとして、やってやったぞと

喜びが湧いた。


「愛ちゃん! ちょっとこっち来て!」


誰も俺に近寄ろうとしない中、

奏が教室の隅にいた女子生徒を呼んだ。


その愛という金髪に髪を染めた

女子生徒は

嫌な顔をしながら

仕方なく近寄って来る。


「な、何……?」


彼女も他のクラスメイト同様に

俺のことが気に食わない様子だ。


「成瀬君! 紹介するね!

私の友達! 白百合愛ちゃん」


「愛です……よろしく……」


そんな嫌そうに

言わなくてもいいのに。


「よろしく」


俺がそう答えると、愛はすぐさま

奏の腕を掴んで離れた。


「ねえ奏……あの人と知り合いなの?」


「そうだよ」


「駄目だってあの人と話したら。

カンニングして、

学校内で暴力騒ぎ起こした

ヤバい人だよ!?

奏みたいな優等生が関わったら

ダメな人なんだって!」


全部聞こえてます。


これがこのクラスの

俺に対する印象か。


確かに、そんな噂のあるやつと

友人が関わって欲しくないよな。


奏がそれに反論する声が

微かに聞こえるが、

誰もその言葉を信じる者はいなかった。


────────────────────


白百合愛は誰よりも奏を信頼していた。


そして、誰よりも奏が純粋な人だと

理解していた。


だから、


(絶対この男……奏を騙してる……)


どんな手を使ったかは分からない。

だが、Pクラスからいきなり

あの成績はどう考えてもおかしい。


愛は隣に座る成瀬を

睨むように疑いの目で見ていた。


「じゃあ、今日は授業の前に

抜き打ちテストやるぞ」


「えー先生あらかじめ言ってくれよ」

「勉強してきてないって」


「事前に言ってたら抜き打ち

テストの意味がないだろが」


(うわ……上田先生の抜き打ちテスト

まじで難しいんだよね……

これ普通に成績に関わるし……)


そういつものように

苦い顔を浮かべた愛だったが、


(でも……これならこの男が本当に

あの成績を取ったのかが分かる!)


「よし、じゃあ時間は20分な」


出されたのは複雑な数学の問題5問。


(暴いてやる!

この私が! 

こんなやつを奏に近づけさせない!)


本来であれば死ぬ気で

解かなければならない問題を余所に、

愛はバレないように成瀬の

様子を窺っていた。


だが、


わずか五分後。


成瀬はペンを置いた。


(え……)


愛はこの五分間、成瀬が一度も

テスト用紙から目を離さなかったのを

確認していた。

そして、最後の43秒だけ、

ペンを走らせて終了。


(で、でたらめ!? 適当に書いてる!

絶対! じゃないとおかしい!)


「残り13分」


(やば! 私も解かなきゃ!)


その残り時間を要して解けたのは

たった一問だけ。


「そこまで」


「先生むずすぎ!」

「こんなの解けるか!!!」


「むずかっただろ? 

皆の理解度を

確認したかったから

今回は難易度を上げました。

はい、じゃあ隣の人と交換して。

黒板に答え書くからそれで採点してね」


愛は奪い取るように成瀬から

差し出されたテストを受け取った。


(う、嘘……これまじ?

全問正解じゃん……

たった五分だよ!?

なのにこれ全部解いたの!?)


動揺しながら成瀬の方に目を向けた。


そのとき、ちょうど採点を終えた

成瀬と目が合った。


「す、凄いね成瀬君……満点じゃん」


「そう」


興味なさげに彼は用紙を受け取る。


代わりに自分の解答用紙を受け取った。


「あはは……やばぁ……

私1問しか解けてない~

これ全問解けるとか凄すぎ」


「俺の方ばかり見てなかったら

2問は解けてたでしょ」


その言葉にどきりと心臓が鳴った。


(え……それって……私が監視しての

知ってたってこと……?)


「おーい白百合! 

前にテスト用紙出すんだぞ!」


後ろの生徒から言われて慌てて

テスト用紙を前の生徒に渡した。


初めて奏に会ったときも、

その優秀さに驚いたが、

今回は別格だった。

まるで、人間じゃない何かが

自分の隣にいるような

そんな不気味さを白百合愛は感じていた。



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