第6話 現実での進展

体が軽い。

頭も冴えてる。

相手の次の動きが、関節や視線、

微小な動作から推測できてしまう。


そして、何より殴られても立ち上がれる。


痛いが耐えれる。


「な、何だよ!? こいつ!!」


残された二人のチンピラが

同時に襲い掛かって来る。


俺は武術の心得はない。

だから、普通に喧嘩では負ける。


けれど、俺が何度も立ち上がれるから

相手はもうスタミナ切れだった。


疲れ果てた男の腕を掴んで

壁に投げる。


バコンッ!


またもや、ボールのように

男を投げれた。


残された一人が急に足を震わせる。


「お前も飛ぶか?」


「い、いえ! 大丈夫です!」


さっきまでの威勢はどこへやら。

チンピラは気絶した男二人を

担いで逃げて行った。


す、すげえ……

まるでサイボーグにでも

なったかのような感覚。

自分の体じゃないみたいだ。


「あ、ありがとう……ございます」


完全にこの女子高生の

存在を忘れていた。


あまりの俺の強さに、助けられた

彼女は恐怖していた。


正直、そうなってしまうのは分かる。


「じゃあ」


ここはこれ以上怖がらせないように

去るか。


そう思って背を向かたとき。


「え、あ、ちょっと待って!!」


呼び止められた。


「あなた……お名前は……?」


「……」


俺は躊躇った。


なぜなら、この女子高生が俺が通っている

高校の制服を着ていたから。


ここで名乗ればあのいじめられっ子の

成瀬敬だとバレる。


いや、待て。


俺が通っているのは

私立のマンモス校だし、

同級生ですら1000人はいる。


それにもうあの高校に

通うこともないから名乗っても

大丈夫か。


「成瀬敬」


俺はそう答えた。


「私は漆原奏(うるしばらかなえ)です。

改めて敬さん、助けてくれて

ありがとうございます」


「あ、ああ……」


やべ。

褒められるの久々すぎて

変な反応をとってしまった。


そんな俺のきょどった反応を見て、

さきほどの警戒心が薄れたのか、

奏はじーっと俺の体を見詰めてきた。


ようやくその視線が俺のぼさぼさの髪と、

汚れた体に向けられていることに

気が付いた。


「えっと……

家ってここから近いですか?

遠かったらよければ私の家で

体洗っていきませんか?」


もう風呂には一週間も入れていない。

結構臭ってるだろう。


「いや……流石にそれは……

それに君この後学校じゃないの?」


「そのはずだったんですけど……」


そう言って、奏はちらっと

川辺の方に視線を向けた。


「ミャア」


置かれていた段ボールから

猫の声が聞こえた。


奏が歩み寄り、中を開くと

汚れた子猫が一匹出てきた。


「この声が聞こえて

ここまで来たんです」


なるほど。

だから、こんな人気のないとこにいたのか。


「それどうすんの?」


「家に連れて帰って保護ですかね……

このままにはしておけないので。

だから、今日は学校お休みしようかと」


「そうか……その子のためにも

それがいい」


「敬さんもどうですか?

失礼なこと聞きますけど、

帰る場所あります?」


まるで俺の心を見透かすかのような言葉に

足が止まった。


「そのボロボロな様子……

この子猫とそっくりで……

そんな気がしました」


俺は何も返せなかった。


「よければ、体を洗うだけでも。

助けてくれたお礼に」


奏は優しくそう語り掛けながら、

ハンカチを取り出して俺の頬から

垂れる血を拭いてくれたのだった。


────────────────────


捨て猫と共に連れてこられたのは

普通のマンション。


「どうしました?」


「いや……」


正直なところ、しょぼいと

思ってしまった。


彼女と俺が通っている帝王高校は

金持ちのぼんぼんしかいない

高校だ。


俺は引き取られたあの親戚が

金持ちだったから通えていたが、

てっきり彼女もどこかのお嬢様かと

思っていた。


「その制服って帝王高校だよね?」


「そうですよ。帝王高校の一年生です」


「あーじゃあ同い年だ」


「え!? そうなんですか!?」


「だから、敬語でいいよ」


「なら、そうするね。

そうだったんだ……

てっきり大学生くらいかなって思ってた」


そんな軽い雑談を挟みながら、

奏はドアを開いた。


そのドアが開いた瞬間、

俺の視界に


「……は?」


金髪ギャルのお着換え

シーンが入った。


「きゃあああああ!

奏! 誰よその男!」


「ああああああああ!

お姉ちゃんごめん!」


バタンと扉を閉める。


い、今……

完全に見てしまった……


しばらくしてゆっくりと扉が開き、


「……たくもう……彼氏連れ込むなら

あたしが出かけてからにしなさいよ」


金髪ギャルが不服そうに顔を出した。



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