第11話 最強の女

少女兵ミーナとは

十年ほど前に放送されたアニメである。

孤児だった少女たちが政府によって

戦士として育成され、戦争に駆り出される

鬱アニメ。


シルバはこのアニメの中で

最強の戦士とされ、

弱気な主人公ミーナの師匠的な存在だ。


だが、シルバは最終的に

味方である指令官に騙されて

敵に捕らえられ、

拷問を受けた後に殺される。


ミーナにとってその悲しみや怒りが

覚醒するための重要なキーになる。


だが、シルバにしてみれば

信頼していた者達から裏切れらた

悲劇のキャラでしかない。


「誰よ! あんたら!」


元々優しく活発な子だったが、

最終的に人を一切信用しない

闇堕ちキャラとなってしまった。


気を抜いたら一瞬で

首が飛びかねない。

鋭い視線が俺に向けられていた。


シルバが武器を

所持していなかったのは

幸運だった。


「お、落ち着いてくれ」


銀髪と褐色肌。

そして、右頬にナイフで切られた傷。

戦闘服に身を包んだ彼女はガブリエルと

間合いを取る。


この一瞬でガブリエルを

警戒対象と認識したようだ。


「キリシアの豚ども?

それとも、アタシを裏切った

自称正義の国アランの奴ら?」


「俺は成瀬敬。

日本人だ。

お前のいた世界とこの世界は違う。

だから、安心してくれ。

お前の敵はいない」


「そう? 敵はいない?

なら、あんたの後ろにいるその

化け物は何? 

アタシを殺そうとしたけど」


「そ、それは貴方が成瀬さんに

危害を加えたからです!」


ガブリエルは弁明するが

全く警戒を解かない。


「成瀬さん……この人は危険です。

私でも勝てるかどうか……」


「そ、そんなにか?」


最強キャラを選んだとはいえ、

魔法が飛び交うような

世界のガブリエルと、

銃や剣を扱う普通の世界のシルバ。


俺は人間のできる武術を学びたくて

人として最強のシルバを

選んだつもりだったが、

そんなに強いのか?


俺は住民のステータス画面を開いた。


【ガブリエル】

ステータス

力 2000

すばやさ 6000

体力 800

知力 2000



【シルバ】

ステータス

力 3000

すばやさ 5000

体力 900

知力 1000



あ……そういえば……

少女兵ミーナの少女兵たちって

政府に実験されまくって

人間離れしてるんだった。


「シ、シルバ……

落ち着いて聞いてくれ。

ここは異世界マンションといって」


俺はずっと間合いを

取っているシルヴァに事情を説明した。


「は? なにそれ。

頭おかしいんじゃないの」


だが、その努力も虚しく、

シルバはごく普通の反応を取った。


そりゃいきなり女神だの

幸福度だの言われても

意味が分からないよな。


「い、今すぐ信じろとは言わない。

だが、これだけは言わせてくれ。

お前はもう戦わなくていい。

ここでは平和に暮らせる」


「……戦わなくていい」


ほんの少しだけ、彼女の様子が

変わったような気がした。


「何で……あんたはアタシを

ここに呼んだのよ」


「……」


武術を教えてもらう。

本当はそれ以外に理由があった。


それはあのアニメを見て、


「シルバが報われないと思ったから」


国の平和のために誰よりも努力してきた

彼女の最後が、あんな悲惨な結末なのが

許せなかった。


だから、招待しようと決めた。


「俺はお前に平和な暮らしをしてほしいと

思った。だから、お前を選んだ」


これは本当に嘘偽りのない言葉だ。


どうか少しでも響いてほしい。

そう思ったのだが。


「……ふん」


何一つとして信じていない

死んだ魚の目をしながら、

俺の言葉を鼻で笑った。


駄目か……

そう諦めたそのとき。


彼女は警戒を解いた。


「まあ、いいわ。

聞いた感じ、

ここの食料や水はあんたが

生み出すらしいし。

ここで暮らす以上はあんたを殺せない。

それにあんたは信用できないけど、

全く殺気を感じないわ」


そう言って、シルバは堂々と

俺の隣を通り過ぎる。


「それにあんたみたいなのは殺そうと

思えばいつでも殺せるしね」


そんな怖い言葉を吐き捨てて。


「で? これからアタシが

住む部屋はどこ?」


「103号室……」


俺はガブリエルと一緒に恐る恐る

彼女の後ろを歩きながら言った。


「そう。アタシの食事一分でも遅れたら

あんたの指を折るから。

アタシの部屋に入るのも禁止。

廊下に置いてなさい。以上」


ばたんと扉が閉められる。


「なあガブリエル。

俺……招待する人ミスった?」


「ミスったと思います」












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