第7話 異変

「だから彼氏じゃないってば!!!」


「もー隠さなくていいのに~」


「違うって!

助けてもらったの!

そのお礼に体が汚れてたからお風呂に

入れてあげようと」


「はは~ん。さては、助けてもらって

好きになっちゃったから、

家に連れ込もうとしたのね」


「もおおおおおお!!!

ほんと恥ずかしいからやめてよ!」


奏の家に招き入れられてから30分。

奏とその姉である漆原清美さんがずっと

揉めていた。


奏は黒髪ショートの清楚そうな女性に

対して、姉の清美さんは金髪ロングで

肌の露出が激しいギャルだ。


ただ、姉妹だけあってその整った顔は

瓜二つだ。


「もう早くお仕事行ってきて!」


「えーあたしも彼氏と話してみたいのに~

ねえねえ、奏の彼氏!

あたしも話してみたいから今日は

泊まっていっていいからね?

その方が奏も......ふふふふ」


バタン!


奏は清美さんを無理矢理追い出して

扉を閉じた。


「あははは......ごめんね......

私のお姉ちゃんが変なこと言って......

ささっ!

成瀬君お風呂に......」


奏の視線が俺の抱いていた

子猫に向けられた。


「先にこの子猫の方がいいんじゃないか?」


俺はそう言って、子猫を抱えながら

奏と共に風呂に向かう。


軽く水をかけて、猫の泥を落としていく。


「この子大人しいね。

普通猫って水が嫌いなのに」


「確かに。

たぶん助けられたって

分かってるんだろうな」


「そうかも。

可愛い......私もやってみていいかな」


そう言って隣に座って

見ていた奏と交代した。


「じゃあいくよ」


奏が優しく水をかけた瞬間だった。


突然、猫がシャーッと威嚇し、暴れだした。


「あ、あれ? どうしたの!?」


何度かこういう経験がある。

俺に懐いていた動物が、

他の人に触れられてぶちギレるのだ。


俺は人に好かれない代わりに

生き物に好かれる体質なのかもしれない。


「きゃああああ!!!」


風呂のなかで子猫に悪戦苦闘している様子を

面白く眺めていると、奏がシャワーを

落としてしまい、シャワーの水をまともに

被ってしまった。


この人......もしかしてドジなのか?


そんなこと思っていたら、


「あはは......やっちゃったよ......」


き、気づいていないのか?

今の自分の姿に。


俺は必死に視線を外そうとするが、

勝手にそこに視線が吸い寄せられてしまうのだ。


水に濡れてスケスケになった胸元に。


そんな俺の視線に気がついて、

彼女が悲鳴をあげるのは

そう時間はかからなかった。


────────────────────


あっちの世界でのガブリエルの一件と、

ついさきほどの一件。


最近、ラッキーすけべというものが

連発している。


風呂から上がってリビングに行くと、

恥ずかしくて顔を真っ赤にしている

奏がいた。


「ありがとう、奏。

風呂入らせてもらったよ」


「ううん! 大丈夫!

成瀬君ってさ......失礼だけど、

ちゃんとお風呂入ってた?」


「やっぱ臭ってたか?」


「......うん」


「風呂は一週間入ってなかったよ」


「ええ!?」


別に隠すことでもないし、

俺は異世界のことは伏せて、それ以外の

経緯を説明した。


「そうだったんだ......

じゃあ帰る場所ないってこと?」


「まぁそうなる」


「そっか......うーん。

少しの間だったらここにいても大丈夫だよ。

働いてくれたらずっといてくれても

構わないけど。

うちさ、見ての通り裕福じゃなくて

両親いないんだよね。生活費は社会人の

お姉ちゃんが稼いできて何とか

生活できてるって感じなの」


「......なのに、帝王高校に通ってるのか?」


「あーやっぱそこ気づくよね。

私......自慢じゃないけど特待生なの。

全免もらってる」


俺は差し出されたお茶を口から

吐き出してしまった。


「帝王高校の特待生!?

ま、まじか!?」


「び、びっくりした」


びっくりしたのはこっちだ。

あの帝王高校だぞ?

しかも、全免って首席じゃなきゃ......


「待って......漆原って......」


思い出した。


そういえば、入学式の時に

首席で挨拶をしていた。


「どうしたの?」


「あ、いや何でもない」


まぁ今さらどうでもいいことか。


どうせもうあの高校に通うことはないし。


「よーし。今日は学校に行かないし、

課題進めようかな」


そう言って、奏は机の上に

教科書とノートを広げた。


うわ......俺がやってたのと

全然レベル違うじゃん。

これ特待生クラスの課題か。


「んー、この問題解説読んでも

いまいちピンとこないんだよね。

ねぇねぇ成瀬君。

同い年ってことは同じ高1だよね?

これ......分かる?」


そう聞く奏の顔から

「分からないだろうけど一応」という

駄目元感が伝わってくる。


「分かるわけないだろ......

あの帝王高校の特待生の奏で

解けないのに......俺に解ける......はず......

..................解けるはず............」


......は?


「x=17」


「えええええ!? 成瀬君すご!?

なんで!? 正解なんだけど!?」


解けてしまった。






















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