第5話 覚醒

「ああああああ!

……て、あれ?」


俺は跳び起きた。


厳密にはガブリエルに

襲われそうになって

何とか逃げだしたが、

廊下に出た瞬間、足を滑らして

頭を強打して意識を失った。

そして、ルーナが説明した通り、

寝た判定となって

現世の方で意識を取り戻した。


目覚めたそこは病院だった。


確か、車に轢かれて

死んだはずだが、

ルーナによって

生き返らせてもらったのか。


現時点での時刻を確認する。


あれから8時間しか経ってない!?


おかしい……

少なくとも半日はいた気がするのに。


「つまり、実際の過ごした

時間と、もう一つの

睡眠時間は同じじゃないってことか?」


『そうです』


直後、脳内にルーナの声がした。


「お前この世界にもいるのか!?」


『いいえ。私は天界にいますので、

あちらの世界にもいるというわけ

ではありません。

意志を飛ばしているという

表現が最も近いかと。

ですので、どちらの世界でも

会話はできます』


「そうか。

なら、ちょっと心強いよ」


俺はゆっくりと立ち上がった。


あれ?


車に轢かれたはずだよな。


なのに、全然痛くない。

てか、傷がない。


そのとき、


「きゃああああ!

誰か! 誰か来てください!」


立ち上がったナースが驚いて

逃げていく。

それから数秒後、医者と数人の

ナースが駆け付けてきた。


皆が俺の体を見て驚いている。


どうやらさっきまで

俺は足の骨を折っていたらしい。


なのに、

普通に立っているものだから

ナースがパニックになったとのこと。


それから三時間ほど検査などで

病院で拘束されたが、体に異常は

全くないという結論になり、

解放された。


外に出ると時刻はもう朝。


親戚の家を追い出されたばかりで

帰る家もない。


死ぬのだから、

着替えも持ち物もいらないと

思って手ぶらで出てきてしまった。


服も病院で貰ったこの一着のみ。


これから……どうするか……


正直、あの親戚の

家に帰るつもりはない。

あそこの学校にも通いたいとも思わない。


どこか遠くへ。

誰も俺のことを

知らない遠くに行きたい。


「なあ、ルーナ。

これから俺はどうすればいい。

この方角に進めば幸せに

なれるみたいなのは分からないのか?」


『分かりません。

私が干渉できるのは

あの異世界のみです。

故に、成瀬敬を

サポートする力はありません。

ですので、この世界での幸せは

貴方自身で手に入れてください』


幸せね。


あっちでの幸せも

高めないといけないのに。


この世間知らずの女神を俺と

同じ境遇に叩き落としてやりたい。


そんなことを思いながら

歩き出した。


「なあなあそこの姉ちゃん」


「今一人?」


「学校とか行ってないで

俺らと遊ぼうぜ」


「や、やめてください!

離して!」


とりあえず、

知り合いに会いたくないので

人気の少ない橋の下に

避難したときだった。


数人のチンピラが女子高生を

ナンパしている現場に

出くわしてしまった。


「だ、誰か」


女子高生が叫ぼうとした瞬間、

男が無理矢理彼女の口を手で押さえる。


これはナンパを超えている。

普通に犯罪だろ。


「おい、誰か見てるぞ」


うわ最悪。

警察に連絡を……

スマホなかった……


逃げるか?


あの女子高生を置いて?


いや、待て。

あの女子高生は赤の他人だ。


助ける義理はない。

なんで今まで酷い扱いを

受けてきた俺が、

危険を冒してまで人助けを

しなきゃならないんだ。


「おーい逃げんなよ?」


だが、結局その場から

足が動かなかった。


恐怖が原因か。

それとも、罪悪感が生まれたか。

俺にもよく分からない。


男たちに囲まれてから、

今頃になって逃げればよかったと

後悔した。


「どうするこいつ」


「殺さない程度に殴れ」


「おっけー」


はあ……結局、

一度生き返ってきても

この世は俺にとって、


「おらっ!!!」


残酷だ。


男の強烈な右こぶしが左頬を襲った。

すかさず、顔面に膝蹴りが入る。


男たちの嘲笑。

俺が膝から崩れ落ちるまで、

男たちは暴行を加えてきた。


カチャカチャと男がベルトを

外す音が聞こえ、

女の助けを求める声が耳に届く。


こんなことになるなら

死んだままがよかった。


くそ……くそ……

体が……うごか……

ん?


あれ? 動く。


俺はひょいっと立ち上がった。


あれだけ殴られたのに。


「お、おい!

こいつ立ち上がったぞ!?」


チンピラたちは驚いている様子だが、

俺も同じくらい驚いている。


殴られているときは痛かったのに、

今は何ともない。


何でだ?


「こいつ!」


動揺を顔に滲ませながら

チンピラの一人が殴りかかって来る。


あれ?


俺はそれをひょいっと回避した。


見える。

さっきは怖くて目を

つぶってしまったが、

今はしっかりと目を開いていた。

だから、男の動きが分かった。


けど、今までこんなことなかった。


自分の体も思うように動く。

とにかく、速い。


これってもしかして、

ガブリエルにステータスを

底上げしてもらったからか?


「おい、ルーナ」


『はい』


「俺の今のステータスを教えてくれ」


「なに一人で喋ってんだ!?

舐めてんのか?」


チンピラが顔を真っ赤にしながら

襲い掛かって来る。


『かしこまりました。

成瀬敬のステータスは

力 302

すばやさ 490

体力 333

知力 1230』


「は? めちゃくちゃ上がって」


そのとき、チンピラが目前に迫った。


だが、ちょうどルーナとの

会話に集中していて、


「邪魔」


まるで、チンピラをハエかのように

右手で叩いてしまった。


「ぐあああああ!」


瞬間、チンピラが壁に吹き飛んだ。


え……?

今……俺軽く払っただけだぞ?


力302

ってとんでもなく凄いステータスなのか?


『参考までに申しますと、

成瀬敬と同じ性別と年代の方の

平均ステータスは20前後です』

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