1-8 おまかせできますか?
「ハァイっ、みなさま? ごきげんよんよんっ、ハルコン★テュポン! ルカコのチャットパーティーへ、ようこそっ!」
「は!? ちょっ、ルカぁ!?」
「この時間じゃ見るやついなくないか?」と、キッカの
「だいだいほかの魔法少女になんか、みんな興味ないだろ? その機能も意味ねーよな」
「あらあら。これだからおじさんマスコットは」
おおげさに
「同じことをしてる人間に熱心な女の子は多いんですのよ? マジカル★ネットでルカコがひと声かければ、ほらこのとおり」
配信画面上にテキストチャット参加者からポコポコとコメントが投下され始める。「ルカ様♡」「ルカさまぁ~!♡」「よんよんっ♡」と意味のない声援ばかりだがなかなか途切れない。ちなみに配信タイトルは『極貧コミューンに新入り最弱魔法少女!? 逆境デビュー生配信!!』とあった。ヨサクは「げ」とうめいて、マスコットにあるまじきいかつい表情を
そんな琉鹿子たちの
ステージ上の雀夜は、上体をひねってなにかを探していた。
腰のそばで浮遊している金属板。厚みのあるそのふちに、小さな穴があいている。
その穴に、シールドケーブルの端子をさし込む。
途端、元から折りたたまれていたかのように、金属板がパタパタと広がり始めた。両腰、肩のそばに浮いていたものも一様に。
すべての金属板が巨大な手のひらのように広がり終えたとき、ィィィィン、と耳ざわりな高音がステージを渡った。琉鹿子のステージにもあった、魔法少女の浮遊パーツは、見かけによらずスピーカーの役割を果たすらしい。
「
手もとの黄色いギターが声を出して指示を与えてくる。雀夜はぎこちなくそれを抱え直しながら、片手であごの下を探った。ガントレットの指先はとがっているが、肌も衣装の布地部分もふしぎと傷つけずになでていける。が、雀夜は一度手を止めた。
「……ユウキさん」
「ん、なに? 慌てなくてだいじょうぶだよ?」
「いえ……」
見おろす。ユウキは巨体の天使たちに周りを囲まれていることを言ったのだろう。だが、その体が変異したギターの
「……痛くないですか?」
「へ? あ、うん……やっ、でも、ちょっとね?」
「すみません。気がつかなくて……」
「さ、雀夜ちゃんのせいじゃないからっ。気にしないで? そのまま続けて?」
雀夜はまだ少しためらったが、いま以上にうまい抱え方も思いつかなかったので、あきらめてまた手を動かす。
首元からはチョーカーが消え、ハイネック化した衣装の襟に濃い
見る間に光は線を描き、大きな枠と、その端に謎の記号やゲージのようなものを並べていく。視界全体がインターフェースの散らばるゲーム画面のようになる。
その中央にさらに小枠がひらき、なにかのリストのように文字列が並んでいた。文字はアルファベットも多いが、『音響設定』『楽曲選択』などの日本語も見える。
「見えたかな? 音響はそのままでいいよ。マジカル★アンプも自動調節だから」
「アンプとは?」
「えぇと、知らない人的には、スピーカー、みたいなものかな。音の出方を細かく変えられるんだ。興味ある?」
「いえ。いまは」
「そ、そうだねっ。えと、じゃあ、『
指示を聞いて、雀夜は直感的に文字列に指を伸ばしていた。なんとなくの距離感ぴったりに手ごたえがあり、新しくより大きな枠が出現する。今度は本当によくわからない言葉と記号の
「そこもいじらなくていいよ。ハイパーオートなら、雀夜ちゃんの記憶からチョーカーが曲を選んでくれる。雀夜ちゃんが歌いやすいアレンジも自動でしてくれるんだ」
「わたしの記憶……」
「もちろん、自分で選んでもいいけど……」
雀夜は首を横に振った。
これがいいと言える曲など雀夜にはない。テレビや街角から流れてきても、歌手や作曲家が誰かとすら意識したことがなかった。
「ここを?」
自ら枠の角の大きいアイコンを指す。ユウキが「あ、うんっ」と慌てて答えるのを待って、『OK』と記されたそれをガントレットのツメで突く。
出ていた枠がすべて消え、代わりにひとつ、小さな円が現れた。
円の中には、ひとつの角が真右を向いた正三角形がひとつだけ。
「いよいよだ。雀夜ちゃん」
「はい」
「そのボタンをタップしたら、演奏が始まる。音楽が出る。ただの振動でも電気信号でもない、きみのキラメキが、音になって流れだすよ」
「はい」
「……怖くはない?」
「いいえ」
「じゃあ、ワクワクは?」
「わく……?」
よどみなく答えていた雀夜は、不意に
「たとえおまかせの自動演奏でも、魔法はきみから作られるもの。きみの魔法、きみの音楽だ」
「わた、しの……?」
「そうだよ。そしてボクは、きみのマスコット。きみのためのパートナー。きみの
魔法を。
音楽を。
きみのキラメキを。
――ワン、
――トゥ、
――スリー、
――フォー、
「行くよ? マジカル★ライブ、スタートッ」
気がつけば、
光がはじけ、虹色の風になる。
うねる風の中へ飛びこむように、ユウキの
開幕からねばり強く引き裂くような激しいリフ。雀夜はたちまちピンと来た。
唯一の遊び道具として持っているポータブルゲーム機。それでずっとむかしにプレイしたことのある、RPGソフトの主題歌だ。
そして音楽とともに、別のものが頭に流れこんでくる。
この曲がこの世にある意味を伝えようとするかのような、言の葉の群れ。
(歌詞が……)
歌いだしを思い出す。
異なるビートで、同じメロディを、二回。
そして、合図を
「歌って! 雀夜ちゃんッ!」
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