Discord/不協和音


 深夜の駅前で補導もされずにたむろしているなら、魔法少女だ。


「ふぉぉぉッ、ルカさまが配信やっとるっ!?」

「マジか!? でかした!」

「え、でもこれ、誰?」

「新人だって」


 地下鉄の出入り口前に、かしましい連中。確か、同じコミューンの二人組デュオふた組。このまま駅に入らないなら、気まぐれに四人でユニゾンといったところか、あるいは、ほうっておかれるのをいいことに夜遊びか。


 なかなか動かないので、自分のスマホを見る。

 魔法少女専用のSNS。


 一般人には認識阻害の魔法がはたらき真っ黒にしか見えないそのタイムラインに、『ハルコン★テュポン』のIDで生配信動画が投稿ポストされている。動画プレーヤーの中では青い競泳水着のような衣装をまとい、いかついガントレットをはめたポニーテールの魔法少女がレスポールくさいギターをかき抱いて歌っている。ちょっとどうやって弾くんだと気になってヘッドホンのプラグをスマホにすと、スピーカーの割れきった爆音が飛びだしてきて吐きそうになった。


「でっけぇ声……」


 吐き捨て、ヘッドホンごと耳からはずす。


 眼下で少女たちの四人組は爆笑していた。ヘタとかそういう次元を超えている、そのツメは頭がおかしい、ある意味神動画、ルカさま最高――フェンスに背を預け、テナントビルの屋上から冷えた目で見おろしているうち、思った言葉が口から出た。


「自分で弾いてるだけマシだろ」


 新入りの醜態しゅうたいに満足したらしい少女たちが、駅とは反対向きに歩きはじめる。


 今日はあいつらだな、と決めて振り返ったとき、屋上の入り口から男が近づいてきていたことを見て知った。


あか!」


 目が合うなり、男が叫んだ。


 長めの黒髪に黒いコート。薄くあごひげを生やした男だ。夜なのに丸目のサングラスをしている。姿を見た途端、「トバリ……」と思わず声がもれた。


「探した、赤緒」男はフェンスの向こうで立ち止まった。少し疲れた様子で。


「よかった。先に見つけられて」

「……なにしに来たんだよ」

「助けにだ。おれが悪かった。だから、おれがいっしょに」

「いまさら、そんな調子のいいこと聞けるわけ――」

「赤緒ッ!」

「っ!?」


 男に大きな声で呼ばれて、思わず体が凍った。男も無意識だったらしく、すぐ我に返った顔で青ざめる。「す、すまん……」と声をすぼめて謝る姿を見ていると、冷えた目の奥が氷で焼けるように逆に熱くなってきた。


 夜景を背にして、屋上のふちに立つ。黒いボストンバッグとアーミーグリーンのギターケースを持ちあげる。

「なにをする気だ? 赤緒?」とうろたえる男をにらみつけ、「っるせぇな」と吐き捨てた。


「てめーらになにがわかんだよ? のくせにッ!」


 つま先でコンクリートを蹴って背後に跳ぶ。


 浮遊感の頂点で変身の呪文を唱える。異空間フィールドへの扉が小さくひらき、ひとりの魔法少女が夜空に消えた。

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